最期の時
沢山の声が重なり、まるで違う音を作っているかのよう。
大音量の中、後ろ手に縛られ歩く。背後からコルデの泣き声が聞こえているが、もう振り向くことさえ許されていない。
ただ前を向いて歩く。
先頭がティーゴなのは、狙ってのことだろう。両目を潰された息子を先頭にすれば、嫌でも行進は遅くなる。その間、集まった民から様々なモノが投げられる。石が当たり、血が流れても誰も咎められず、それでも私たちは歩き続けなくてはならない。死の舞台へ向かって。
最初から結末は分かっていたのに、なにかに脅えているよう、震えながら指示された場所に座る。
一層の声に襲われ、呼吸は乱れる。
「泣けば許されると思うな!」
「早くそいつらを殺してちょうだい!」
「あたしらの苦しみは、そんなもんじゃない!」
まるで合唱のように、広間に集まった人々は怒りという音を奏でる。
「最期になにか言うことは?」
リフィの家族は毒を入手したりして、積極的に加担した罪で昨日処刑された。遺体は行進する私たちにも見える場所に張りつけられ、その体には、亡くなった後も傷つけられたであろう痕があった。
その光景を見て、コルデは泣いて叫んだ。自分もそうなると分かり、恐怖を抱いたのだろう。腰を抜かしたが、容赦なく髪の毛を引っ張って起こされ、無理やり歩かされた。
だけどね、コルデ。問われた罪の中で、貴女の犯した最大の罪は、殺人。
人を殺めるということは、発覚した時、処分を受ける覚悟が必要だった。それを分からず簡単に提案して、この場でやっと理解するなんて……。最期まで、愚かな娘だった……。
「……特にない」
ティーゴが答える。
昨夜、最後の夜。ティーゴとリフィはずっと手を繋いでいた。性格は褒められた二人ではないが、お互い愛し合っている。もうそれだけで、遺す言葉はないのだろう。
合図が打ざれ、大きな音が響き、一瞬の静寂の後、大声があがる。
「お、お、おに、お兄様ぁ! いや、いや、嫌よ! 嘘よ! これは夢なのよ! 夢に決まっているわ! 嫌、嫌、嫌! 死にたくない! 嫌! 離して! 許して!」
「コルデ、これは現実で我々の犯した罪に対する、刑だ」
夫、ディロの最期の言葉はそれだったが、コルデには届かない。まだ叫び、抵抗しようとしている。
夫が終わり、次は私の番。なにを言えば良いのか。考えながら深呼吸をし、改めて広間を見渡し、両目をむくよう開かせた。
……なぜ? どうして、ここに?
彼女の姿を見て、涙が溢れそうになるが堪える。
「最期になにか言うことは?」
なぜこんな場所へ来たの? どうして最期まで……。
一緒にいるのはトゥロ様と、誰かしら。泣くあの子の肩を抱き、なにか声をかけている。こんな所にまで付き合ってくれるなんて、よほど親しい仲なのだろう。
あの子と視線が交わる。
落ちついて、落ちつくのよ。これが最期なのだから。子どもたちに恥じぬよう……。
言い聞かせ、背を伸ばし堂々とする。一瞬声が静まった今、ここで言うしかない。あの子へ届くように。
「私は! 誰が言おうと! 子どもたちの母であることを恥じません! 子ども達を愛しています!」
直後、これでも足りないと罵声が沸き起こる。
結局守れたのは、サラだけ。でもそんな彼女の前で、今から私は処刑される。
皆、駄目な母でごめんなさい。もっと強く粘って言い聞かせ……。夫にも逆らっていれば……。
サラ、貴女も私の子よ。
だからどうか、私がいなくなっても、幸せに生き………………。




