表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/61

作戦

第5章 作戦


出発前の静かな時間。

ドックに全員がそろっていた。

ルナが言う。

「帝国軍かぁ……、さすがに今回はちょっと重いね。」

ノアが笑って肩をすくめる。

ガロンも低く笑った。

「逃げる気はないんだろ?」

アルクは短く答える。

「ない。」

リアが小さくうなずく。

「……私もです。」

ルナが笑う。

「じゃあ決まりだね。」

誰も無理に気負わない。

だが誰も引かない。

それが、ブラッククラウンのやり方だった。

コルベックは腕を組んだままブラッククラウン号を見上げていた。

アルクを見て言う。

「まったく……お前は昔から無茶ばかりだ。」

そう言いながらも、その声にはどこか誇らしさが混じっていた。

アルクは少し照れたように笑う。

「育てたの、コルベックさんですよ。」

コルベックは鼻を鳴らした。

「だから余計に心配なんだ。

 ……だがまあ、お前なら大丈夫だろう。」

アルクは静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。

 俺がここまで来られたの、全部コルベックさんのおかげです。」

コルベックはそれ以上何も言わず、ただ軽く手を振った。

「さっさと行け。

 船長。」

ブラッククラウン号はドックを離れた。

コルベック造船所の巨大な構造物が、ゆっくりと後方へ流れていく。

操縦席は静かだった。

ルナが操縦桿を握る手に力をこめる。

「行くよ。」

皆がうなずく。

ブラッククラウン号は加速した。

星間流に乗る。

***

数日が過ぎる。

艦橋での作戦会議。

ノアが航路図を開いた。

ケードから送られてきた情報。

「目標はこの宙域。」

航路図の一点が赤く点滅する。

同期統制艦。

その周囲に三つの光点。

「護衛駆逐艦。」

ノアが言う。

「外周警戒が一隻。」

「中距離迎撃が一隻。」

「近接防御が一隻。」

ガロンが腕を組んだ。

「典型的な防御配置だな。」

リアが言う。

「帝国軍の基本配置です。」

ルナが言った。

「真正面から行ったら?」

ガロンが即答する。

「死ぬ。確実に死ぬ。」

ノアが小さく笑う。

「たぶんね。」

アルクは航路図を見つめていた。

赤い点。

同期統制艦。

その周囲に護衛。

普通の船なら近づくことすら難しい。

だが――

アルクは別の画面を開いた。

星間流マップ。

複雑な流れが描かれている。

この宙域は重力が入り組んでいた。

複数の小惑星帯。

微小重力井戸。

そして灯台同期の乱れ。

安全な航路しか使えない普通の艦は、同期統制艦には近づけない。

だがブラッククラウンは違う。

「ここ、入れる。」

アルクが指さした。

星間流の細い流れ。

ルナが笑う。

「なるほど。

 そこ通るんだ。」

ガロンが言う。

「駆逐艦は?」

アルクが答えた。

「通れない。」

リアがマップを見る。

「確かに。

 この宙域は大型の軍艦には危険です。

 同期統制艦は観測装置の精度が高いので入れますが。」

ノアが言う。

「近づければ通信できるよ。

 パスワードは準備してる。いつでも送信できる。」

ルナが聞く。

「距離は? どこまで接近すればいい?」

ノアが答える。

「五万キロ。」

ガロンが言う。

「近いな。駆逐艦の粒子砲の射程距離内だ。」

リアが言う。

「通信リンクとしては最大距離です。」

ノアが言う。

「それより遠いと帯域足りない。」

ルナが言った。

「つまり……、五万キロまで近づく。」

アルクがうなずく。

「そこでリンク。」

ノアが言う。

「キー吸い出し。」

ガロンが言う。

「その間、帝国軍が来る。」

ルナが笑った。

「盛り上がるね。」

アルクは静かに言った。

「時間は?」

ノアが答える。

「三分。最短でも。」

ガロンが笑った。

「三分も近くにいれば、十分撃たれるな。」

ノアが続ける。

「仕方ないよ。

 キーの吸い出しは、たぶん戦闘中になる。

 星間乱流の影響で高速通信は使えない。低帯域になるからコピーに時間がかかる。」

リアが言う。

「駆逐艦の粒子砲なら、百万キロから射程です。」

「照準誤差に発射から着弾までのタイムラグ、それに回避運動も加わるからな。

 有効射程はずっと短い。簡単には当たらない」

ガロンが言う。

ルナが肩をすくめる。

「当たらなければいい。」

アルクが言った。

「当てさせない。」

操縦席が静かになる。

ノアが尋ねる。

「このキー、盗んだらどうなる?」

リアが言った。

「帝国の制御を解除して、灯台の同期を戻せます。」

ノアが言う。

「辺境の航路が復活するね。」

ガロンが低く言う。

「帝国は黙ってないな。」

アルクが無言でうなずいた。

***

ブラッククラウン号は航路を進む。

星間流が揺れている。

灯台同期の乱れ。

航路は不安定だ。

ルナが言う。

「目標宙域まで、あと二時間。」

ノアが端末を見た。

「帝国軍の通信を拾った。」

帝国軍の通信は、基本、指向性通信で暗号化されている。

簡単には傍受できない。

傍受しても、解読できない。

それでも、たまに平文の通信を拾えることがある。

ノアが言う。

「作戦名が出てる。」

アルクが聞いた。

「何だ?」

ノアは画面を見た。

「……辺境航路安定化作戦。」

ルナが笑う。

「皮肉のつもり?

 不安定化作戦の間違いでしょ。」

アルクは航路図を見ていた。

作戦の中心。

帝国軍。

そして、同期統制艦。

アルクは静かに言った。

「作戦開始まで、あと二時間。」

ブラッククラウン号は進む。

帝国軍の防御網へ。

航路を取り戻すための戦いが――

今、始まろうとしていた。


第6章 帝国軍

辺境星域。

作戦宙域。

帝国軍同期統制艦アグリアス。

その周囲には三隻の駆逐艦が展開していた。

外周警戒艦。

中距離迎撃艦。

近接防御艦。

三層防御。

帝国軍の標準的な護衛配置だった。

統制艦の艦橋で、一人の男が航路図を見ていた。

若い。

軍服には中将章。

ケルバス・レイグナー中将。

今回の作戦の現場指揮官だった。

副官が報告する。

「灯台同期、現在も停止状態を維持。」

レイグナーはうなずく。

「航路の状況は?」

「辺境航路の通行量、四十二パーセント減少。」

副官が続ける。

「漂流船の報告、七件。」

「輸送船遅延、十九件。」

レイグナーは静かに航路図を見ていた。

辺境星域。

秩序の外。

だが帝国の物流は、この宙域まで通っている。

副官が言う。

「作戦は順調です。」

レイグナーは短く答えた。

「そうだな。」

だが、その声に喜びはなかった。

副官は少しためらって言う。

「元帥から通信が来ています。」

レイグナーが振り向く。

「ドライゼン元帥?」

「はい。」

通信が開いた。

ホロ画面に男が現れる。

ヴァルケン・ドライゼン元帥。

帝国軍総司令官。

強硬派の中心人物。

鋭い眼差し。

威圧的な声。

「ケルバス。」

「元帥。」

レイグナーは敬礼した。

ドライゼンが言う。

「報告は見た。

 航路は止まっているな。」

レイグナーが答える。

「はい。灯台同期は完全に遮断されています。」

ドライゼンは満足そうにうなずいた。

「よろしい。

 辺境は帝国の航路に依存している。

 航路が止まれば、奴らは従う。」

レイグナーは黙って聞いていた。

ドライゼンが続ける。

「改革派はこの作戦に反対した。」

その声には軽蔑が混じっていた。

「だが結果を出せば黙る。」

レイグナーが静かに答える。

「理解しています。」

ドライゼンは少し笑った。

「お前は優秀だ。だから今回の指揮を任せた。」

レイグナーは何も言わなかった。

ドライゼンが最後に言う。

「作戦を進めろ。航路は帝国のものだ。」

通信が切れた。

艦橋に静けさが戻る。

副官が小さく言った。

「元帥は強硬ですね。」

レイグナーは航路図を見た。

辺境星域。

航路。

灯台。

そして同期統制艦。

レイグナーは言った。

「帝国は秩序で成り立っている。」

副官がうなずく。

「はい。」

レイグナーは続けた。

「航路も秩序だ。」

そして小さく付け加える。

「だが、秩序は壊れやすいものだ。」

副官は一瞬、言葉をためらった。

そして静かに口を開く。

「閣下……一点、よろしいでしょうか。」

レイグナーは視線を航路図から外さずに答えた。

「なんだ?」

「現在の灯台同期停止により、辺境の補給にかなりの影響が出ています。

 漂流船の増加も報告されています。」

レイグナーは何も言わなかった。

副官は続ける。

「このまま作戦を継続した場合、辺境コロニーの維持が困難になる可能性が……」

副官は言葉を飲み込んだまま、しばらく沈黙していた。

やがて、静かに言う。

「……現場の艦からも報告が上がっています。」

レイグナーは黙って航路図を見ている。

「灯台同期停止の影響で、航路外に逸脱する船が増えていると。

 その中には、民間の輸送船も含まれています。」

短い間。

副官は続けた。

「現場の士官の中には、この作戦に疑問を持つ者も……」

言葉を選びながらの報告だった。

レイグナーがゆっくりと副官に視線を向ける。

その目は冷静だった。

「分かっている。」

短い返答。

レイグナーは表情を変えない。

副官は一瞬、息を止めた。

「だからこそ、早く終わらせる。」

レイグナーの声には迷いはなかった。

だが、どこか硬さが残っていた。

そのとき。

観測員が声を上げた。

「重力反応!」

レイグナーが振り向く。

「距離、約八十万キロ!」

航路図に小さな光点が現れる。

副官が言う。

「小型船です。」

レイグナーは少し驚いた。

「この宙域に商船か?

 よく通れたな。」

そして副官に確認する。

「外周警戒艦からの報告は無かったのか?」

副官はすぐに観測員に確認した。

「報告は来ていましたが、断片的なデータで航跡がつながりません。

 星間乱流の影響でセンサーが不安定になっているようです。」

レイグナーはわずかに目を細めた。

「だから報告が遅れたか。」

観測員が首をかしげる。

「この小型船、航路外から接近しています。通常航路を外れています。」

副官が眉をひそめる。

「こんな機動……」

レイグナーが言った。

「普通の船ではないな。

 機動記録を保存しろ。後で解析する。」

副官が航路図を拡大する。

小型船。

不安定な星間流の中を進んでいる。

副官がつぶやく。

「航路を読んでいる……?」

レイグナーの目が細くなった。

「辺境で噂になっている船……、

ブラッククラウンか?」

小さな声でつぶやいた。

副官が驚く。

「例の船ですか。」

レイグナーは小さくうなずいた。

「ここに現れるとはな……」

レイグナーは命じた。

「監視を続けろ。」

副官が言う。

「迎撃命令は?」

レイグナーは少し考えた。

そして言った。

「まだ出すな。」

副官が驚く。

レイグナーは言う。

「あの軌道……普通の航法ではない。少し見てみたい。

 安心しろ。小型船の攻撃程度でやられる帝国艦などない。」

航路図を見つめる。

ブラッククラウン。

この船が、帝国の航路を脅かしている。

レイグナーはつぶやいた。

「どこまで来る。」

ブラッククラウン号は進む。

星間流の迷路を抜けて、帝国軍防御網へ。

そして――

五万キロ。

その距離まで、あと少しだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ