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【第3章開始!】チートなき世の稀人たち~美少女(30代・独身男性)による見聞録~  作者: 松川あきら
第3章

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21.竜の卵が欲しいもの(セロ視点)



「【硝子の鱗と極光(オーロラ)(ひれ)、来たれ、紫電(しでん)の魚】」

 俺がそう呟くと、革手袋をはめた手のひらの上に小さな雲が湧き、その中から濃い紫色の魚が姿を現す。


 ――妖精は本来、元素(エレメンツ)に魔力が宿り、意思とも言い切れない淡い思考と力を獲得したものだ。自然界で妖精の力が強いところでは、属性に関わらず丸い光の玉として姿を現すことが多い。妖精のオーブなんて言われる。妖精使いが呼ぶ妖精たちはいろいろな姿をしているが、それは全て術者のイメージによるものだ。だから俺が呼ぶ水の妖精は、日本のフィクションで表現される人魚だし、雷の力を宿すこの魚は、日本のペットショップで見かけた熱帯魚だ。小さな魚体のわりにひれが大きく、ドレスのようにふわりと優雅に(ひるがえ)る。


「以前にも見せていただきマシタが、美しい魚デスネ。――込めた魔力はどのくらいデスか?」

 コイランの問いに頷きつつ、俺は紫色の魚を少し浮かび上がらせた。

「まずはお試しで反応を見るんだろうから、ごくわずかな魔力だ。この形を保つだけで精一杯の。これで卵が多少反応するようであれば、次はもう少し多めに魔力を込めればいいだろ?」


「そうデスね。じゃあボクは魔道具でその反応を測定します。少し調整シマスので、まだ妖精はそのままで。どのくらいの距離で吸い込んだかわかるように……なんて言うんデスか……えぇと、意識を繋ぐ? あの、感覚を共有する?」

 コイランがユラル語での言い回しを探るように首を傾げる。

「ああ、細い魔力の糸をこっちの意識と繋げたままにするんだろ? 大丈夫、わかるよ」

 紫色の魚の、尾びれの先に細い糸を繋げてある。少し離れれば見えなくなる、蜘蛛の糸のように細いものだが、術者本人には妖精の存在がわかる糸だ。


「セロ、一応これを渡しておくよ」

 アロイが隣に来て、青い小瓶を差し出してきた。

「これは?」

「“エリクサー”さ。魔力回復薬の試作品。飲んで少ししたらじわじわと効いてくる。ゆっくりと1時間くらいかけて、多分セロの魔力量なら3割から4割くらい回復するだろう。順調にいくようなら、途中で一度それを飲めば、少しは試行回数を増やせるかもしれないと思ってね」

 アロイから受け取った小瓶は透明な樹脂でできていた。短めの試験管のような、シンプルな形状をしている。蓋はアルミのスクリューキャップだった。日本にいた頃、フィクションの世界で想像していたエリクサーよりも、妙に現実味のある形状だ。中に入った青い液体は少しとろみがあるようで、傾けるとゆっくりと動く。躊躇無く飲み下すなら、1口かせいぜい2口分だろう。


「夏の初めにフェデリカに飲ませてたやつだな。あの時はガラス瓶だったように思うが」

 そう言って笑うと、アロイも笑って肩をすくめた。

「魔導樹脂のほうが再利用しやすいし、持ち歩きに便利だからね。味も少し改良して、甘苦くて酸味のある……クラフトコーラの原液みたいな感じになったよ」

「じゃあ今度、炭酸で割ってみようぜ」

 そう言って2人で笑い合った。


「セロさん、こちらの準備はできマシタ」

 コイランがそう声をかけてくる。コイランは石の床に箱形の魔道具を置いていた。卵に向けて円盤形の……俺たちの感覚で言えば、小さなパラボラアンテナみたいなものを向けている。そのアンテナで受け取ったものが、下の箱形の魔道具に記録されるらしい。

 普段、ベルナールが作る日常的な魔道具と違って、かなり専門的な魔道具なのだろう。原理やエネルギーは魔法を基本としているはずだが、稀人の目から見ればかなり“現代的”な機械に見える。小さなモニターのようなものまでついていて、そこに卵から感じ取る魔力を属性ごとに可視化しているようだ。

 いろいろな機能のせいでそれなりの大きさになってしまっているが、この世界では魔法の収納袋がある。実際、道中でも持ち運びに苦労している様子はなかった。


 俺は周囲を見回した。コイランは俺の左前方にいる。リーダーであるジュドはコイランのすぐ近くに陣取っている。俺からもあまり離れていない。俺の位置から右前方に少し離れて、俺とコイラン、ドラゴンの卵とワイバーンを見渡せる位置にいるのが魔術師のディミトリと戦士のフォルカーだ。ディミトリは何かあれば俺たちとワイバーンの間に強固な壁を立てる準備をしている。フォルカーはその護衛だろう。

 俺とコイランの背後、味方全員を視界に収められる位置にいるのが、アロイとミランジュの回復術師コンビ、それに魔術師のアリシアだ。


「んじゃ、妖精を飛ばすぞ」

 妖精に繋いでいた左手をすっと上げる。糸の先の魚を解き放つようにして手を軽く振れば、魚はすぃっと空中を泳いでいった。

 卵のそばにいたワイバーンが1頭、首をもたげてこちらを見る。が、その視線に敵意はない。こちらに敵意がないことは伝わっているのだろう。


 ワイバーンたちと俺たちの距離は10マルテくらいか。雷の魚がゆっくりと泳ぎ、卵まであと1マルテほどになった時、卵のまわりに(もや)のようなものが漂い始めた。

「……認識されたみたいデスね」

 コイランがそっとささやく。それに頷こうとした瞬間、その靄が触手のような形に伸びて雷の魚を絡め取った。

「ん、食われたな」

 そう報告すると、魔道具を見つめていたコイランが頷いた。


「雷の属性に反応がありマシタ。もともと雷は必要量が多くないのかもしれマセン。今の妖精でも数字に変化があるくらいデスから……セロさん、次はあと少しだけ出力を上げてみてくれマスか」

「了解」

 人体に雷撃蘇生――AEDをする時には緻密なコントロールが必要になるので詠唱も長く丁寧になるが、魔力を形にして飛ばす程度なら、あっさりとした詠唱で済む。ベルナールに雑だと言われるかもしれないが、合理主義でいかせてもらう。


 ふわりと、再び紫電の魚が手のひらの上に浮かび上がる。さっきよりも一回り大きい。これをさっきと同じように飛ばして……。

 ――ん?


 手のひらの上に妖精を浮かべたまま、俺は周囲を見回した。

「どうかしたか、セロ」

 ジュドが俺の様子に気づく。俺は右手の人差し指を口元に立てた。静かに、というジェスチャーは日本でもユラルでも同じだった。


(環境音が変わった……気がする)


 ワイバーンは動いてない。もちろん卵も。仲間たちが身じろぎしたり小声で会話をしてるのは別に違和感ではない。広いホール状になっているこの空間のどこか……。

 そうか。音が増えたんじゃない。減ったんだ。


「ジュド。左側の……人魚たちの池。海側に排水されてるはずの音が小さくなった。人魚が遡上してくる水路が、人魚よりも大きなもので塞がれてるような……水が逆流する音も若干聞こえるが、うまく受け流しているような感じもある。……軟体動物か?」

 俺の言葉にジュドが驚いたような顔を見せる。

「……聞こえたか?」

 近くにいたアリシアとミランジュに尋ねるが、2人とも一度互いに目を見合わせてから首を振った。

「違う。聞こえたかどうかじゃない。聞こえなくなった音があったんだろう。野生動物の動きを探る狩人の耳だ。アリシアさん、人魚の池に光の魔法を」

 アロイの言葉に頷いて、アリシアが小さく詠唱をする。人魚の池に接している岩壁が淡く光り始めた。


「二手に分かれる。癒やし手たちとディミトリはそのまま。フォルカーはアリシアと一緒に池の奥を調べてくれ」

 ジュドが素早く指示を出し、それを受けた2人が移動する。ジュド本人も、コイランのそばを離れないまま、少しだけ池のほうに意識を向けている。

 戦士2人、魔術師2人、癒やし手1人という彼らの構成は、こういう時に分けやすくていい。


 池の調査が一段落するまで雷の妖精は動かさないほうがいいだろう。自分からタスクを増やす必要はない。

 ――と思ったのに。


「セロさんっ!!」

 コイランの声が聞こえた。同時に俺も感じ取っていた。

 卵からにじみでる、触手のような靄が10マルテの距離を超えてきた。俺の手元にあったはずの雷の妖精を半ば吸い込むようにして食らう。

「【土よ岩よ、堅牢なる壁となれ。高く、堅く、厚く……】」

 ディミトリの声が聞こえる。壁を立てるつもりだろう。ベルナールのように魔力まかせの透明な……または半透明な壁ではない。周囲にある物質をそのまま利用するので魔力の節約になる。長期戦にも備えられる、熟練の冒険者のやり方だ。


 手元の妖精が食われたことで、さっきと同じように繋いでいた魔力の糸もそのまま断ち切られた……はずだった。

 まさかそれをたどってこちらに靄の触手を伸ばすなんて。


 ――ずるり、と体の中から何かを引き出されたような感覚があった。

「う、わ……っ!?」

 何が起こったかもわからず、思わず悲鳴に似た声が漏れる。体が急に重くなった気がした。四肢が……いや、全身が異様にだるい。一瞬、視界が暗くなる。ぎゅっと目を瞑ってその衝撃をやり過ごすと視界は元に戻ったが、代わりに頭がガンガンと痛み始めた。


 魔力切れ? まさか。さっきの妖精に込めた魔力は俺の魔力量の1割程度だ。

 けれどこれは……。

 俺は、さっきアロイから預かってポケットに突っ込んであった魔力回復薬を取り出す。たったそれだけの動作なのに、腕が重い。

 蓋を開けるのももどかしい。手が滑る。いや、力が入らない。開いた。ほんの2口分くらいの液体。それを口元に持っていくのがどうしてこんなに重い。けれど、今飲まなければ危ない。そんな予感がする。

 ごくりと飲み下す。甘い。想像以上に甘い。


 ディミトリの詠唱が終わる。目の前に土と岩の壁がせり上がり、靄の触手はそれで断ち切られた。

 同時に体の重さが限界を迎える。俺の手と膝が床につく。

 コイランやディミトリ、アロイの声が俺を呼んでいる。

 ――わかってる、大丈夫。聞こえてる。

 ただ、返事ができない。頭はガンガンと痛むし、うなじから背中にかけて冷や汗が伝う。自分で魔法を使いすぎて魔力切れになるのとは違う、無理矢理に魔力を引き出された結果だ。


「ディミトリさん、手伝って! セロを後ろに運びます! 急激な魔力切れに見えます!」

「わかった! ミランジュ、そこに毛布を敷いてくれ!」

 アロイとディミトリの声が聞こえて、そのまま2人は俺の両肩を掴んだようだ。体を引き起こされて、2人がかりで運ばれる。

「ちょ……あんまり……」

 揺らされると頭に響く、と言いたかったが言葉にはならなかった。


 毛布の上に横たえられて、また一瞬意識が飛びそうになるが、じわりと体の奥から魔力が湧き上がってくる。その感覚でかろうじて、意識が引き留められた。

「セロ! 意識はあるね? さっきの薬はもう飲んだ?」

 アロイが俺の頬を軽く叩いた。

 顔をしかめたまま、俺はゆっくりと目を開けた。

「……ああ。飲んだ。多分、それが間に合った」

 ホールの床、至るところで枯れ果てている小さな魔獣たちの死骸を思い出す。魔力を放出して、おそらくはこうやって卵に吸い取られて、枯渇したのだろう。

 人間も、完全に枯渇してしまえばそれは肉体の死だ。

 じわりじわりと回復してくる魔力がもどかしい。もっとぐんと回復してくれればいいのに。


「セロさんっ!」

 コイランが駆け寄ってくる。

「大丈夫デスかっ! 申し訳ないデス。この危険を予測できていマセンでした」

 コイランはそう言うが、予測できるものでもないだろう。俺はまだ重い手をひらひらと振って、気にするなと伝えたが、伝わったかどうか。


「おいっ!! タコだ! 化けモンみてぇにでかいタコだ!」

 響いたのはフォルカーの声だ。

「【燃えさかる炉のごとく! 鉄をも溶かす熱き炎よ(ほとばし)れ!】」

 アリシアの詠唱も聞こえた。

「【我が魔力よ、鎧となりて同胞たちを守れ、守れ、守れ!】」

 ディミトリの詠唱は、見えない魔力の鎧だ。この場にいる全員を対象にしたらしく、俺の体の周りにも発生したのがわかった。8人分をいっぺんにか。さすが上級……いや、ベルナールもこれくらいはやるか。


 上半身だけをゆっくりと起こして、俺は岩壁によりかかった。隣にはミランジュがいる。

「僕は向こうを手伝ってくるよ。セロはしばらくそこで休んで。さっきの薬をもう1本……と言いたいところだけど、さっき飲んだ分で回復しきってからじゃないと、次を飲んでも効果がないんだ」

 アロイは俺の首筋と手首にさっと触れて、おそらく体温と脈拍をチェックしたのだろう。休んでいれば大丈夫そうだ、と頷いて立ち上がった。


「アロイさん、ボクもそちらに行きマスよ」

 まずはタコを片付けるのが先決と思ったか、コイランもアロイと一緒に人魚の池に向かう。

 その途中で、アロイが振り向いた。

「ミランジュ先輩はそこでセロを見ていてください。向こうで回復の必要があれば、僕とコイランさんでなんとかします」

「わかった。そっちも気をつけて」

 ミランジュが俺の隣で頷いた。


 ジュドはさっきまで、ディミトリが立てた壁の向こう、ワイバーンと卵を警戒していたようだったが、ディミトリの壁が堅牢なのがわかったのか、タコとの戦いに参戦している。

 タコの足がうねるように水路から溢れた。岸壁に貼り付く1本でタコは全身を引き上げようとしている。足が数本見えるが、まだタコの本体は見えていない。だがその足だけでも、その太さは、体格の良いフォルカーの胴回りと同じくらいだろう。


「……マジででけぇタコだな」

 ぼそりと呟いた俺の声に、ミランジュが応じる。

「そうね。人魚を追いかけて這い上がってきたのかな。……ああ、そうか。あのタコ、ミズグモオオダコよ。人魚が好物なの。前回の道中で、漁村の人魚被害を助けた話はコイランさんに聞いた?」

「ああ……聞いた」


「あのタコよりも人魚のほうが泳ぎが早いから、普段は弱った個体しか捕まえられないって話だったんだけど、わたしたちがまとめて退治したら、喜んで食べに来てたのを見たよ。人魚が集まる場所を探して、ついでに弱った個体がいそうな雰囲気を感じ取って、わざわざここまで遡上してきたのかもね。体が大きいから少し苦しかったかもだけど、タコはわりとどんな隙間でも入っちゃうから……」

 どんな隙間でもなんてのは、もっと小さいタコの話だろうと思ったが、反論も面倒なので、とりあえず頷いておいた。


 まだ痛む頭を抱えて目を瞑っていると、それを紛らわしてくれるつもりなのか、ミランジュがぼそぼそと戦況を話してくれる。

「あのタコは、一応魔獣だけど……サイズはともかく、魔獣としてはさほど強くないのよね。あ、フォルカーとジュドが足を1本ずつ切り落とした。炎の魔法は相性が悪いみたい。水をまとっているから威力が弱まってしまうのね。アロイとコイランさんが光の魔法を使って……ああ、効果あるみたいだね。アリシアとディミトリも単純な爆発の魔法に切り替えた」


 そこまで話してから、ミランジュはふと俺の首筋に触れた。

「……ん?」

 応じるように目を開けると、ミランジュが少しだけ眉をひそめていた。

「アロイはさっき、大丈夫そうだって言ってたけど……少し体を温めたほうがいいかも。セロ、あなたの荷物少し探ってもいい? 毛布と湯沸かしカップを持ってくる」

 俺が了承すると、ミランジュは立ち上がって通路のほうに少し戻る。俺たち全員の荷物がそこにまとめられている。


 ややあってミランジュは毛布と湯沸かしカップを持って戻ってきた。

「お茶よりも白湯のほうがいいよ。……はい、少しずつ飲んでね」

 湯気の立つカップを手渡してくれる。それを受け取って1口飲むと、温かいものが体の中を流れていく感覚がわかった。体の中は想像以上に冷えていたのかもしれない。

「魔力切れは血液の流れも滞るというか……遅くなるのよ。魔力は血液と一緒に体を巡るものだからね」

 貧血と、急激な低血圧なのだと思えば納得できた。


「そういえばこのカップを開発したのが、ベルナールさんだっけ? わたしは面識が……うーん、1度か2度くらいは会ったかもしれない。私が冒険者を始めたばかりの頃かな。背が高くて痩せた人よね」

 ミランジュの言葉に頷く。

「ああ。ひょろりと背が高くて、もっさりとした癖っ毛が頭を大きく見せていて、少し猫背の……お世辞にも運動神経がよさそうとは言えない男だ。もともとはな」

「うん、多分2回くらいは一緒に仕事したことあるかも。……あれ? もともと? 今は違うってこと? 姿勢が良くなったとか、鍛えてがっちりしたとかそういう?」

 さて、ミランジュの問いには何と答えたものか……。


 大ダコの、ギュギュギューッという耳障りな悲鳴を聞いて、俺はそちらを見る。好物の人魚を求めて、狭い水路を上ってきたはいいが、そこにいたのが上級冒険者たちとエスリールだったというのはタコにとって不幸だっただろう。ジュドたちは連携の取れた戦闘で、タコの退路を断ちながら足を切り落としている。厳密に言えば、あれは足と腕が混ざっているらしいが、今見て咄嗟に区別がつくものでもない。


 ――ん?

 今なにか……聴覚の端っこに引っかかるものがあったような。

 もっとよく聞こうと、耳に手を当てる。

「どうしたの? 頭痛がひどくなった?」

「違う。ちょっと……」

 静かにしてくれ、と言おうとしたところで、俺の耳が今聞こえるはずのない声を拾う。


「ミランジュ、あいつらに大きな魔法を控えるよう言ってくれ。まだ大声を出せる気がしない」

「わかった。――みんなー! 一旦ストップ! 特に魔法は控えて! セロが何か聞き取ったよ!!」

 ミランジュは立ち上がってそう叫んだ。ミランジュの高い声で頭はガンガンとするが、その分、声の通りはいい。

 それに、ここで「どうして?」と聞き返してこないのはありがたい。俺の能力を疑っていないし、問いを重ねることで時間を浪費しない。


 その声を聞いた冒険者たちのうち、魔法を使う奴らは一歩下がって様子を見始めた。フォルカーも斧を振り回すのをやめ、タコの足を牽制するに留める。ジュドも剣を下ろして盾を主体にタコの体を抑えるような立ち回りに変える。


「セロ、一体なにが……」

 アロイのその声に重なるようにして、水路の上流から悲鳴が聞こえてくる。俺の耳だけじゃなく、今度は全員に聞こえる悲鳴だ。


「うわわわわわーーーっ!!! ベ、ベベベ、ベベベルさん、大丈夫っスかー!?」

「ま、ままま守りの魔法は入れたけどぉーっ! ティモ、モンテ! なるべく速度を落とすようにして岩を掴んでくれない!?」

「岩が! 岩が滑るっスよぉぉぉっ!! モンテさん、そっち掴めるっスかー!?」

「だめだめだめ! うわ、なんだこれ、これじゃファンタジーじゃなくてアクションじゃんかよ!」

 ザパーン!と、人魚の池に大きな水しぶきが上がる。

 これは……昔、日本で見たな。ウォータースライダーだ。


「……ミランジュ。あれがベルナールだ」

 俺は、さっきのミランジュの問いにそう答えた。




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