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【第3章開始!】チートなき世の稀人たち~美少女(30代・独身男性)による見聞録~  作者: 松川あきら
第3章

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19.収穫祭とその後の予定



 収穫祭が始まった。……とはいえ、私の店は関係ない。むしろ引っ越しの準備でいつもより控えめだ。ただ、収穫祭で街を出入りする行商人や荷運び人がいるので、彼らに向けた商品を集中的に残している。街道を旅する人間が使うような魔結晶や、野営用の魔道具などだ。もちろん湯沸かしカップも多めに用意してあって、売れ行きは悪くなかった。アロイの実家であるクラクストン商会でも売ってもらっていて、そちらも上々の売れ行きだと聞いている。ほくほくである。


 本当は、先日作った近距離通信具も行商人たちに売れそうではあったけれど、あれはまだ少し、形状や魔力の出力に改良の余地がある。満足のいく出来になってから、あらためて新商品として登録して売り出したほうがいいだろう。年越しの祭りまでに間に合えばいいなと思っている。


 引っ越し先の店舗もつい先日、やっと改修工事が終わった。古くなっていた外壁を整えてもらって、1階の店舗部分は私の店と姉の店が入れるように、入り口を2つ付けてもらい、中も半分に仕切っている。2階に姉一家、3階に私とリナが住む形となる。それぞれの階の床と壁も綺麗に張り替えてもらった。最近、湯沸かしカップの売れ行きがよかったおかげで貯蓄に余裕がある。ただ、引っ越しが発生すること自体が姉の都合ではあるし、姉はエリノアを救ってくれた礼だと言って、工事費と引っ越し費用を私に出させてはくれなかった。


 収穫祭が終わり次第、空いた荷馬車で荷物を移動する予定だけれど、引っ越し先はわずか1ブロック先だ。引っ越し自体は姉が差配してくれているので、問題なく終わるだろう。

 私の店の移転オープンと、姉の店の新規オープンのチラシは、リナとエリノアが考えてくれて、印刷所に頼んだものが収穫祭の直前に届いた。


「んっふっふーん、順調順調……」

 あとはモンテから頼まれた魔道具だが、収穫祭の時期は物価が上がりがちだ。モンテも急ぎではないとのことだったので、物価が落ち着いてから素材を仕入れたほうがいいだろう。


「順調……ん??」

 魔石を属性ごとに分けて整理していたが、水の魔石の在庫がかなり少ない。リナが練習で浄化の魔結晶を作るのに、かなり消費したのだろう。

 モンテに頼まれた魔道具は、柔らかい湯たんぽのように、と聞いている。水の魔石と火の魔石を使って魔導樹脂に添加する属性を調整しようと思っていたが、これでは足りない。


 もちろんオスロン市内で普通に売っているものだが……実は、少しだけ遠出をすれば水の魔石を採取できる場所がある。それに、実は試してみたいこともあるのだ。湯たんぽと言われたが、適度な重みと温かさということなので、全てを魔導樹脂にするよりも、水の魔石の細かい粒――言ってみれば、水の砂だ。それを加工したほうが、ちょうどよい重みになるんじゃないだろうかと思っている。


 収穫祭が終わり次第、採りに行こうか。さほど危ない場所ではないけれど、この体はエリノアのものなので安全には配慮したい。アロイとセロを……と思ったが、あの2人はちょうどその時期、コイランと一緒にヴィダスに行くことになっている。ならばティモか。


 そんなことを考えていた矢先。カウンターの上に置いていた通信具が音を立てた。近距離ではない、普通の魔法の通信具だ。魔石に触れながら発信元を確認すると、ちょうどティモの名前があった。


「はーい、ティモ? ちょうどよかった」

『ベルさん? ちょうどよかったって何スか?』

「いや、まぁあとで説明するけれど……そちらの用事は?」

 まさか、私の思考を読んで通信を入れてきたわけでもないだろう。

『あ、そうっス! 今ちょうど、セロさんとアロイさん、コイランさんと冒険者ギルドで会ったんス。ベルさんのお店ももう少しで閉店の時間っスよね? 一緒にお茶でもどうっスか。そんで、その後、収穫祭の街ん中に出かけませんか。オレ、オスロンの収穫祭が初めてで今すっげぇ楽しいんスよ!』


 聞くと、今朝から始まった収穫祭をティモは目一杯楽しんでいたらしい。街の中をうろうろと見てまわり、昼も屋台飯をいくつも食べ、そうこうしているうちにたまたま荷運びの依頼を受けて、それを終えた後に冒険者ギルドへ報告に行ったところ、コイランたちに会ったとのことだ。

 コイランとセロ、アロイはおそらくヴィダス行きのことで打ち合わせでもしていたのだろう。


 ちょうどもう少ししたら店を閉めて、冒険者ギルドに新しいチラシを置きに行こうと思っていたところだ。商工会のほうへは、姉が挨拶がてら配りに行っていたので、私は冒険者ギルドや魔術師ギルドのあたりに配ってほしいと頼まれていた。

 リナは一足先に収穫祭に出かけていて、そのままエリノアに収穫祭の土産を届けるのだと言っていた。



 30分後、私は冒険者ギルドでティモたちとテーブルを囲んでいた。ギルドの近くにも他の店がいくつか露店を出しており、ギルドのカフェテリアはそちらの客たちにも無料で開放されていた。

 そのせいもあって外の席は混み合っていたので、私たちは店内に陣取っている。

「そんでベルさん、オレが通信入れたのちょうどよかったって何スか?」

 ティモの疑問にあらためて答える。

「ああ、収穫祭が終わったらちょっとティモに付いてきてほしいところがあってさ。ここから南西に半日と少し……朝早く出れば夕方にはつくくらいの場所に採集の用があってね。危ないところではないんだけど、体が体だから、一応誰かに付いてきてもらおうと思って」


「ご、ごごご、護衛ってことっスか!?」

 何故かティモが動揺している。

「私のほうでも引っ越しとか荷造りがあるから、収穫祭が終わってすぐというわけではないけど、何日か後には」

 そう言うと、アロイとセロが納得したように頷いた。

「なるほど。僕たちがちょうどヴィダスに行く頃だね。なら僕らは付き合えないか」

「ティモ1人で大丈夫か? ていうか、ベルはどこに行くんだ?」

 セロに問われて、私は小さく笑った。

「ああ、“水の山”だよ。水の魔石がわりと大量に必要なんだ。それも小粒のをたくさん欲しくてね」


「“水の山”……というのはどんなところデス?」

 コイランが首を傾げた。アロイが頷いて答える。

「ああ。水属性の魔石が多く採れる山でね……というか、少し前までは水の魔石の採掘場だったんだ。露天掘りのね。大きなものはもう取り尽くして、今はもう小さなものしか残っていないから、出入りは自由になっているんだよ」

 そのアロイの言葉に補足するようにセロが続けた。

「採掘場だったから、周囲に魔獣はほとんどいない。ただまぁ、周囲に人家があるようなところでもねぇからな。人の手が入らなくなれば、そういう場所が自然に還るのは割とすぐだ。何か出てもベルナールなら、ティモが多少ビビっても何とかなるだろうけど……そもそも2人とも若干にぶそうなのが気になるな」

 あ、ちょっと失礼。――いや、本当なんだけど。


「うーん、でも採掘場跡地に行くのに、わざわざ何人も雇うほどじゃないしなぁ」

 そんなことでいちいち冒険者を雇っていては、採算がとれなくなってしまう。

「そもそもなんでそんなものが欲しいの? 売ってる水の魔石じゃ足りないの?」

 アロイに問われて、私はちらりとセロを見た。

「ああ……モンテの依頼なんだ。マッサージで使いたい魔道具があるからってね。売ってる魔石は大粒のばかりじゃないか。そうなると若干割高だし、砂粒に近いくらいのサイズで使いたいからさ、大きい魔石じゃすりつぶすのも大変なんだ」


「まぁあのあたりは、小高い丘を露天掘りで削ったせいで周囲がひらけてるからな。水属性の魔石が採れるってだけで、実際に水があるわけじゃねぇし……いや、水の気配はあるんだけど表面には出てないから、獣の水飲み場にもならねぇんだよな。2人でもいいんじゃねぇの? 出るとしたら、水属性の魔力溜まりから生まれる魔蟲くらいだろう」

 セロの言葉に私も頷いた。

「一昨年の夏に行って以来だけど、その時もそうだったよ。魔蟲くらいはさすがに私1人でどうにでもできるし、それはそれで素材になるしね。ただ、距離的に泊まりになるから道中のことを考えてティモに来てもらいたいんだけど」

 そう行ってティモを見る。


「護衛! ベルさんの護衛っスね! 行くっスよ!」

 フンッと鼻息を漏らしてティモが請け負ってくれた。

「そういえばおまえ、ベルナールの外見じゃなくて中身に惚れてるって言ってたな」

「護衛が護衛対象を襲ったら僕とセロが君を始末するからね?」

 セロとアロイに軽く睨まれて、ティモがうひぃと声を漏らす。

「そ、そんなことしないっスよ! オレはベルさんを大切にしたいっていうか、もっとこう精神的なものであって……」

 ごにょごにょとティモが何かを言っているが、私はそもそも気にしていない。ティモが私に対してそういう視線を向けてきたことはないからだ。


「なぁ、そろそろ屋台めぐってみねぇ?」

「ああ、いいね。今年は何か面白いの出てるかな」

 ティモはまだ何か言い続けているが、セロとアロイはそれを聞いていないようだ。外の様子を窺って、そう提案してくる。

「ユラルに住んでしばらく経ちマスが、オスロンの収穫祭は初めてデス。さっき少し見ただけデスけれど、面白そうな食べ物がたくさんありマシタね。ボクは、小さな球体が繋がった形のドーナツを食べてみたいデス」

 コイランが嬉しそうに言う。それはニホンで有名なドーナツだとセロが解説していた。


「そういえばコイランたちは顔合わせしてたの? ほら、セロとアロイが加入するのに、もとの冒険者たちとさ」

 私の問いに、コイランは首を振った。

「いえ、ボクの同行者にセロさんとアロイさんを追加してモラウよう、ギルドに申請しに来ただけデスよ。セロさんたちも都合がついたノデ、冒険者証を一応チェックしてもらってマシタ。報酬の支払いのこともありマスし、事前に申請しておいたほうがいいんデス」

 コイランがそう笑ってセロとアロイを見る。


「俺たちは顔合わせするまでもねえさ。あいつらとは顔見知りだし、何度か組んだことがあるからな」

 セロは以前にもそう言っていた。おそらく、少し前のワイバーンモドキ討伐で一緒に行ったパーティなのだろう。

「アロイもそうなの?」

 そう聞いてみると、アロイも頷いた。

「僕も組んだことはあるよ。特にあのチームの癒やし手……ミランジュは高等院時代の先輩だし。魔術師の夫妻は確かどちらかが君の同期だっけ?」

 そう聞くアロイに私も頷く。

「ああ、同期というか……アリシアが魔導院の2期下なんだ。ただ、学年が違うから知り合ったのは彼女が冒険者になってからだけど。そのパートナーのディミトリは私の冒険者時代に何度も一緒になったね」


「お互いに顔見知りと聞いていマシタので、詳細な打ち合わせはヴィダスに向かう道中で良いダロウということになりマシタ。出発は、収穫祭が終わった翌々日デス」

 なるほど。収穫祭は楽しんで、翌日の休日を挟んでの出発か。行商人たちの日程とも重なる。ヴィダスへ向かう道は、オスロンと首都、またはオスロンと北の街を結ぶ大きな街道からは外れているが、それでもヴィダス方面に向かう行商もいるだろう。コイランたちは天馬を使うのかもしれないが、移動する人間が多いタイミングのほうが、道中の危険は減るのだ。……減るというより、分散すると言ったほうが正しいかもしれないけれど。


「じゃあまずはそのポン・デ……まぁ、ドーナツか。あと、港のほうが賑やかだったな」

 椅子から立ち上がりながらセロが言う。アロイも同時に立ち上がり、鞄を手にしながら口を開く。

「来る時に橋を渡ってきたけど、港に大きな船が着いていたよ。多分、北からの船だ。去年から明太子がオスロンに普及してきたし、今年も北の海産物が多いと嬉しいな」

「船に積載する大型の保存箱の普及デスね。南からの船も来マスか? ボクは南海に棲息する小型のシーサーペントを焼いたものが好きなんデス」

 コイランも立ち上がり、脱いでいたフードを深くかぶった。


「だからつまり、オレはベルさんを襲わないってことっスよ!!?」

 どん、とティモがテーブルに拳を叩きつけた。


 ティモ……その話はもう随分前に終わってるよ?



 

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