13.3人の稀人たち(アロイ視点)
セロが弓を構えて弦を引き絞る。ぼそぼそと何事か呟くと、矢軸の上の、鏃に近い部分に淡い黄色の光が乗り、次に明るい橙色の光が乗った。ヒュ、と軽い音を立てて飛んでいった矢は、的場にある大きな的のほぼ真ん中に突き刺さった。
突き刺さった部分から泥のような染みが広がり、やや遅れてその泥を炎が燃やしていく。セロが矢に乗せた妖精の力だ。
僕は狩人組合の射的場、その射場の片隅にあるベンチでそれを眺めていた。
今は9月の上旬だ。温暖化している日本とは違って、時折残暑を感じる日があっても、夏の暑さはもう遠くなりつつある。射的場の周辺は、あちこちが柵や塀で仕切られているけれど、存外に風が通る。初秋の乾いた土の匂いが心地よかった。
5日前、モンテが稀人になった日に、僕たちは昼食のあとに解散したけれど、セロはその日の夕方から次の日にかけて体調が良くなかったらしい。昨夜、通信でそれを聞いたけれど、僕としては「だろうね」と答えるしかなかった。そういうことも想定して――モンテが稀人になることは想定していなかったけれど――しばらくテーピングはそのままでと退院時に言っていたのだから。
その通信で少し話して、前回できなかった実験を今日やるつもりだと聞いたので、特に予定がなかった僕は見物にきたわけだ。
前回、的場には小さな的が乱雑に配置されていたけれど、今日はそれに加えて大きな板が的場の真ん中あたりに立てられていた。一応、三重に丸が描かれていて簡単な的になっている。
「なるほど、矢を放つ前に極小の妖精を矢に乗せるのか」
そう言った僕にセロは、「ああ」と頷きながら矢の当たった的を眺めている。
「もう少し……粘着力が欲しいな」
「ひょっとして、焼夷弾とかナパーム弾的なイメージかな? それとももっと単純に、戦車の粘着榴弾?」
「そうそう、でも粘着榴弾ってやつだとさ……」
うーん、とセロが首を傾げた時、裏口の扉が開いた。
「粘着榴弾は弾頭が柔らかくて、着弾した時に潰れて貼り付くんですよね。接着剤みたいにべったりくっつくイメージではないです。潰れて貼り付いた後に、内部の爆薬……C4とかプラスチック爆弾ですけど、それが遅れて起爆する感じです」
聞き覚えのある声がした。もっとも僕が覚えている声はもっと感情的になっていたけれど。
「詳しいね、モンテ。生前はミリオタだった?」
手招きをすると、モンテは素直にベンチのほうに歩いてきて、僕の隣に腰を下ろした。
「ミリオタってほどじゃないですけど……まぁ、多少興味はあったくらいですね。――セロさんが何をイメージしてるかはわかんないですけど、粘着榴弾は例えば戦車の外側なんかに密着して起爆するので、ホプキンソン効果で外側よりも内側にダメージを与えるんですよ。だから、獲物の頭に撃って脳にダメージを与えるというのならわからなくもないですけど、弾頭代わりが鏃ではちょっと小さすぎる気がします」
たった5日ではまだ、モンテの体の記憶を全て引き継いではいないだろうと思う。いろいろな稀人に話を聞いてわかったが、転生する体の年齢や経験によって、記憶の引き継ぎにかかる時間が増減する傾向にあるらしい。
僕は転生した直後に全ての記憶が流れ込んできたけれど、それはこの体が7歳だったので、引き継ぐ記憶の量がそもそもそんなになかったからだ。
「それな。俺もその記憶はうっすらあったから、なんかイメージ違うなとは思ってた。だからナパームとか焼夷弾のほうが近いのかな。あれって、燃料をまき散らして燃やす理屈だったか?」
セロの問いにモンテが、うーんと軽く唸った。
「焼夷弾として、太平洋戦争の時の空襲で使われたものを想像してるなら、それは確かにナパームと近いです。ただ、第二次大戦の時にはテルミット焼夷弾ってのが使われましたね。それはアルミと金属酸化物のテルミット反応を利用してエレクトロンに点火する……」
若干早口になりかけたモンテをセロが制する。
「いや、その説明はいい。俺が理解できないものだと魔法に反映させられねぇからな」
「あ。魔法ってそういう理屈なんですね。えっと、じゃあナパームなんですけど、それは燃料……この場合は油脂です。ナフサという、まぁガソリンみたいなものなんですが、それにナパーム剤を……」
そこまで言って、モンテはセロの表情に気がついたらしい。こほん、と小さく咳払いをした。
「まぁ、要はガソリンと油脂に増粘剤を混ぜてゼリー状にしたものを燃料として内部に持った爆弾です。ベトナム戦争でアメリカが使ったのが有名ですね。あまりに非人道的だと、かなり非難されましたが。――セロさんの目的は?」
モンテに聞かれて、今度はセロが「うーん」と唸った。
「もちろん、普段の狩りに使ったら毛皮や肉の状態が悪くなるから、完全に魔獣向けだし、当てる場所も慎重になる必要があるんだけどさ。単純な火矢じゃなくて、当たった後にしばらくそこで燃え続けてくれれば、使い道はあるかと思うんだよな」
なるほど。ベルが使うような魔法や、セロが本格的に炎の妖精を使うなら、燃える範囲が大きくなってしまう。ピンポイントで、目や鼻を狙ってそこだけを燃やせるなら確かに使い道はありそうだ。妖精を極小にできるようになったからこその着眼点だろう。
「さっきの組み合わせだと……確かに土が一瞬燃えて、でもすぐに乾いて燃え落ちてしまったね」
僕から見えた様子を言うと、セロが肩をすくめる。
「そうなんだよな。もう少し土を泥っぽくしたほうがいいのかな」
「おれはこっちの魔法の仕組みがわかってなくて……体のほうの記憶にもあまりそういう知識がないんですけど、その土自体を燃料にはできないんですか?」
モンテの言葉にセロが首を傾げる。
「土を燃料に?」
「つまり、泥炭みたいな」
「泥炭か。なるほど、セロ、それいいんじゃない?」
僕が頷くと、セロは首を傾げた。
「泥炭……ピートのことだよな。ウイスキーの香りづけに……」
つまり、セロは日本でも酒類をかなり好んでいたようだ。
モンテがそんなセロの勘違いを否定する。いや、勘違いでもないんだけれど。
「ピートのことではあるんですけど、要は石炭になる一歩手前の、炭素を含んだ柔らかい土のことですよ。おれ、こっちの世界のことを少し勉強したんですけど、こっちは地層深くまで魔力が浸透してるせいで、石炭や石油が魔石や魔導樹脂に変換されちゃって、変換前のものは採掘量が少ないんですね。だから泥炭と言われてもこっちの人はピンとこないと思うんですけど、おれたちは違うじゃないですか」
そうだ。道路のアスファルト舗装が遅々として進まないのも、アスファルト……つまり瀝青があまり採れないせいでもある。
「そうだね。セロも泥炭の現物を見たことはないかもしれないけれど、園芸用の黒っぽい腐植土なら想像がつくんじゃないかな。腐葉土じゃなくて腐植土ね。あれも多くは泥炭だよ」
「あー……そう言われると想像できる、ような?」
セロは矢を握りしめたままの手を顎のあたりに持っていって目を閉じる。
「泥炭は乾かせば燃料になるものですよ。戦後の日本で燃料事情が良くなかった時代、泥炭を豆炭に加工したこともあるとか。石炭を柔らかくふかふかに考えればそれが泥炭です」
モンテの言葉に、ふむとセロは矢を持ち直した。
弓に矢をつがえ、キリ、と弦を引き絞る。
「炭素……石炭の手前の……柔らかい……いや、貼り付けるなら水分もいるな……」
ぼそぼそと呟いているがあれが詠唱というわけではないだろう。
「【燃える泥、清らかな滴……焚き火のひと枝】」
一言ごとに矢軸に淡い光が乗っていく。シンプルに過ぎるけれど、こっちが詠唱だ。
ひゅんと飛んだ矢が、さっきの矢の隣に当たる。的に黒っぽい泥が貼り付いた。一瞬遅れてそこに炎が走る。セロが詠唱中にひと呼吸の間を入れていたのはこのタイミングを計るためか。
「あ、上手くいった……かな?」
的を見てモンテが言う。
「矢を放った時の魔力の流れも綺麗だったよ。風の魔法は乗せなくていいの?」
聞くと、的を見ながらセロが頷く。
「ああ、実戦だとだいたい風の魔力が乗った弓を使うから、矢自体には乗せないんだ。――あ、もう消えちまったな。泥の粘度と量は悪くなかったと思うんだが、もう少し炭素の多い泥をイメージするか。ついでに水の妖精に油のイメージも乗せられればいいんだが」
これからは微調整の段階だ。自分の中のイメージをたった一言の詠唱で魔法に落とし込めるまで、何度も撃つしかない。
セロも同じように思ったのだろう。矢を2、3本まとめて持つと、すぐにまた弓を構えた。
セロの様子を見るともなしに眺めながら、僕はモンテに話しかけてみようとした。
が、先にモンテのほうから話しかけられた。
「あの、アロイさん、でしたよね? あの時はすみませんでした。おれ、動転してて……いろいろ失礼を働いたと思います」
昨夜の通信で、モンテはかなり落ち着いたようだとセロから聞いていたが、確かに穏やかな人となりを思わせる話しぶりだ。
ただ、落ち着いたといっても、全てに納得できたとは限らない。
――それは少しずつ受け入れていくしかないものだ。
「ああ、かまわないよ。僕は回復術師でね、病院みたいなところに出入りしているから、ああいう場面に遭遇した経験はある。多くの人は動転するし、君のような反応は想定の範囲内だ」
微笑んで見せると、モンテは安心したように息をついた。
「なんか……不思議な現象ですよね、稀人って。稀ってわりにはたくさんいるみたいだし」
ふ、と笑ったモンテに、僕も笑った。
「そういえばそうか。……いや、でもそういう話、前にも誰かとしたな。セロ? 君のほうが詳しいだろう」
僕は射場に立つセロに向けて声を上げた。
何本目かの矢をつがえながらセロが口を開く。
「ああ。俺たちはユラルの言葉を、この体の脳を介して理解してるから、不自由なく使ってるけど、そもそも日本語じゃねえだろ? 言語体系が違って、ユラルに漢字があるわけでもないから、“まれびと”って言葉に“稀”っていう漢字を当てはめてるのは、日本人としての俺たちの意識だよ。――似たニュアンスの言葉として考えるなら、日本でも民俗学の分野で稀人という単語はある。それは“稀な人”でもあるけど、客人と書いて“まれびと”と読むこともあってな。大雑把に言えば、外界から来て福をもたらして去る異人だ。神のようなものだったり、霊のようなものだったり、時には旅芸人や物乞いのような人間さえ、特別な技能や知識をもつ稀人として扱われた」
「は、はぁ……民俗学……」
ミリタリー分野には強くても、民俗学方面には疎いのだろう。モンテは眉間に皺を作りながら、それでもセロの話を熱心に聞いている。
「昔の田舎の信仰に関わることだからな。諸説あり、ってやつだ。基本的にあまり外界と接点がない田舎の村に定住している人々には日常しかない。そこに外の知識や技術をもたらす人間や、年に1度山から下りてくる田の神または年神、お盆の間だけ現世に戻ってくる先祖の霊……そんな存在を稀人と呼ぶことがあったっていう説だ。だから俺たちは、“稀な人”というより、ユラルという日常世界に外部の知識をもたらす客人なんだよ」
セロはそう言って、つがえていた矢に妖精の光を乗せて的に放った。ひゅんと風が鳴る音、タンッと的に当たる音が心地よい。
なるほど、と感心しているモンテの横顔を見て、僕も口を開く。
「ユラル……この国に限らず、稀人は世界中にいてね。ほとんどの国で稀人は歓迎されている。自分たちの世界よりも進んだ世界の知識を持つ人間として。――とはいえ、僕なんかはあまり役に立つ知識がなくてさ。IT機器のリース会社で営業なんてやってたから、電話でアポをとったり、出先で複合機の調子を見たりするなら割と得意だったんだけど」
そうだ、何度紙詰まりを直したことか。
「なるほど、営業さんだったんですね。そういえばセロさんは? さっきから見てると小気味よく的に当ててますけど、あれは生前からの技術ですかね」
モンテの問いに僕が笑う。
「ああ、あいつは雑誌の編集者だよ。スポーツは特にやってなかったはずだ。ただ、体の出来が良かったのと、それをしっかり使いこなせてるってところかな。――そういえば君は日本では何をやっていたの? こっちで役立つ技能や知識があるなら、君はまさしく、セロが言うところの稀人……“客人”としての条件を満たすよ」
僕の言葉に、モンテは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやー、役立つかどうかわかんないですね。ミリタリー系は戦争映画がわりと好きだったんでちょっと勉強したんですけど、学校の勉強はあんまり出来が良くなくて……スポーツも高校までサッカーやってたんですけど、そんなに目立つ選手じゃなかった上に、途中で怪我したんですよね。で、まぁそれきっかけで、柔道整復師とマッサージ師の資格とって、先輩が開いたマッサージ院で働いてました」
モンテが、こんなんじゃ役に立たないですよね、と小さく言った。
――とんでもない! 役に立たないどころじゃない!
「マッサージか! しかも柔道整復師なら筋肉や骨格に関してはプロだし、マッサージ院で働いてたってことは日本式のマッサージをやってたんだろう?」
「え、ええ。いわゆる按摩とか指圧ってやつです。でもこっちはそういうの魔法で回復しちゃうんですよね?」
「基本はそうだけど、骨折の後のリハビリにはそれなりに時間がかかってるんだよ。それに筋肉疲労や軽い血行不良による筋肉のこわばりや痛みに回復術ができることは限られていて……そうだ、セロ! ちょっとこっちに!」
「あ? なに?」
セロは集中していたのか、僕らの話をあまり聞いていなかったらしい。的を見ると10本以上の矢が刺さっていたし、しかもそれらは器用にある程度の間隔を空けて刺さっている。場所によって燃え方が違うのは、試行錯誤の途中だからだろう。
「セロ、右肩は? こないだはまだ動きが固いって話をしてたろう?」
そう言うと、セロは右肩をぐるりと回した。
「ああ、こないだよりはマシになったけど、まだ万全じゃないな。疲れやすいし、若干引っかかりを感じることもある。痛いってほどじゃないが、だるい感じっつーか……」
セロが言うのは別に深刻な後遺症ではない。今回は命の妖精だったけれど、回復術で治した場合でも同じだ。骨や神経、血管が繋がっても、周囲に細かい損傷の痕跡は残る。しばらく経てば治るものだが、今回のセロは骨折の箇所が多かったせいもあって、まだ違和感があるのだろう。
念のため手をかざして右肩から右胸にかけての状態を見てみるが、特に深刻な状態ではなかった。
けれど、本職のマッサージ師がいるならこれはかなり軽減できるはずだ。
「よし、モンテ、セロ。中の……えっと、休憩室かな? 仮眠ベッドがあるところ。そこに行こう」
「うぁ……おぉぉ……そこそこ……」
ベッドにうつ伏せになったセロの上にモンテがまたがり、背中から肩のマッサージをした後、右肩を抱え込んでゆっくり回しながら、肩の付け根をもみほぐしていく。セロは気持ちよさそうな声を出していた。
生前、日本で残業帰りに立ち寄ったマッサージ院で、僕もよくあんな声を上げていた。
「モンテ、君は今から高等院……大学のようなものなんだけど、そこに行くつもりはある? 回復術の基本だけでもそこで学べば、外傷専門の治療院を開業できるよ。何年も学ぶ余裕なんか考えられないというなら、半年くらい私塾の講座を受けて、体の状態を見る……僕がさっき手をかざしていたようなやつだけど、それだけでも覚えれば、リハビリ専門院を開業できる」
オスロンだけじゃなく、ユラルでマッサージといえば、少し温めて関節を小刻みに揺らしたり、軽いマッサージをするだけのものだ。効果が無いとは言わないが、日本式の指圧を知っている僕たちには少し物足りない。
「え、大学ですか。いやぁ、補助金もらえるとはいえ、おれはあまり貯えがないみたいなんですよね。ただ、この技術がもし役に立つんなら、金貯めて開業してみたいなとは思いますよ。――ちょうど日本でも、もう少し貯金できたら独立して開業したいねって嫁と話してたんですよ。まぁ今となっては、その貯金とおれの保険金が、せめて少しでもあいつらの生活を支えられたらいいなと思ってるんですけど」
後半の言葉は寂しげに響いたが、モンテは開業には前向きだった。
「いや、気持ちいいぜ、これ」
うつ伏せになったまま、セロが顔だけを上げる。
「セロさん、ここ痛いですか」
「うわ、そこはちょっと痛いな。ビリッとくる」
「グエンさんに聞いたんですけど、これ、おれの体を助けるための怪我でしたよね。癒やしの魔法があるならと思ってたんですけど、マッサージが役立つなら、完全に治るまで何度だってやりますよ」
あの日は動揺して興奮していたようだけれど、本来のモンテ……いや、ソウマ氏は誠実な人間だったのだろう。
「モンテ。体の状態を見る……見気法と言うんだけどね、ベースは日本で言うところのレントゲンだ。少し上達するとCT、もう少し上達するとMRI、さらに上達すると血液の状態までわかる」
僕がそう言うと、セロの右腕を抱えたまま、モンテが驚いたように顔を上げる。
「え! そんなことまで!? いや、レントゲンとCTまでわかれば、整復とマッサージがはかどりますよ!」
「だろう? CTまででいいなら、私塾で半年と少し……1年はかからないよ。冒険者ギルドに仲介を頼めば多少安くなるはずだから、補助金でなんとかなる。ただ、もしも金銭的な理由で諦めざるを得ないなら、僕が投資しよう。開業資金も含めてだ。こちらでのリハビリとマッサージには僕も歯がゆい思いをしていたからね」
そう言うと、モンテはセロの全身をマッサージしながら、思案する顔を見せた。
「その見気法だけは覚えたいですね……。帰ったらグエンさんにも相談してみます。おれは一人暮らしなんですが、グエンさんが気を遣って、ちょくちょく顔を出してくれるんですよ。今日もグエンさんが戻ったら外で晩メシを食おうって誘われてるんです。――あ、セロさん、一応ひととおり終わりました。足腰はしなやかな感じでいいですね。上半身、背中から右肩にかけて少し固まってたのでほぐしておきました。今晩は湯船にゆっくり浸かってください」
モンテの言葉に、セロはベッドの上に起き上がりながら、さっきと同じように右肩をぐるりと回す。
「お、だいぶ軽くなったな。引っかかりも少なくなった。いや、これはありがたい」
「セロ、どう思う? リハビリや、そうじゃなくても労働帰りの人間に喜ばれそうじゃない?」
そう聞くと、セロは大きく頷いた。
「こっちでも診療所の隣とか、公衆浴場の中なんかにマッサージ院があるが、今ひとつだったもんな。モンテ、アロイの提案に乗っかることを勧めるぜ。こいつの実家は馬鹿みたいに太いから出そうと思えばいくらでも出せる。それに、マッサージがこの腕ならすぐに開業資金くらい返せるさ」
馬鹿みたいに、という表現が適切かどうかはわからないが、マッサージ院の1軒くらい開業させても、僕が個人的に動かせる資産でどうにかなるのは確かだ。
「え、じゃあ……前向きに検討します。もし、開業資金が必要になったらお願いするかもしれません。あの、でも……」
モンテが最後に迷うようにセロに視線を向けた。
「どうした?」
「おれのこの体は狩人に憧れてたみたいなんですけど……後から入ったおれがあっさり方向転換していいもんなんですかね」
モンテは、体の元の持ち主に遠慮していた。
「いいに決まってるだろ、そんなもん。ていうか……あのな、こうなっちまったから正直なところを言うけどな」
「はい」
セロの言葉に神妙な顔をするモンテ。
そのモンテに向かって、きっぱりとセロが言い放つ。
「おまえは狩人に向いてなかった」
……正直すぎだ、セロ。




