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クロス・コア 〜転生先はサイバーパンクな滅びの地、いじめられて死んだ俺は強化兵にされていた〜  作者: 炭石鹸
転生したって、クソ野郎は直らないらしい

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10/20

侵入 ――ついに始まる、決戦の夜

フジツの住む屋敷の外壁が、闇の中に黒々と浮かんでいた。

近くで見ると、遠目に眺めたときよりずっと大きい。柵の丸太は一本一本が太く、大人の胴回りほどもある。上部に巻きつけられた旧文明の鉄条網が、月明かりを受けて鈍く光っていた。柵の内側では、松明の明かりがいつも通り並んでいる。目を凝らすと、等間隔のはずの列に、一つだけ不自然な空白があった。見張りが持ち場を離れているのか、元から手薄なのか。理由は分からない。それでも、あの一角なら忍び込めそうだった。焦げた油の匂いが、風に乗って微かに漂ってきた。何も知らない静けさが、かえって不気味だった。物陰に身を寄せ、ジンが低く声を落とす。

「予定通りだ。お前らは表に回って、詰所の連中を引きつけろ。派手にやれ」

「派手にって、どこまでだ」

「向こうが慌てて動くくらいまでだ。殺すなとは言わねえが、深追いはするな」

短いやり取りの後、十一人の一団が、足早に散っていく。先頭を行く男が、ちらりとこちらへ目をやった。緊張と、それを押し隠すような硬い笑みが浮かんでいる。誰も、無事に戻れる保証などない任務だった。それでも、足取りに迷いはなかった。

残ったのは、ジンと、もう一人の元一般兵だけだった。

「俺たちは裏の物資庫からだ。レン、先行けるか」

「行ける」

さっき見えた明かりの空白は、ちょうど裏手の方角と重なっていた。狙い通りだ。頷き、柵の陰を伝って移動を始める。心臓の音が、やけに大きく耳の奥で響いた。数えるほどしか経験していないのに、体はこの感覚を忘れていなかった。

——見張り、二名を確認。距離、約二十メートル。

頭の中に浮かんだ文字に、足を止める。ジンに目配せすると、無言で頷き返してきた。

物陰から物陰へ、身を低くして進む。見張りの一人が欠伸を噛み殺しながら、腰の得物を持て余すように振り回していた。緊張感のかけらもない、間延びした足取りだった。もう一人は柵にもたれ、居眠りでもしているのか肩を小さく揺らしている。

背後から近づき、口を塞いで首筋に刃を当てる。抵抗する間もなく、体から力が抜けた。重みを支えながら、そっと地面に横たえる。ジンがもう一人を同じように仕留めるのを、視界の端で確認する。乾いた音一つ立てず、二人の見張りが地面に沈んだ。

「上出来だ」

ジンが短く言い、遺体を物陰に引きずり込む。手伝いながら、罪悪感のようなものは湧かなかった。この連中が、どれだけの村を踏みにじってきたか。考えるまでもないことだった。それでも、命を奪った感触だけは、掌に確かに残っていた。

裏手の物資庫まで、あと少しだった。柵に沿って進む途中、視界の端で何かが動いた。ジンが即座に手で合図し、全員が壁際に張りついて息を潜める。角を曲がってきたのは、腰に鞭状の得物を提げたハンドラーだった。欠伸をしながら歩き、こちらには気づかず通り過ぎていく。足音が完全に遠ざかるまで、誰も動かなかった。

そのとき、遠く離れた夜空の一角が、赤く膨らむように光った。

一拍遅れて、地の底から突き上げるような轟音が届く。兵站倉庫の方角だった。

「始まったか」

ジンが低く呟いた。夜風に乗って、微かに焦げた匂いが流れてくる。柵の内側で慌ただしい足音が交錯し、松明の光が一斉にその方角へ流れていった。ほどなく、正面の詰所からも怒声が上がる。十一人が仕掛けた陽動が、狙い通り見張りたちの注意を引きつけている証だった。

「今のうちだ」

低く声をかけ、駆け出す。物資庫の裏口には、案の定、見張りの姿がなかった。錆びついた扉を音もなく開き、中へ滑り込む。

物資庫の中は、木箱と埃の匂いが充満していた。書類の束が乱雑に積まれた棚の奥に、儀式の間へ通じる扉があるはずだった。積み上げられたネクタルの空き容器が、月明かりも届かない暗がりの中で鈍く光っている。見取り図で聞かされていた通りの配置だった。

「こっちだ。檻のそばを通る」

ジンの先導で、薄暗い通路を進む。奥から、獣じみた唸り声と、意味を成さない譫言が漏れ聞こえてきた。強化兵の檻だった。

——精神状態の異常な反応を検知。刺激を与えないよう推奨します。

分かってる、と胸の内で答える。足音を殺し、鉄格子の並ぶ区画をすり抜けようとした、その時だった。

「ケンタ……?」

小さな呟きが、隣から漏れた。さっきの、痩せた男の声だった。名を呼びながら、檻の奥を覗き込もうとする。

「今はダメだ」

低く制止するが、男の足は止まらなかった。格子の隙間から差し込む松明の光に、痩せこけた顔がいくつも浮かび上がる。誰もが虚ろな目をして、壁際にうずくまっていた。焦点の合わない目をした強化兵の一人が、格子越しにこちらへ顔を向ける。喉の奥から、獣めいた唸りが漏れ始めた。

「馬鹿、離れろ」

ジンが男の腕を掴んで引き戻す。だが、遅かった。唸りが咆哮に変わり、他の檻にも次々と伝染していく。鎖の擦れる音、鉄格子を叩く音が、通路いっぱいに響き渡った。何十という声が重なり合い、まるで獣の群れが一斉に牙を剥いたようだった。

「まずいぞ、これは」

騒ぎに気づいた見張りの足音が、こちらへ近づいてくる。数は二人、いや三人。物陰に身を隠す暇もなかった。

——複数の敵性反応、接近中。回避は困難と判断します。

頭の中に浮かんだ警告に、拳を固く握り直す。予定にない乱戦だった。だが、退く場所もない。

「レン」

ジンの一言で、意図を悟る。飛び出した見張りの一人に、そのまま体当たりで組みついた。得物を振り上げる間も与えず、喉元へ拳を叩き込む。ゴウジ爺さんに叩き込まれた型そのままの、無駄のない踏み込みだった。二人目が驚いた様子で得物を構え直すが、その動きは酷く遅く見えた。踏み込み、関節を極めて崩し、そのまま地に叩きつける。振り下ろされた棍棒の一撃をまともに肩へ受けたが、痛みは欠片も感じなかった。強化された体の頑丈さを、また一つ思い知らされた気がした。三人目はジンが刀傷のある短刀で片付けていた。

騒ぎに反して、ものの数秒で決着していた。それでも、心臓は激しく脈打ったままだった。

「行くぞ、長居は禁物だ」

ジンが低く言い、儀式の間へ通じる扉へと駆ける。走りながら、ちらりと檻の奥を振り返った。あの中の誰かが、ケンタなのかもしれない。確かめる術も、今は時間もなかった。檻の咆哮は次第に収まりつつあったが、それでも心臓は落ち着かなかった。

「悪い」

隣を走る、さっきの男が小さく謝る。

「後で聞く。今は走れ」

短く返し、扉の奥へと踏み込んだ。

薄暗い内部の通路が、奥へ奥へと続いている。壁には見覚えのない紋様の焼き印が並び、床には土足の跡が幾重にも重なっていた。正面から響く怒声はまだ止まず、屋敷全体が徐々に混乱の色を増していくのが分かった。怒鳴り声に混じって、慌ただしく走り回る足音が壁越しに響いてくる。

「陽動が効いてる。今のうちに奥まで詰める」

ジンが息を整えながら言う。頷き、通路の先へ目を凝らした。誰かが何かを取り落としたような、重い金属音も混じっている。兵站倉庫の一件も伝わっているのか、混乱は、こちらの想像以上に広がっているらしい。

——内部への侵入に成功しました。現在地点を記録します。

頭の中の一文に、小さく息を吐く。ここまでは、計画通りだった。だが、これから先は未知数だ。奥に何が待っているか、誰にも分からない。

「さっきは、すまん。動揺して……」

さっきの男が、隣で小さく呟いた。

「無事だといいな、お前の弟」

それだけ返し、先へ進む。慰めにもならない言葉だと分かっていたが、他に言えることもなかった。

ここまでは、順調すぎるくらいだった。その順調さが、かえって落ち着かなさを煽る。領主フジツ・ヒトシまで、あと一歩のところまで来ていた。

えい!あい!

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