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その夜

「サラの様子は?」

「眠っているわ。あれだけのことを、見てしまったもの……。強い衝撃を受け、泣いて……。疲れも出たのよ。ベニックス国までの道中、夜、うなされることも多かったし……」

「ジェーン、君は?」

「……見て、楽しい光景ではなかったわ。それに……。もっと、すっきりすると思ったけれど……」


 処刑されたコルデさんたちを思い出す。

 今日が最後の処刑だと、最も重罪とされた六人が大勢が詰めかけた広場へと現れた。


 サラが嫁いでいた家の者は、意外と冷静だった。状況を受け入れ、己の死で罪を償おうとされていた。それに比べ、コルデさんは見苦しかった。

 自分は悪くない。陛下が勝手にやったこと。頼んだことはない。皆が私を馬鹿にするから。もっと分かりやすく教えてくれれば。知らない、助けて、死にたくない。ずっと叫び続けていた。

 いくら叫んでも、助けてくれる人はいない。そして泣き死にたくないと言い遺し、コルデさんの生涯は終わった。

 あれだけ好きに生き、この状況となっても、自分にはなんの責任もないと思っていることに、私は呆れた。


 サラはディロの最期の言葉に、怒った。

 なにを当たり前のことを、今さら言っているのだと。罪を犯さなければ、母は死なずにすんだと、怒り泣いた。

 あの怪物たちを生み出した男にしては、最期はまともな言葉だったのかもしれない。

 けれど、あの舞台に上がるよう動いたのは、彼自身。噂で聞いていた姿と、最期の言葉の乖離(かいり)。ディロという男を直接知らない私にとって、なにが彼を変化させたのか、純粋に気になった。しかしそれを口に出せる雰囲気は、とてもではないが、今この国にはない。


 そしてロガン前国王は、完全に錯乱していた。


「く、来るな……! セミーリャ、お前は死んだ! 死んだはずだ! なのに、なぜ……!来るな! 近づいて来るな! 私に寄るな!」


 処刑人を亡きセミーリャ王妃と思いこみ、亡霊だと騒いだ。


「だけど、コルデさんたち、お似合いの夫婦だったと思うわ」

「そうだな、現実を受け入れない、好き勝手に生きる。とてもお似合いで、似た者夫婦だったな」


 あそこまで死に脅えるのなら、真面目に政務に取り組めば良かったのに。そうすれば、処刑台に上がることはなかった。死を恐れていながら、なぜ民から死を望まれるような人間になったのか。理解できない。権力というものは、それほど人を狂わせるものなのだろうか。


「これからあの二人(・・)、生きていけるだろうか。殺されなくても、辛い日々しか待っていない」


 お酒の入ったグラスを傾けるトゥロ様の発言に、同意と頷く。

 オルグ王は、あの二人だけ違う形で処罰を行うと発表した。

 ベニックス国から排斥(はいせき)さし、身柄をラコーレ国へ送る。そしてラコーレ国で、罪を償わせると。

 二人はラコーレ国で匿われていた期間に、壊したモノたちの賠償金を払うよう、国同士で取決めが交わされた。つまりあの子どもたちは、莫大な借金を抱え、ラコーレ国へ引き渡される。


 そう、あの二人に迷惑をかけられた者たちが、手ぐすね引くように待っている国へ。


 二人は一応、サート様の実家が預かるとも発表された。そこで働きながら借金を返済する予定だが、一生かけても返済できない可能性が高いが、皆、それでも良いのだろう。やっとお仕置きができると、それを楽しみにされているようだから。

 誰も甘やかしてくれない。誰かが監視し、その人件費も借金に加算される。そして眠る時は牢に入れ、逃さない。

 そんな生活、あの二人に耐えられるはずがない。文句を言うに決まっている。だけどもう、後ろ盾のいない二人を恐れる者はいない。むしろ反抗すればするほど仕置きできると、その時を心待ちにされているが、その現実をあの二人が受け入れられるだろうか。


「生き地獄しか待っていないでしょうね。自分たちが働くなんて、思いもしなかったでしょうから」


 私も自分の手でグラスを用意すると、それに少しお酒を注ぐ。


「君はこれから、どうする?」

「………………」


 今日を終え、これで一区切りはついた。


「これからもエレッシオンにあるセクレート本店で、書類整理の仕事を?」

「トゥロ様は、支店のない国々を回られるのよね?」

「そうだね。エレッシオンに居るより、他国を回る日が多くなる」


 それを聞き、一口お酒を飲む。


「ジェーン、私は今も君に好かれたい思いは変わっていない。私の手を取ってくれないだろうか」

「………………」


 コルデさんたちと出会ってから、トゥロ様にどんなに助けられたのか。

 今も彼がエレッシオンで、一人になる私を心配している気持ちが伝わってくる。


 ラコーレ国で暮らしていた時からそう。この方は私を思い、守ろうとする。

 彼の仕事に取り組む姿勢は真面目で、ご夫人方が夢中になるのも分かる。すっかり私も彼を頼っている。でもこの気持ちが依存なのか愛なのか、まだ分からない。その葛藤(かっとう)が彼に伝わったらしい。


「今ここで返事が欲しい訳ではない。ただ、エレッシオンへ帰ったら、またすぐ他国へ発つ。長く離れることになるから、つい口走っただけだ。もう寝よう。明日は早く出立するのだから」

「ありがとう、トゥロ様」


 部屋へ帰った彼を見送った後、しばらく一人でグラスを傾け寝室へ向かう。

 サラは眠っている。


 リッテは、いつも『お嬢様が生きたいよう、生きて下さい。私はお嬢様の味方ですから』と言ってくれる。無理にトゥロ様を受け入れろとも言わない。

 けれど、いつまでも彼女に甘えることはできない。

 リッテは妊娠した。子どもが産まれれば、いろいろ環境も変わる。いつまでも『お嬢様』を心配させる訳にはならない。


 セクレートの給金があれば、一人で生きることはできるかもしれない。

 けれど、隣に誰の姿も……。トゥロ様がいなくて、生きていくことはできるのか。


 ベッドに潜り目を閉じる。


 未来を考える私の中から、すっかり元夫、サートは消えている。

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シリ ーズ1作目、2作目は以下、リンク貼ります。

1作目
別れと旅立ち

2作目
敗北の王妃の願い
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