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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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奪取

第8章 戦闘


駆逐艦の照準ビームがブラッククラウン号を捕捉するたびに、警報が艦内に響く。

赤い警告灯が点滅する。

そのたびに、ブラッククラウン号は船体各部に設置されたスラスターも使って、急機動を繰り返し、捕捉をはずす。

「また来る!」

ルナが操縦桿を押し込む。

航路図に赤い線が走る。

帝国駆逐艦の粒子砲。

空間を粒子の光が貫いていく。

ルナは回避運動を続けた。

ブラッククラウン号は星間流の中で次々と軌道を変える。

視界がわずかに歪む。

慣性制御が追いつかず、体がシートに押し付けられる。

「またかすめた。」

ガロンが苦笑いする。

「星間流の乱れで、駆逐艦の射撃管制、精度が落ちてるな。」

ルナが笑う。

「私の操縦がうまいからよ。」

リアが言う。

「中距離迎撃艦です。接近してきます。」

航路図を見る。

中距離位置の駆逐艦が向かって来る。

距離はおよそ八十万キロ。

ガロンが言う。

「まだ遠い。」

アルクが言う。

「次が来る。」

帝国軍は連続射撃を始めた。

荷電粒子ビームは光速。

だが照準ビームに捕捉されてから粒子砲の発射、着弾までにはタイムラグがある。

そのわずかな時間。

ブラッククラウン号は回避運動で射線をはずす。

ルナがアルクの指示で船を機動させ、不規則に変化する星間流に乗せる。

ブラッククラウン号は波の上を滑るように動いた。

船体が軋む音が低く響く。

細かな振動が足元から伝わり、歯の奥まで震える。

「ミサイル多数接近!」

リアが叫ぶ。

迎撃ミサイルシステム、近距離迎撃レーザー砲が自動的に起動する。

小型の迎撃ミサイルが発射され、大量の子弾を敵ミサイルの予想進路にばらまく。

それを突破した敵ミサイルをレーザービームが迎え撃つ。

「ミサイル第一波、全弾破壊」

リアのホッとした声。

しかし、その声がすぐにひきつる。

「ミサイル第二波、来ます。すごい数です!」

警報が耳に刺さる。

赤い表示が視界を埋め、距離感が一瞬狂う。

「迎撃ミサイル、もう無いぞ!」

ガロンが叫ぶ。

ルナがアルクを見る。

「操縦、代わる。」

アルクが操縦桿に飛びつく。

宙を見つめ、操縦桿を小刻みに動かし、急加速する。

「星間流の隙間に突っ込む。」

ブラッククラウン号の船体がきしみ、大きく揺れる。

追ってきたミサイル群はセンサーを乱され、ブラッククラウン号を見失う。

「あんまり揺らさないで! 作業ができない!」

ノアが叫ぶ。

「無茶するな。船が持たないぞ」

ガロンが苦笑いする。

アルクがノアに尋ねる。

「どこまで進んだ!?」

ノアが答える。

「キーは見つけた。今、アクセス用のパスワードを送信する!」

操縦席の空気が一瞬止まる。

ルナが叫ぶ。

「ほんと?」

「うん!」

ノアが画面を指す。

「航路統制キー!」

アルクが言う。

「急げ!」

ノアの指が端末の上を踊る。

「パスワード、通った……でも不安定だ!」

ノアが叫ぶ。

「転送速度が上がらない!」

リアが聞く。

「時間は?」

ノアが答える。

「四分はかかる。」

ガロンが呻くように言った。

「長いな。」

ルナも言う。

「四分か……。」

アルクが言う。

「耐える。」

その瞬間。

別の警報が鳴る。

リアが叫ぶ。

「外周警戒艦が動きました!」

航路図を見る。

外周警戒駆逐艦。

高速接近。

ルナが叫ぶ。

「速いです!」

帝国駆逐艦は推進力が強い。

星間流の乱れの外を迂回して迫ってくる。

ガロンがうなる。

「挟まれる。」

リアが言う。

「近接防御艦も動いています。」

三隻、すべてが動き始めた。

ブラッククラウン号は包囲されつつあった。

ルナが言う。

「来るよ!」

ビームが、またかすめた。

星間流が揺れ、ブラッククラウン号の船体が震える。

リアが言う。

「シールドは?」

アルクが首を振る。

「使わない。」

シールドはエネルギーを大量に消費する。

駆逐艦の攻撃に耐える強度もない。

回避するしかない。

アルクは操縦桿を握り続ける。

ビームがまた船体のすぐ横を通り過ぎる。

ガロンが言う。

「ぎりぎりだな。」

ノアが叫ぶ。

「転送、あと二分!」

ルナが言う。

「長いね!」

航路図が赤く染まる。

帝国駆逐艦が距離を詰めてくる。

だが星間流の迷路がある。

アルクが操縦桿をわずかに動かす。

ブラッククラウン号は星間流の波を飛び越えた。

その瞬間。

近接防御艦の射撃。

粒子ビーム。

リアが叫ぶ。

「近い!」

ビームがブラッククラウン号の背後を通過する。

ノアが叫んだ。

「転送九十パーセント!」

ガロンが上ずった声で叫ぶ。

「あと少しだ!」

帝国駆逐艦がさらに接近する。

砲撃の精度が上がる。

ブラッククラウン号は回避を続けた。

アルクの額に汗が浮かぶ。

呼吸が浅くなる。

一瞬でも判断を誤れば終わる。

それは全員が理解していた。

「アルク!」

ルナが心配そうに言う。

アルクが言う。

「大丈夫だ。」

その瞬間。

ノアが叫んだ。

「……取れた! ギリギリ!」

操縦席が一瞬静まり返る。

ノアが叫ぶ。

「航路統制キー、取得!

 リンク切断した!」

ノアが通信を切る。

アルクが叫ぶ。

「離脱!

 みんな、体を固定しろ。」

アルクは、ブラッククラウン号の補助融合炉まで全力稼働させた。

推進機関が最大出力を発揮する。

クルーは慌ててシートに座り、体をベルトで固定する。

視界が一瞬白く飛ぶ。

音が消える。

次の瞬間、すべてが戻る。

重力が急激に変わる。

内臓がわずかに遅れてついてくる感覚。

身体がシートに押し付けられる。

ブラッククラウン号は星間流を抜ける。

星間流のさらにさらに深い層。通常空間との境すれすれまで。

普通の船は絶対に入らない、いや、入れない層に。

星間流は乱れ、乱流となる。

ブラッククラウン号のブリッジは、船体がきしむ嫌な音で会話もできない。

ガロンが怒鳴る。

「大丈夫か?!」

アルクは笑う。

「大丈夫!」

アルクの目は、星間乱流の中、わずかに存在する細い安全帯域をしっかりと見ていた。

帝国駆逐艦の荷電粒子ビームが空間を裂く。

だが、もう遅い。

ブラッククラウン号は星間流の迷路へ消えていく。

ガロンがまた怒鳴る。

「追って来てないよな?」

リアが航路図を確認する。

「大丈夫です。

 駆逐艦、減速。遠ざかっています。」

ブラッククラウン号の艦橋に、ようやく静けさが戻った。

さっきまで鳴り響いていた警告音が止み、代わりに、低い機関音だけが残った。

誰もすぐには口を開かなかった。

ノアは端末に手を置いたまま、深く息を吐く。

「……生きてる、みんな。」

ガロンが短く笑う。

ルナは背もたれに体を預けた。

「ほんと、無茶するんだから。」

アルクをにらむ。

リアは何も言わず、ただ前方スクリーンを見つめていた。

その視線の先で、星々がゆっくりと流れていく。

アルクだけが、操縦桿を握ったまま動かない。

そして静かに言った。

「キーを送ろう。」

辺境星域。

無数のコロニー。

そこにある灯台。

それを動かす。

航路を取り戻す。

ブラッククラウン号。

その船の中に――

帝国の航路統制キーがあった。


第9章 奪取

帝国駆逐艦の重力反応は、ほとんど消えかかっていた。

アルクが操縦桿から手を離した。

「ふっ。」

小さな息を吐く。

操縦席の緊張が、ゆっくりと溶けていく。

ノアは端末を抱えたまま椅子に沈んでいた。

「ほんとに……取れた。」

アルクが言う。

「念のため、確認を。」

ノアがうなずく。

画面を操作する。

ホロ画面が開く。

そこに現れたのは、帝国灯台管理システムの内部データ構造だった。

ノアが言う。

「間違いない。航路統制キーだよ。」

リアが画面を見つめる。

帝国軍の灯台管理コード。

彼女には見覚えがあった。

「本物です。」

ガロンが腕を組む。

「これで灯台を動かせるのか。」

ノアが言う。

「うん。でも直接には無理。」

ノアが説明した。

「このキーは統制権。」

「でも灯台は各コロニーで管理してる。」

リアがうなずく。

「灯台は帝国の設備ですが、運用は現地です。」

ガロンが言う。

「つまり、ここから全部動かすのは無理か。」

ノアがうなずく。

「通信一本じゃ無理。」

アルクが言った。

「ケードにキーを送る。」

ルナが顔を上げる。

「辺境自治ネットワークの?」

アルクがうなずく。

「そうだ。」

リアが言う。

「各コロニーで再同期作業が必要になります。」

ノアが言う。

「そのための自治ネットワークだよ。」

ルナが笑う。

「便利な友達だね。」

アルクが通信を開いた。

数秒後。

スクリーンに男が現れた。

トマス・ケード。

辺境自治ネットワーク代表。

落ち着いた顔。

鋭い目。

ケードが言う。

「無事か?」

アルクが答える。

「取った。」

ノアが端末を掲げる。

「航路統制キー。」

ケードの表情が一瞬だけ動いた。

「……本当にやったか。」

アルクが言う。

「送る。」

ノアが通信回線を接続する。

「暗号化、多重ルート。」

リアが言う。

「帝国軍に捕捉される可能性があります。」

ノアが笑う。

「分かってる。補足されても通信の行き先は分からないから。」

通信が始まる。

データ量はそれほど多くない。

だが、このデータは辺境星域の航路を救う。

ケードが言う。

「受信した。」

数秒の沈黙。

ケードが続ける。

「これから自治ネットワークに情報を流す。」

アルクがうなずく。

「頼む。」

ケードの後ろには、いくつものスクリーンがある。

そこには、様々な情報が映し出されていた。

コロニー。

通信拠点。

辺境灯台。

ケードが指示を出す。

「各コロニー、灯台管理拠点へ送信。」

「再同期準備。」

ノアがその様子を見つめる。

辺境星域の通信網が動いていた。

コロニー間の連絡。

灯台管理員。

技術者。

すべてが動き出す。

ケードが嬉しそうに言う。

「このキーがあれば、灯台の同期設定を戻せる。」

辺境星域の数百の灯台。

その同期が今は止まっている。

「では始めよう。」

「再同期開始。」

ノアが息を呑む。

画面の灯台表示が変わる。

赤色が一つ、青に変わる。

ルナが小さく言う。

「動いた。」

ノアが言う。

「同期回復。」

リアが言う。

「灯台ネットワークが再構築されています。」

ケードが静かに言う。

「まだ一部だ。」

灯台は広範囲に散らばっている。

すべてを同期するには時間がかかる。

だが――。

動き始めている。

アルクは航路図を見た。

航路灯台。

一つ。また一つ。

光が戻る。

ノアが言う。

「航路が……」

リアが続けた。

「回復しています。」

ルナが笑った。

「これで飛べるね。」

ガロンが言う。

「辺境の船が助かる。」

ケードが画面越しにアルクを見た。

「君たちのおかげだ。

ありがとう。」

アルクは首を振った。

「まだ終わってはいない。」

「分かっている。」

ケードの表情が少し硬くなる。

「帝国は必ず動く。」

ノアが言う。

「だよね。」

ケードがうなずく。

「だが今は航路を戻そう。」

画面の灯台が、さらに青に変わっていく。

航路が戻る。

辺境の宇宙に、再び道が生まれていく。

アルクは航路図を見ていた。

航路。

灯台。

そして帝国。

この戦いはまだ終わっていない。


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