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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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第五話:ギルドでの報告

昼下がりの冒険者ギルドは、朝の喧騒が嘘のように落ち着いていた。

まばらな冒険者たちが酒を酌み交わす中、ゼロスとアリシアは受付カウンターへと向かう。対応してくれたのは、眼鏡をかけた真面目そうなギルド職員だった。


ゼロスが革袋から魔核をカウンターに広げると、職員は慣れた手つきで鑑定を始めた。赤黒く鈍い光を放つダイアウルフの魔核と、乳白色のホーニーラビットの魔核が、カウンターの上で混じり合っている。


職員「えー…ホーニーラビットの魔核が32個。ダイアウルフの魔核が4個ですね。…損傷もなし、状態良好。確認しました。規定の討伐報酬と素材買い取り額に沿って、金貨2枚と銀貨50枚のお支払いとなります」


アリシア「そ、そんなに!?」


(金貨2枚!?銀貨にしたら200枚…!?家賃だって何ヶ月も払えるし、毎日ちゃんとしたご飯を食べてもお釣りがくる…!)


提示された金額に、アリシアは思わず素っ頓狂な声を上げた。生まれてこの方、金貨など触ったことすらない。

対照的に、ゼロスは差し出された金貨と銀貨が詰まった革袋を、さも当然といった様子で受け取る。その所作には、大金を扱うことへの戸惑いが一切感じられなかった。


ゼロス「まいど~」


ゼロスはカウンターを離れると、ギルドの隅にある、空いていたテーブルへとアリシアを促した。

年季の入ったテーブルの上に、彼は革袋の中身をじゃらりと広げる。金貨と銀貨が、薄暗い照明を反射してきらきらと輝いた。


ゼロスはそれを手早く二つの山に分けると、片方をアリシアの方へと押しやる。

それを見たアリシアは、慌てて手を振って首を横に振った。


アリシア「ゼ、ゼロスさん…!こんなに貰えません!私、今回ほとんど何もしてませんから…!回復魔法だって、自分にしか使ってませんし…」


(実質、ゼロスさん一人で稼いだお金だ。それを山分けなんて、そんな都合のいい話…)


彼女の抗議を、ゼロスはひらひらと手を振って遮った。


ゼロス「気にしない気にしない~」


アリシア「でも…!」


それでも食い下がるアリシアに、ゼロスはふっと真面目な顔つきになった。彼はテーブルに肘をつき、諭すように語りかける。


ゼロス「いいかい、アリシアさん。冒険者は、命あっての物種だ。今回手に入れたこの報酬は、次の冒険で生き残るための投資でもあるんだよ。このお金で、良い装備やポーションを揃えておかないと、いざという時に死んじゃうだろ?」


その言葉には、彼の経験からくるであろう、否定できない重みがあった。


アリシア「…わかりました」


彼女は、ゼロスの真剣な瞳を見て、ようやくこくりと頷いた。


(そうだ…私は、生き残らないと。この人の隣に立つためには、まず、足手纏いにならないようにならないと)


ゼロスは、彼女が納得したのを見て、にっと笑った。


ゼロス「わかれば、よろしい。とりあえず、腹ごしらえだ。昼ご飯食べに行こうか」


アリシア「あ、はい!」


ギルドを出て食堂へと向かう彼女の足取りは、先ほどよりも少しだけ、力強いものになっていた。


ギルド近くにある、冒険者御用達の安くて量が多いことで評判の食堂。

湯気の立つシチューと焼きたてのパンの香りが漂う中で、二人は昼食をとっていた。先ほどの興奮も少し落ち着き、アリシアは真剣な顔でゼロスに尋ねる。


アリシア「でも、装備って言っても、何を買えばいいんですか?」


ゼロス「ん-、とりあえず、その破れた太もも部分のズボン買ったほうがいいんじゃないかな」


ホーニーラビットに切り裂かれたアリシアのズボンは、痛々しい姿を晒していた。アリシアは言われて初めて気づいたかのように、顔を赤らめて破れた部分を手で押さえる。


アリシア「でも、そんな、ズボンなんて銀貨3枚も払えば立派なものが買えますし…もっと他に重要なものが…」


ゼロスは、スプーンを置くと、真面目な顔でアリシアを見つめた。


ゼロス「アリシアさん…」


アリシア「な、なんでしょうか…」


その真剣な眼差しに、アリシアはゴクリと喉を鳴らす。


ゼロス「冒険者のズボンと、一般人の使うズボンは、素材からして全く違うんだよ」


アリシア「と、言いますと…?」


ゼロス「**魔素まそ**が流れるかどうかさ。魔素がスムーズに流れる素材でできた服は、身体能力を僅かに向上させてくれるし、何より頑丈さが段違いなんだ」


アリシア「あ…なるほど」


彼女は、自分の知らなかった冒険者の常識に、一つ賢くなったのだった。


ゼロス「そう。魔素が流れることで、素材そのものに防御力が生まれる。これが一般的な服と冒険者用の服との決定的な違いさ」


アリシアはその説明に深く頷き、恐る恐る質問した。


アリシア「ち、ちなみに、その…冒険者用のズボンっていくらくらいするんですか…?」


ゼロス「ん-…一番下の初級品で、銀貨50枚くらいじゃないかな」


アリシア「ごっ!?五十枚!?半月分の生活費じゃないですか!」


(ズボン一本で、家賃と食費の半分が消えるなんて…!)


思わず叫んだアリシアに、ゼロスはきょとんとした顔をする。


ゼロス「そうなんだ?あんまりその辺の感覚、俺疎くてわかんないけど。でも、命がけの仕事だからさ、稼ぐ額も使う額も半端じゃないのは確かかもね」


その言葉に、アリシアははっとさせられる。そうだ、自分はもう一般人ではない。命を懸けて戦う、冒険者なのだ。


アリシア「そ、そうだったんですね…。勉強になります」


(しっかりしないと。この世界では、常識からして違うんだ)


彼女は気持ちを新たにした。


昼食を終え、勘定を済ませたゼロスが立ち上がる。


ゼロス「とりあえず、装備でも見に行ってみようか~」


アリシア「あっ!はいっ!」


先ほどまでの金銭感覚への衝撃は、新しい装備への期待へと変わっていた。アリシアは元気よく返事をすると、ゼロスの後を追って食堂を後にした。


ゼロスは慣れた足取りで、冒険者向けの武具屋が立ち並ぶ地区へと向かっていく。その背中には、アリシアがまだ知らない、確かな頼もしさが満ちていた。


ゼロスは慣れた足取りで、冒険者向けの武具屋が立ち並ぶ地区へと向かっていく。彼が足を止めたのは、一際年季の入った、煤けた看板を掲げる一軒の店だった。

店内に一歩足を踏み入れると、鉄と油、なめし革の匂いが混じり合った、独特のむっとした空気が二人を迎える。壁には剣や鎧が所狭しと掛けられていた。


店主「よぉ、荷物持ちのあんちゃん。今日はどんな用だい?」


店の奥から現れたのは、熊のように大柄で、顔に大きな傷跡を持つ、いかつい店主だった。彼は汚れたエプロンで手を拭きながら、ゼロスに気さくに声をかける。


ゼロス「やあ、オヤジさん。前のPTはクビになったからさ、今のPTメンバーの装備を買いにだよ~」


ゼロスの後ろから、アリシアがおずおずと顔を出す。


アリシア「こ、こんにちわ」


店主はアリシアの華奢な姿を認めると、ニヤリと口角を上げた。


店主「へっ、おめーさんが女連れとは珍しいな。いつも荷物運びばっかりだったのによ」


ゼロス「でしょ~、俺もそう思うよ~」


アリシア「おっ!女連れ!?」(…って、そういう意味じゃないですよね!?いえ、事実ではありますけど!)


彼女一人だけ、妙な反応を示していた。


店主はアリシアの頭からつま先までを品定めするように一瞥すると、ゼロスに視線を戻した。


店主「で、今日はその姉ちゃんの装備でも見に来たのか」


ゼロス「そう。ダンジョンでホーニーラビットの一撃くらって、太もも部分が破かれちゃったから、頑丈なズボンが欲しくてね」


店主「ホーニーラビット…? あれの一撃で破られるってこたぁ…姉ちゃん、なんだ、素人か?」


その言葉に、アリシアはうっと顔を赤らめて俯いた。


ゼロス「まあ、そんなとこだねぇ」


アリシア「す、すいません…」


店主「で、とりあえず予算はいくらだ?前のパーティみてーに『聖銀の大楯』だの、そんな大層なシロモノを探しに来たわけじゃあるめぇ?」


その言葉に、ゼロスは苦笑した。


ゼロス「その通りっ!銀貨50枚くらいで買える、頑丈なズボンとかねぇですか?」


店主「お、あるぜ。ちょうどいいのがな!」


店主は壁に飾ってあったズボンを無造作に引ったくると、カウンターに叩きつけた。それは魔物避けの効果もある硬化レザーで補強された、実用的なデザインのズボンだった。


「これなんかどうでぇ!作りは確かだ。今なら50枚から5枚ひいて、45枚ってとこだな!」


ゼロス「よし!買った!」


店主「毎度っ!」


あまりの即決ぶりに、今まで黙っていたアリシアが叫んだ。


アリシア「し、試着もしてないですぅぅぅ!」


アリシアの悲痛な叫びに、豪快に笑っていた店主の顔が「?」という表情で固まった。ゼロスも、きょとんとしている。


店主「姉ちゃん、何を言って…」


ゼロス「あ、そっか。アリシアさんはこういう装備、初めてか」


ぽんと手を打って、ゼロスはようやく合点がいったという顔をした。


アリシア「と、言いますと?」


訳が分からず、アリシアは二人の顔を交互に見る。

店主はニヤリと笑うと、芝居がかった様子でアリシアに顔を近づけた。


店主「あぁ、そういうことかい。いいかい姉ちゃん。こういった魔素が流れる冒険者用の装備はな…なんと…!」


ゼロスが、その言葉を引き継ぐ。


ゼロス「使用者の体型に合わせて、自動で伸縮する仕組みなんです!」


店主「そういうこった!!ガハハハ!」


ゼロス「…というわけで、試着の必要はないから、そのズボン買うわ」


彼はそう言いながら、懐から銀貨45枚を取り出してカウンターに置いた。


店主「毎度ありぃ!」


アリシア「あ、あわわ、私が払いますよぉ~!」


慌てて自分の財布を取り出そうとするアリシアの手を、ゼロスは軽く制した。


ゼロス「まぁ、いいっていいって。アリシアさんはなんか物入りみたいだし、ここは俺が出すよ」


店主「そうだぜ、姉ちゃん。こいつも元はAランク、今じゃSランクに昇格した『銀の剣』様の元メンバーだったんだからな。ある程度の貯金はあるだろ。心配すんな」


その言葉に、ゼロスは少しだけ寂しそうな顔で、はは…と乾いた笑いを漏らした。


ゼロス「…あんまないけどね」


店主「ねぇのか!?」


予想外の返答に、店主は素っ頓狂な声を上げた。


アリシア「ゼロスさんの元いたPT…」


(Aランクパーティにいたのに、貯金がない…?)


アリシアは、先ほどダンジョンで聞いた話を思い出していた。


ゼロス「だって、俺はただの荷物持ちですよ~。ついでにダンジョンで使うアイテムは、ほとんど俺の実費だったし…。せいぜい、切り詰めて食べて1年分くらいの貯蓄しかないですよ、もう」


その口調は淡々としていたが、そこには追放された者の悲哀が滲んでいた。


店主「…そうか。まぁ、あいつらもおめーさんの本当の価値を、これっぽっちも理解してなかったようだしな。見る目がないぜ、全く」


吐き捨てるように言う店主に、ゼロスは力なく首を振った。


ゼロス「価値っていってもねぇ。どこにでもいるような、ただの荷物持ちだからなぁ、俺は」


その自嘲気味な言葉は、彼の心に深く刻まれた自己評価そのものだった。


その自嘲気味な言葉は、彼の心に深く刻まれた自己評価そのものだった。

しかし、それを許さない者がいた。今まで黙って話を聞いていたアリシアが、二人の間に割って入る。


アリシア「そ、そんなことありません!ゼロスさんは凄い人です!今日だって、中層のダイアウルフを、たった一人で一瞬で倒してたじゃないですか!!」


彼女の必死の反論に、ゼロスは少し驚いた顔をした。その声は、店の外まで響きそうなほど、大きく、真剣だった。


ゼロス「やだぁぁ、ちょっと心に染みる~」


茶化すように言うが、その表情はどこか嬉しそうだった。

店主は、そんな二人を見て豪快に笑う。


店主「ガハハ!いい連れが出来たじゃねぇか、あんちゃん!」


ゼロス「まぁ、そうは言っても、俺がいた頃、あのパーティはまだAランクでさ。上級ダンジョンについて行ってたんだから、アレくらいは余裕で捌けないと、こっちが死んじゃうんだよ。あの3バカが護ってくれるわけでもないし」


初めて聞く、彼の元仲間への率直な評価だった。


店主「まぁ、確かに連中は3バカだわな」


ゼロス「?」


店主は、腕を組むと、専門家の目でゼロスをじろりと見た。


店主「確かにお前のジョブは荷物持ちだ。荷物持ちは身体が屈強だが、おめーみたいにクソ重い荷物を背負ったまま、戦闘職と同じ速度で動き回れるってのは、そうそういねぇよ。前に運ばせた『聖銀の大楯』なんか、とんでもない重量だったろうに、よく平然と背負えたもんだ」


ゼロス「やっだぁ、オヤジさんに褒められてる」


照れたようにおどけるゼロスを見て、アリシアもなぜか満足げに「うんうん!」と何度も頷いている。


(そうです!ゼロスさんはもっと評価されるべきなんです!)


店主「で、ゼロス。お前、武器はどうすんだ?流石にいつまでもステゴロ(素手)ってわけにもいかん だろ?」


ゼロス「いかんの?」


店主「相手が武器を持ったモンスターや、全身鎧の騎士だったらどうすんだ。拳が砕けるのが先だぜ」


ゼロス「とは言ってもなぁ…。俺、剣とか槍とか、まともに使ったことないし、棒術も出来ないしなぁ…」


(そもそも、訓練なんてさせてもらえなかったしな…)


元パーティでは、武器に触れることすら許されていなかった。


店主「ふむ…おめぇのその自慢の筋力を、一番シンプルに生かせる装備か…。よし、とりあえず、こいつでどうだ?」


店主はそう言うと、店の奥から、埃をかぶった一つの武具を引っ張り出してきた。


店主はそう言うと、店の奥にある「特売品」と書かれた木箱の中から、埃をかぶった一本の武具を無造作に引っ張り出してきた。

それは、装飾も、刃も、何もない、ただの鋼鉄の塊。言うなれば、ただのこん棒だった。


店主「こいつなら、銀貨3枚でいいぜ。頑丈さだけが取り柄だがな」


ゼロス「なんてお得っ!」


その無骨な武器を見て、ゼロスは目を輝かせた。

アリシアは、そんな二人を信じられないという顔で見つめている。


アリシア「………」


店主「ん?どうした、姉ちゃん。顔が浮かねぇぞ」


アリシア「……かっこ悪いな、と、思いまして…」


彼女は、正直な感想を、消え入りそうな声で告げた。


店主「…まぁ、違いない。見た目はパンを叩く棒を、ちょっとばかし長くしたようにしか見えんわな」


ゼロス「いいじゃんいいじゃん!俺、こういうシンプルなのが一番好きよ!」


(手入れもいらないし、何より安い!)


ゼロスはこん棒を受け取ると、ぶん、と軽く素振りをして、その重厚な手応えに満足げに頷いた。


アリシア「え、えぇぇ…。本気でそれにするんですか…?」


ゼロス「武器なんてモンスターを倒すために使うんだから、見た目なんてどうでもいいんだよ。むしろ、刃こぼれとか気にしなくていいなんて最高じゃん!」


彼はそう言うと、懐から銀貨3枚を取り出し、カウンターに置いた。


店主「毎度あり。…しかし、おめぇさんらしい発想だわな」


店主は、呆れたような、それでいてどこか感心したような顔で、銀貨を受け取った。


ズボンとこん棒を買い、二人は装備屋を後にする。


店主「おう、また来いよ~」


店の入り口まで出てきて、熊のような大男は、ひらひらと手を振って二人を見送った。


アリシア「…いい人でしたね」


ゼロス「違いない。面白いおっさんだよなぁ」


アリシア「そうではなくて。ゼロスさんの価値を、ちゃんと理解されてるな、という意味で、です」


ゼロス「俺の価値…?ああ、いっぱい荷物が持てること?」


彼は、心底不思議そうに首を傾げた。


アリシア「そうではありませんっ………もっと、ご自身に自信を持ってくださいっ」


彼女は、もどかしさから、思わず声を大きくする。


ゼロス「自信ー?誰よりも荷物をたくさん持てるっていう自信なら、俺、誰にも負けないけど」


アリシア「そ、そういうことではなくて…!」


アリシアは、彼の心に深く根付いた「荷物持ち」としての自己評価の壁に、途方に暮れるのだった。


店の外に出ると、空はすでに傾き始め、街並みをオレンジ色に染めていた。

一日中歩き回った疲れが、どっと足にのしかかってくるのを感じる。


ゼロス「さって、アリシアさん。もうすぐ15時だけど、これからどうします?」


アリシア「ど、どうしましょう…特に予定も入れてませんし…ゼロスさんはどうなさるつもりなんですか?」


ゼロス「俺は…」


彼は大きく伸びをすると、心の底から正直な願望を口にした。


「宿屋に帰って、ぐっすり寝たい」


アリシア「…ふふっ…正直ですね。そうですね、私も今日は色々あって疲れました。お互い、あとは宿に帰ってゆっくりしましょうか」


ゼロス「さんせーい!」


子供のようにはしゃぐゼロスを見て、アリシアの口元も自然と綻んだ。


二人は、ギルド前の広場で別れることにした。


アリシア「では、また明日の朝、ギルド前で」


ゼロス「ま、またすぐ依頼を受けるんですか…?」


少しだけげんなりした顔のゼロスに、アリシアはきっぱりと言い放つ。


アリシア「当然ですっ!今日の装備品1個の値段を知って、よくわかりました。冒険者は、どうやら一般人の10倍以上のお金を使う仕事なんです!のんびりはしてられません…!」


(ゼロスさんにあんなみすぼらしい生活を、もうさせない…!)


彼女の瞳には、強い決意の炎が燃えていた。


ゼロス「い、一応、どこまで貯めるおつもりで…?」


アリシア「そ、そうですね。確かに具体的な目標が必要ですね…」


彼女はうーん、と少しだけ考えると、空を仰いで、大きな目標を掲げた。


「じゃあ、白金貨1枚とかどうでしょうか!!」


ゼロス「金貨100枚分ですか…」


途方もない金額に、ゼロスは少しだけ遠い目をした。

その反応に、アリシアは不安になる。


アリシア「…だめ、ですか?」


潤んだ瞳で、アリシアが不安げに彼を見上げる。


ゼロス「いや、良いと思いますよ!具体的で、夢があって!では、明日からまた頑張りましょう~」


「はいっ!」と元気よく返事をして、アリシアは自分の宿へと歩き出した。

ゼロスも、笑顔で彼女に手を振って去っていく。その背中は、頼もしくて、そして少しだけ謎めいていた。


(さて、宿に帰って、本でも読もうかな)


そう思ったアリシアだったが、ふと、あることに気づいて足を止めた。

ゼロスが向かっている方向は、昨日彼が向かった安宿街とは、全く違う方角だったのだ。


アリシア(ま、まさか…!昨日とは違う宿…?いえ、あっちの方角は確か、この街の…)


脳裏に、先ほどの自分の言葉が蘇る。

――『まさか女の人を買ってたとか!?』


アリシア(やはり娼館へ!?いや、でも、彼も男性ですし…その…色々あるのは、仕方ないことなのかもしれません…でも…!)


気になって、気になって、仕方がなくなった。

アリシアは意を決して、物陰に隠れながら、そっとゼロスの後をつけていくことにしたのだった。


(第五話/了)

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