接近
第7章 接近
ブラッククラウン号は静かに進んでいた。
操縦席の照明は落とされ、ホロ画面だけが淡く光っている。
ルナが操縦桿を握る。
「星間流、かなり荒れてる。」
アルクが前方を見た。
「情報通りだ。」
この宙域は重力が複雑に絡み合っている。
小惑星帯。
微小重力井戸。
航路灯台の乱れた補正信号。
普通の船なら近づかない。
だがブラッククラウン号はその中を進んでいる。
ノアが端末を叩く。
「帝国軍のセンサー、この宙域では精度が落ちてると思うけど……
そろそろ見つかる頃だよ。」
ホロ画面に球状の警戒圏が表示される。
三つの球。
外周警戒駆逐艦。
中距離迎撃駆逐艦。
近接防御駆逐艦。
その中心に同期統制艦。
ノアが言う。
「外周警戒艦のセンサー範囲に入った。距離八十万キロ。」
ルナが笑った。
「ここからだね。」
アルクが言う。
「このルートで。」
ブラッククラウン号は通常航路を使っていない。
星間流の乱れの影を縫う。
センサーに映りにくい軌道。
ガロンが後ろから言った。
「軍艦はここには入れない。」
リアがうなずく。
「危険すぎます。」
帝国軍艦は重い。
推進力は強いが、軌道修正が遅い。
この宙域では事故になりやすい。
ルナが言う。
「距離?」
ノアが答える。
「三十万キロ。」
操縦席の空気が少し変わる。
帝国軍がすぐそこにいる。
アルクが言った。
「ここからはゆっくりだ。」
ルナが速度を落とす。
推進噴射は最小。
星間流に乗る。
ブラッククラウン号は滑るように進んだ。
ルナが小さく言う。
「見つかるかな?」
ノアが答える。
「もう見つかってるよ、たぶん。」
リアが静かに言う。
「完全に隠れるのは無理です。」
ノアが言った。
「でも、この星間流のノイズがある。」
航路図に波が走る。
距離が縮む。
十万キロ。
統制艦の姿はまだ目視では見えない。
だがセンサーには映る。
巨大な質量。
「でかいな。」
ガロンが言う。
ノアが説明する。
「灯台管理システム積んでる。通信アンテナも巨大。」
ルナが言う。
「つまり、いい的?」
アルクが苦笑して首を振る。
「撃たないよ。」
今回の目的は戦闘ではない。
航路統制キー。
それを盗む、それだけだ。
ノアが言う。
「距離、八万キロ。」
ガロンが言う。
「気づかれてるな。」
アルクがうなずく。
「もう気づいている。」
アルクは航路図を指した。
外周警戒駆逐艦。
「探査ビーム、来た!」
ノアが言う。
「まだ行ける。」
ルナが言う。
距離、六万キロ。
ノアが言う。
「あと一万。」
アルクがうなずく。
「通信準備。」
ノアが端末を開いた。
パスワード。
帝国内の協力者から流れてきたデータ。
帝国軍通信仕様。
ノアが小さな声で言う。
「ほんとにこれ使えるのかな?」
リアも少し不安そうに答える。
「帝国軍の暗号形式ですが……。」
距離、五万キロ。
ルナが言う。
「入った。」
「通信リンク開始!」
アルクが指示する。
ノアが手を動かす。
ブラッククラウン号の通信アンテナが展開する。
狙いは――
同期統制艦。
「リンク開始。」
ノアの報告。
通信ビームが放たれる。
数秒。
静寂。
ノアの眉がわずかに動く。
「……待って、応答が不安定。」
画面にノイズが走る。
通信が一瞬途切れた。
「くそ……星間流が乱れてる。通信が揺らぐ。」
ノアが歯を食いしばる。
「もう一回……!」
一瞬の沈黙。
「……つながった!」
ルナが驚く。
「本当に……?」
ノアが笑う。
「パスワード通った! 本物だった!」
アルクが言う。
「キーは?」
ノアが答える。
「今、検索中!
……でも遅い。」
ノアが暗い声で言う。
「通信が断続的だ。完全にリンクできてない!」
その瞬間、警報が鳴った。
***
「距離五万キロ。閣下、さすがにもう……」
副長が慌てている。
「そうだな……。
ここまでにしよう。
攻撃開始。」
レイグナーは命じた。
***
帝国駆逐艦の照準ビームがブラッククラウン号を捕捉した。
航路図が赤く染まる。
ガロンが叫ぶ。
「艦載砲の攻撃、来るぞ!」
「回避運動、開始!」
アルクが指示する。
「任せて! スラスター全開!」
ルナが応じる。
ブラッククラウン号は急旋回した。
不規則に進路と速度を変更し、駆逐艦からのビーム攻撃に対処する。
「ジャミング、開始します。」
リアの報告。
航路図に赤い線が走った。
帝国駆逐艦の荷電粒子ビーム。
ガロンがうなる。
「また撃ってくるぞ。」
ノアが叫ぶ。
「キー、まだ見つからない!」
ルナが歯を食いしばる。
「早くして!」
アルクが静かに言った。
「時間を稼ぐ。」
帝国駆逐艦の砲塔が光る。




