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クロス・コア 〜転生先はサイバーパンクな滅びの地、いじめられて死んだ俺は強化兵にされていた〜  作者: 炭石鹸
転生したって、クソ野郎は直らないらしい

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11/20

誤算 ――乱戦の隙に、消える背中

読んでくださってありがとうございます!

すみません。誰も読んでないと思って放置してました。

奥へ進むほど、屋敷の内部は混乱を増していった。

すれ違う通路の向こうで、怒鳴り声と足音が交錯している。壁に掛けられた松明の一つが倒れ、床に転がったまま燃え続けていた。誰も、それを直そうとする余裕すらないらしい。倒れた木箱や散乱した書類が、通路のあちこちに転がっている。慌てて逃げ出した誰かが、荷物ごと放り出していったのだろう。焦げた油と、乾いた埃の匂いが入り混じっていた。

「こっちだ」

ジンの合図で角を曲がると、正面から二人組の見張りが駆けてきた。向こうもこちらに気づき、慌てて得物を構える。だが、動きは鈍かった。踏み込み、一人の腕を捻り上げて壁に叩きつける。もう一人はジンの拳が沈黙させた。

「陽動、思った以上に効いてるな」

ジンが息を吐きながら呟く。頷き、先を急いだ。

さらに奥へ進むと、別の通路から悲鳴に近い怒声が漏れ聞こえてきた。壁際に伏せ、様子を窺う。武装した数人が、何かを取り囲むように立っていた。よく見ると、囲まれているのは自分たちの仲間ではなく、隣の区画から逃げてきたらしい強化兵の一体だった。統率を失った哀れな姿に、見張りたちも手を焼いているようだった。関わっている暇はない。物陰を伝い、別の道へと迂回した。

——前方、複数の生体反応。密集しています。

頭の中の警告に、足を緩める。曲がり角の先、開けた広間のような空間から、甲高い声が響いてきた。

「つまり、そもそも見張りの数が足りてなかったんだ……いや、今はそれどころじゃないな。お前ら、何をぼさっとしてる、早く陣形を組め!」

聞き覚えのある声だった。物陰から様子を窺うと、丸みを帯びた体つきの男が、集まった数人の見張りに向かって喚き散らしていた。垂らした前髪が、慌てた拍子に額へ張りついている。

「サクマだ」

隣で、ジンが低く舌打ちした。垂らした前髪をうるさそうに払いながら、サクマは杖を振り回して指図を続けていた。危機感と芝居がかった仕草が、ちぐはぐに同居している。この期に及んで、時折わざとらしく顎に手を添える仕草まで交じっていた。決め顔を作る余裕が、まだあるらしい。

「囲め、いや、待て。先に儀式の間側を固めろ。いや……」

サクマの指示は、言うたびに変わっていく。右往左往する見張りたちの足並みは、ますます乱れていった。一人が儀式の間へ向かおうとすれば、別の一人が引き止める。怒鳴り声だけが空回りし、誰も的確に動けていない。

「そもそも属人化した指揮系統に問題があるんだ、これは! いや、今それを言っても仕方ないな。とにかく、エビデンスもなく動くな、いや動け!」

意味の分からない号令に、見張りたちの間に露骨な苛立ちが広がっていく。指示を仰ごうと集まった数人が、逆に互いの得物にぶつかりそうになっていた。物陰から見ているだけで、こちらまで力が抜けそうになる有様だった。

「今のうちだ」

ジンが短く言い、物陰から飛び出した。反応が遅れた見張りの一人を、瞬時に斬り伏せる。それを合図に、俺も動いた。

正面の男に体当たりで組みつき、得物を叩き落とす。振り向きざまにもう一人の顎を打ち抜いた。骨の軋む感触が拳に伝わったが、痛みはこちらにはなかった。踏み込みの速さに、相手が反応できていない。ゴウジ爺さんの型が、体に染みついたまま淀みなく動いていた。

「な、なんだお前ら……!」

サクマが後ずさりながら、震える声を上げる。手にした装飾過多の杖を、盾のように前へ突き出していた。

「フジツはどこだ」

低く問うと、サクマの顔から血の気が引いた。

「し、知らん。私は、そんな上の話には関わっていない立場で……つまり、属人化した意思決定というのは組織として好ましくなく……」

こんな状況でも、まだ回りくどい御託を並べようとしている。呆れを通り越して、いっそ感心しそうになった。

「言い訳はいい」

踏み込み、拳を振り上げる。サクマが情けない悲鳴を上げ、咄嗟に杖を頭上へ掲げた。まともに叩き込んだつもりの一撃が、なぜか奇妙に軌道を逸れ、杖の柄を掠めただけに終わる。拍子抜けするほどの間の悪さだった。

「ひ、ひぃっ……!」

腰を抜かしかけたサクマが、横に転がるようにして距離を取る。追撃しようとした瞬間、横合いから見張りの一人が斬りかかってきた。とっさに身をひねって躱し、返す刀で相手を叩き伏せる。その一瞬の隙に、サクマの姿が視界から消えていた。

「逃げたか」

舌打ちして辺りを見回す。乱戦の煙幕に紛れ、丸い後ろ姿が奥の扉へ滑り込んでいくのが見えた。

「追うか?」

隣にいた男が尋ねてくる。一瞬、迷った。だが、目的はサクマではない。

「いい。本命はフジツだ」

言い捨て、残った見張りへ向き直る。数の上ではまだ不利だったが、サクマが抜けたことで指揮系統そのものが崩壊していた。統率を失った男たちは、もはや烏合の衆でしかなかった。

「今度こそ、逃がすなよ」

ジンの声に、無言で頷く。踏み込み、目の前の一人を沈黙させた。関節を極め、崩し、地に伏せさせる。体は驚くほど軽かった。強化された体は、こんな乱戦の中でも疲れる気配を見せない。

背後から迫った得物の風切り音に、考えるより先に体が動いた。半身をひねって躱し、流れるような動きで相手の懐へ潜り込む。掌底を叩き込むと、男は声もなく崩れ落ちた。ゴウジ爺さんの稽古で、飽きるほど繰り返した動きだった。あの頃は木刀を握っていただけの遊びのような稽古が、今こうして自分の命を守っている。妙な感慨が、乱戦の合間にふと胸をよぎった。

「く、来るな……!」

最後の一人が、震える手で得物を構える。だが、その目にはもう戦意など残っていなかった。柄を握る指の力が抜けていくのが、遠目にも分かる。周りに倒れた仲間の数を数えているのか、視線が忙しなく泳いでいた。

「捨てろ」

短く言うと、男は得物を取り落とし、両膝をついた。ジンが素早く縄で拘束していく。

「この一帯は制圧した。だが、悠長にはしていられない」

ジンが周囲を見回しながら言う。倒れた者たちの呻き声と、遠くから響く怒声が混ざり合っていた。屋敷全体が、まだ混乱の渦中にある。

「弟のこと、探さなくていいのか」

隣の男に声をかけると、彼は一瞬だけ檻のある方角を振り返り、それからすぐに視線を戻した。

「今は無理だ。フジツを片付けてからでも遅くない」

短く答えた声に、迷いを振り切ったような強さがあった。それでも、拳を握る手が微かに震えているのが見えた。何も言わず、拘束した見張りから武器を奪う。今、余計な言葉は要らない気がした。

「サクマの野郎、次に会ったらただじゃおかねえ」

ジンが忌々しげに呟いた。逃げ足だけは、やけに速い男だった。あの決め顔と豚鼻を思い出すと、腹立たしさより先に、どこか間の抜けた可笑しさが込み上げてくる。

「あんな奴が幹部やってんのかよ」

隣の男が呆れたように言った。

——サクマ、幹部階級と推定。脅威度、低。

今更すぎる分析に、口の端が緩んだ。

「フジツの威を借りてるだけだ。中身は空っぽだよ」

ジンが吐き捨てるように答える。拘束した見張りたちを壁際にまとめて座らせ、逃げないよう縄尻を柱に結びつけた。作業を終えると、額の汗を拭って周囲を見渡す。

「奥だ。急ぐぞ」

ジンの声に従い、広間を抜けて奥の通路へと踏み込む。壁の焼き印が、次第に装飾めいたものへと変わっていった。床の敷物も、他の区画より明らかに上等なものになっている。壁に飾られた燭台には、贅沢にも本物の蝋燭が灯っていた。この屋敷の中で、ここだけが別の場所のようだった。

——領主の居住区画へ接近中と推定します。

頭の中の一文に、拳を握り直す。フジツ・ヒトシ。まだ顔も見ていない相手が、すぐそこにいる。名前を知ってから、ずっと胸の奥にわだかまっていた小さな引っかかりが、また疼いた。答えの出ない考えだと分かっていても、振り払いきれずにいた。

奥まった扉の前で、ジンが足を止めた。飾り気のある金属の把手に、見覚えのない紋様が刻まれている。他の扉とは明らかに違う、重みのある造りだった。この一枚の向こうに、探し続けてきた相手がいる。そう思うと、胸の底が微かにざわついた。

「ここだ」

低い声に、全員が身構える。扉の向こうから、微かに人の気配が漏れていた。楽し気な話し声のようにも聞こえる。この状況で、まだそんな余裕があるとは思えなかった。

「行くぞ」

短く告げ、扉に手をかけた。

ぇぃぁぃ

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