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【第3章開始!】チートなき世の稀人たち~美少女(30代・独身男性)による見聞録~  作者: 松川あきら
第3章

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20.人間の魔結晶の色は(アロイ視点)



 僕たちが例の洞窟に着いたのは収穫祭が終わってから4日後の午前中だった。ヴィダスで丸1日休養を取ることにして、オスロンからヴィダスまでを1日で飛行してきたので、思ったよりも短い日程となった。

「うわ、聞いてた通りだな。入り口からでも魔力を感じる」

 セロが洞窟の入り口から中を覗き込みながら言う。洞窟の中には、光を嫌う、小さくて弱い魔獣がちらほらといるだけで、奥から感じる強大な魔力の他に脅威はなさそうだった。


「セロはともかく、アロイも意外とこういうの慣れてるんだね」

 そう言ったのはミランジュだ。褐色の肌に赤茶色の髪、小柄で活発そうな印象の女性だ。僕の高等院時代の先輩で、20代前半……セロよりもいくつか年下か。

「意外とって何ですか。僕は結構、冒険者活動してるつもりですけれど。――先輩とは回復術師同士なのであまりご一緒する機会はないですね」

「もう高等院も卒業して、立場は一緒なんだから敬語なんてナシでいいよ。ちょくちょく冒険者ギルドで見かけてたけど、アロイは医術院に合格したじゃない? 学業に専念するのかと思ってた」

「先輩こそ。冒険者活動で資金を貯めたら診療所を開業するんだって言ってたでしょう? 上級冒険者の報酬を考えれば、もう貯まったはずでは?」

 ふん、と笑ってミランジュは肩をすくめた。


「貯まってねぇだろ。こいつ、結構浪費家だぜ。酒場でよく高い酒頼んでるのを見かける」

 セロの言葉に、2人の戦士――ジュドとフォルカーが頷いた。そうか、学生時代はさすがに未成年なので飲酒をする印象がなかったけれど、そういうことなら目標額が貯まっていないのも頷ける。

「そういえばあなたたちはベルナールとよく動いていたわよね。彼、今は何をしているんだっけ?」

 魔導院でベルナールを知っているという魔術師のアリシアが僕に尋ねてくる。


「魔道具屋をやってますよ。ギルドにもチラシが置いてあると思うけど」

 そう答えると、アリシアは「え」と小さく言った。

「ほら、だから言ったろう、アリシア。あのチラシはベルナールの店なんだって」

 アリシアのパートナーであるディミトリがそう言って笑う。

「だって、ベルナールは確かに魔道具作りは上手だったけれど、あまり客商売に向いている印象がなかったのよ」

「あいつも今はちょっといろいろ事情があってな。店が休みの日には俺たちと一緒に採集に出かけたりはするんだが……まぁ、この仕事が終わったらそのあたりの事情は話すよ」

 セロが笑う。そう、今は別に秘密ではないのだ。他の冒険者仲間にも事情を知っている人間は多い。


「準備は大丈夫デスか? そろそろ行きマショウ。前回で、中にあまり脅威がないのは確認済みですが、慎重に行きマスよ」

 コイランがそう言いながら、手のひらの上に光の妖精を出す。美しい光を放つ妖精は、セロが呼ぶものによく似ているけれど、呼び出す時に小声で呟かれた詠唱は、優雅なエスリール語だった。ベルナールがいつも、セロの詠唱は雑だと言うけれど、確かにコイランの詠唱と比べてしまうと、その感想は否定できない。


 それぞれが手に武器を持つ。ジュドは片手剣と盾、ジュドよりも体格が良いフォルカーは小ぶりの戦斧だ。魔術師夫妻と僕、ミランジュは短い杖というか、細い棍のようなものを片手に持つ。セロはいつもより短い弓だ。洞窟の中で長い弓は取り回しが悪い。

 ディミトリも小声で詠唱をして、杖の先を光らせた。コイランは、今は何も持っていないが、ベルトには短剣を提げていた。


「今日はまず、セロが雷の妖精を使って、雷属性の魔力を卵に供給するってことでいいのかな? コイランがその魔力を魔道具で測定して、僕らは何かあった場合に備えるということで」

 僕が周囲にそう確認すると、全員が揃って頷いた。


 事前にそう聞いていたので、僕も一応、まだ改良途中ではあるけれど、魔力回復薬を持ってきている。薬学の教授と一緒に開発しているものだが、まだまだ一般に販売できる性能ではない。……いや、今までこういった回復薬がなかったことを考えれば、画期的なものではあるし、今でももちろん受け入れられるだろう。ただ、もっと性能は上げられるはずだ、というのが僕と教授の共通見解だ。

 それでも、今回はもともと魔力があまり多くはないセロが魔力供給をするということで、教授に頼んで数本、持ち出しを許可してもらった。


(魔力量、という観点で見るなら……)

 僕は同行者の顔をなんとなく順番に見た。


 ――まずは当たり前だけれど、コイランが飛び抜けて多いだろう。エスリールではない人間たちの中なら、魔術師夫妻……おそらくディミトリのほうがアリシアより少し多いかもしれない。維持している魔法の光に揺らぎが全くない。ベルナールもかなり多いほうだけれど、ディミトリは同じくらいありそうだ。僕とミランジュで比べるなら……高等院時代は僕のほうが多かったけれど、上級冒険者として活動しているうちに、ミランジュも魔力を増やしたかもしれない。もちろん、外から見えるわけではないから、オスロンからヴィダスまで天馬を飛ばした時の疲労度からの逆算だ。

 セロの魔力が多くないのは本当だけれど、それは妖精使いとしては、という意味だ。つまり、戦士の2人よりは格段に多い。ただ、ジュドのほうは戦闘時に剣に魔力を乗せることがあるらしく、フォルカーよりジュドのほうが魔力が多いと言っていた。


 そうやって、順番にそれぞれの顔を見ていて、ふと気がついた。コイランが少しだけ難しい顔をしている。今は視界の確保が必要なのと、周囲には仲間しかいないので、いつもかぶっているフードを外している。表情は丸見えだ。


「コイラン、何か懸念でもあるの? 難しい顔をしている」

 光の妖精に照らされた白い顔を見て、そう尋ねる。それを聞いた冒険者の面々もほぼ同時にコイランの顔を見た。

「懸念、というか、デスね……」

 うーん、とコイランが小さく首を傾げる。


 ゴツゴツとした足もと。潮が引いた後の濡れた岩。洞窟の中に籠もった潮の匂い。湿った岩に乱反射する魔法の光と妖精の光。

 洞窟の中は予想よりも狭くなかった。これもコイランから聞いた通りだ。もちろん、少なくともワイバーンが通れた場所なのだから、洞窟というよりも、やや入り組んだ巨大な空洞と考えたほうがいいのだろう。

 時折、モグラのような小さな魔獣が遠くをカサカサと走り抜ける音がする。奥に導かれるように飛んで行くのはウミコウモリたちか。


 そんな空間で慎重に歩を進めながら、コイランが口を開いた。

「属性の話をしマショウか。魔獣たちはそれぞれ属性を持ってマスね? 使う魔法でも属性がわかるし、討伐してしまえば魔結晶を取り出して色を確認できマスね?」

「そうですね。海の近くにいる魔獣は水の属性を持つことが多いし、翼を持つ魔獣は風の属性を持つことが多いですね」

 そう言って頷いたのはディミトリだ。

 例えば先ほど走り抜けていったモグラの魔獣は土の属性を持つだろう。コウモリは風の属性だ。


「では、人間はどうデショウか」

 コイランがわずかに微笑むようにしてその場の全員に問いかける。

「……人間? わからないわ、人間から魔結晶を取り出したことなんてないもの」

 真っ先にそう答えたのはアリシアだ。魔術師ならそうかもしれない。

 けれど、僕とミランジュは顔を見合わせた。

「人間も同じだね。……ねぇ、先輩」

 僕の言葉にミランジュが頷く。


「そうね。わたしたちは高等院で医術を学ぶわ。もちろん、解剖もするの。人間の魔力袋だって、死後には(こご)った魔力が魔結晶になる。魔術や妖精魔法……魔法使いと呼ばれる人は、その人が生前得意だった魔法の色に染まっていることが多い。単色じゃなくって、いろんな色が混じり合ってる」

 ミランジュの言葉の後を、僕が続ける。

「僕たち回復術師は……ほとんどが光の属性に染まっているよ。淡い虹色だ。だから僕と先輩――ミランジュが死んだら、僕らの魔結晶は虹色をしている。そして、以前セロは風の妖精に好かれているとコイランが言っていたろう? 普段使っている魔法を考えるに、セロの魔結晶は風属性と光属性、雷属性の3色が混ざり合っている可能性が高いよ」


 僕らの言葉に戦士の2人が納得するような顔をした。これまでの道中、あまり言葉数が多くなかったフォルカーが思い出すように呟いた。

「昔……大きな討伐で胸を裂かれた死体を見た。魔獣の爪で切り裂かれて即死していた。血肉に混ざって光るものがあったから、遺品なら冒険者証と一緒に持ち帰ってやろうと思って手に取ったら……魔結晶だった。そいつは戦士で魔法は得意じゃなかった。生活魔法くらいしか使ってなかった。……淡く透き通るような紅色だったよ」

 生活魔法で多く使うのは、浄化と発火だろう。

「その魔結晶は……どうしたんだ?」

 ジュドに尋ねられ、フォルカーは戦斧を担いだまま器用に肩をすくめた。

「その場に埋めてやったさ。人間の魔結晶は本来、骨と一緒に埋葬して、土に還してやるものだろう」


 フォルカーの言葉を聞いて、ふむ、とコイランが小さな声を出す。

「そこはエスリールと違う考えデスね。エスリールの魔結晶は、多くは濃い虹色をしていマス。これは回復術師の方々とは違って、長い年月をかけて様々な魔法を使うからデス。光の属性ではなく、全属性としての虹色なのデス。我々は仲間の誰かが肉体の死を迎えたら、丁重に魔結晶を取りだしマス。そして、遺族の家に飾るのデスよ。魔結晶は長い時間をかけて、魔力を空中に放出しマス。死してなお、家族を守る魔力となるのデスよ。例えば、遺族が遠方に複数いる場合は、魔結晶をいくつかに分割して送ったりもしマス。道具として使うことはもちろんありマセンが、それはAmuletas……えぇとTalismanas……」

「お守り、ですか?」

 ディミトリが言う。少しはエスリール語がわかるのかもしれない。


「そう、オマモリ、デスね。だいたいは銀のワイヤーで包んで、ペンダントにしマス。残存魔力は100年ほどで霧散して、色がだんだんと薄くなり、ある日ほろりと崩れマス。ボクたちは、今まで守ってくれてありがとう、と祖先に礼を尽くしマス」

 コイランはそう言って、優しく微笑んだ。


 エスリールは特定の宗教を持たないと聞いたけれど、祖先や年長の者への感謝、そしてそれを繋ぐことを大切にしているのだろう。もちろん、僕たちの魔結晶はたとえそうやって取り出して飾ったとしても、100年も保たない。

 遺族に許可を得て、解剖したご遺体の魔結晶を保存したことがあると、教科書で読んだ。個人差はあるが、10年から20年程度で色を失い、形を失ったという。

 僕らが魔獣から取り出す魔結晶も同じだ。小粒の魔結晶ほど崩れるのが早い。魔法を込めて加工した魔結晶はそれなりに保存できるが、取り出したままの魔結晶は何年も保存できるものではないのだ。


 そんな話をしているうちに、ずっと感じていた大きな魔力を、一段と強く感じる場所に出た。少し開けていて、平らな岩棚もあり、このあたりは地面も乾いている。

「前回より早くここにつきマシタね。やはり一度通った道だからデスね」

「じゃあここで休憩にしよう。……いや、セロとアロイは一度、その通路を曲がった先を見てみるかい?」

 岩棚に荷物をおろして、ジュドがにやりとこちらを見る。


 そうか、その先が……。

 僕はセロと目を見合わせて、同時に頷いた。ジュドと同じように岩棚に荷物を下ろすと、そっと通路を進む。

 突き当たりは岩の壁になっているが左手に曲がるようにして通路が続いている。

 曲がり角までたどり着くと、さらに一段と濃くなった魔力が吹き付けてくるようだった。


 曲がり角の先にある広い空間はまるで岩で作られた自然のホールだ。突き当たりの天井付近からはところどころ、細い午後の陽光が差し込んでいる。そしてその光を浴びるようにして屹立している、大きな卵。その卵を守るように周囲でうずくまっているワイバーンたち。1、2、3……本当に6頭いる。少しずつ色合いが違った。ワイバーンは基本的に赤黒い色をしているが、茶色がかったものもいれば、深紅に近いもの、翼や尾の先端が緑がかったものもいた。


「あっちが人魚か……」

 セロの言葉にホールの左側を見る。水音が響いていた。天然の暗渠になっているのか、上部からはそれなりの水量で水が流れてきていて、ホールの端に小さな池を作り、それはまた岩の隙間に向けて排水されていっているようだ。その池の中に、うぞうぞとうごめくものがあった。岩と同じような色合いだが、確かにガサガサとした質感の鱗と翼のようなヒレ、老婆のような上半身が見てとれる。1匹や2匹じゃない。それに、今まで池の縁が岩で形成されていると思ったけれど、違った。魔力が枯渇した人魚の死骸がそこに積み上げられている。海から無理矢理遡上してきた人魚が、先に遡上して池で息絶えた人魚を押しのけた結果だろう。


 人魚の存在を見つけると、それまでワイバーンの魔力に圧倒されていたけれど、低いハミングのようなものも聞こえてきた。――これが、コイランの言っていた人魚の歌か。

「耳障りというほどじゃないけど……長く聞いていると気が滅入りそうな歌声ではあるね」

 そう言うと、確かに、とセロも苦笑した。


 そしてホールの地面には、コイランの言った通り、コウモリやウミヘビの死骸が大量にあった。みんな、卵のほうに頭を向けて息絶えているので、なるほど確かに、卵に向かって平伏(ひれふ)しているように見える。

 背後から光を浴びた卵とそれを守るワイバーンはどこか神々しく、けれど周囲の人魚の歌声、平伏したまま息絶えた魔獣の死骸は、神々しさとはほど遠い。尊さと不気味さ、神々しさと恐ろしさ、それぞれが()い交ぜになって、心が粟立つような感じがする。

「気色悪いが……綺麗でもある」

 どうやらセロも同じ気持ちのようだ。日本で、不気味なモチーフの名画を見た時のような、恐ろしいのに目が離せない、そんな感じだ。


 これだけの死骸があるのに腐敗臭がしないというのも、どことなく現実感を失わせる要因だ。死因のほとんどが魔力の枯渇によるものなのだろう。魔力枯渇は、文字通り枯れ果てて死ぬのだ。腐敗するより先にその死骸は崩壊する。自主的に魔法を使って魔力を使い果たすのならば意識を失うが、それはやがて自然回復する。その状態をさらに越えて魔力袋が(から)になるまで魔力が引き出されると枯渇する。そして、肉体は枯死する。



 休憩場所の岩棚に戻ると、ミランジュが微笑んだ。

「どうだった?」

「不気味だったよ。そして同時に……どこか荘厳だ」

 僕の感想に、「でしょ」とミランジュは頷いた。

「とりあえずお昼にしましょう。洞窟内で火を使いたくないので各自で」

 魔術師のディミトリがそう言いながら、荷物の中を探る。

 事前の打ち合わせ通りだ。ヴィダスを出る前に食料もそれぞれ買い足していた。


 みんなが保存袋からそれぞれ弁当や携行食を取りだし、ついでに湯沸かしカップも取り出して各自で飲み物を用意する。

「ああ、その湯沸かしカップがベルナール作だぜ? そういえば、コイランがベルナールの店におまえらの分を買いに来ていた」

 セロがみんなの手元を見ながら言う。

「ああ、そうだ。コイランさんからもらったんだよ。前回、コイランさんが使っていて、便利そうだと言ったら、報酬と一緒にプレゼントしてくれてね」

 ジュドが言うのを聞きながら、アリシアは湯沸かしカップをまじまじと見つめている。

「え、コイランさんが言ってた“魔道具屋のベルさん”がベルナール? やだ、やっと繋がったわ!」


 各自で昼食を摂り、お茶を飲んで休憩する。

「さて、これからセロさんにがんばってもらいたいのデスが……その前に、さっきの属性の話の続きをしマショウか」

 コイランが口を開いた。湯沸かしカップを持ったままの全員の顔を見て続ける。

「みなさんは、全属性と聞いて、何種類の属性を思い浮かべマスか?」

「え……9種類、よね?」

 アリシアがそう言いながら、パートナーのディミトリの顔を見る。ディミトリも頷いた。

「ああ。火、土、水、風、光、闇、氷、毒、雷だ」

 戦士2人とミランジュも頷いている。ただ、セロが少し眉をひそめたのが、僕は気になった。


 コイランは、よく出来た生徒に対する教師のように頷いた。

「そう、9種類デス。――ただし、氷は水属性に入りマス。表出する形態が違うだけで、氷と水は本来同じものデス」

「え、じゃあ8種類じゃない?」

 ミランジュが首を傾げた。


「ひょっとして、セロさんは気づいてマスか? 妖精使いの方なら気づくかもしれないと思ってマシタ。それに、セロさんは以前、ボクが使う妖精を見マシタね」

 コイランがセロの顔を見た。セロは手元のカップから、ごくりと1口コーヒーを飲んでから口を開く。

「……命の属性か」

「その通りデス」

 今度こそ正解を導いたとばかりに、コイランはまたしても教師のように大きく頷いた。


「……待って」

 ことり、とカップを床に置いてミランジュが軽く手を挙げる。やはり生徒のようだ。

 そのまま、コイランを見つめて、ミランジュが続けた。

「ねぇ、コイランさんは、卵が孵るためには全属性が必要だろうと思う、って言ってたよね。わたしたちは、セロの雷属性でそれが揃うと思っていた。けれど……違うってこと? ひょっとして命の属性も足りてないの?」

 ミランジュの質問にコイランが頷く。

「ボクの持っていた魔道具では命の属性は計測できマセン。ただ、命の属性はエスリールしか扱えないものデス。あの卵がエスリールに出会ってきたとは思えマセン。ドラゴン研究所にその報告がきていないデスから」


「その命の属性は……僕らの回復魔法で代用できない?」

 回復術師なら2人いる。エスリールや魔術師には及ばずとも、魔力量には自信がある。

 だが、僕の言葉にコイランは首を振った。

「さっき、アロイさん自身が言ったデショウ? 回復術師の方の魔結晶は光の属性に染まる、と。ボクたちが使う命の妖精と、あなたたちが使う回復術は、似た効果をもたらしマスが、本質的に別のものデス」

 なので、とコイランが続ける。

「セロさんが雷属性の魔力を注いだ後に、ボクが命の属性を注ぎます。おそらく、命の属性が一番大量に必要になるデショウ。――大丈夫デスよ、みなさん。エスリールの魔力量を甘くみないでクダサイ?」

 ふふ、とコイランは笑うが、僕はなんだか嫌な予感がしていた。


 例えばセロが魔力切れになったとしても、魔力回復薬を飲ませて少し休ませれば回復する。だが、もしもコイランが魔力切れになったら、1本や2本の魔力回復薬など、エールの醸造樽にスポイトで水を貯めるようなものではないのか。

 だから……だから、ここに来るまで、コイランは命の属性について何も言わなかったのではないのか。

 けれど、もしも事前に言われていたとして、何も用意できなかっただろうことは確かだ。魔力回復薬を樽で飲ませるわけにもいかない。


 そんなことを考えていた僕の顔を見て、コイランはもう一度、ふふと笑った。

「アロイさん、本当に大丈夫なんデス。エスリールの、本当の魔力の使い方を見せて差し上げマスよ」


 考えていることを読まれたことはあまりない。

 なんとなく、ベルの気持ちがわかった気がした。


 けれど、本当に大丈夫だというのなら、道中で見た、あの難しい顔は何だったんだ。




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