オルグの本音
これで一山越えた。
今日は判決を言い渡す予定ではなかったが、これで良かったのだろう。もし私が王を続けるのであれば、どのような態度で臨むのかを大勢に示せたのだから。偶然とはいえ、良い機会となった。
「陛下、セフォン様が謁見を望まれています」
「分かった、通せ」
セフォン殿は城に滞在し、裁判中は口出しをすることなく、本当に見ているだけ。時々なにかを記しているが、それらはきっと、リュイゼへ嘆願書を送った国々へ渡す書面だろう。
セフォン殿が入室し、二人きりとなる。
「早速だがオルグ、次からは判決を告げるのであろう? それが終わり、処刑執行まで何日かかる?」
処刑される人間が出ると、さすがに隠しようもないか。否定することなく、素直に答える。
「少なくとも、一度リュイゼへ帰れる時間はありません」
「そうか」
セフォン殿のことだ。この場合を想定し、手を打っているだろう。
彼女が書面にどのようなことを記したのか、気にならないと言えば嘘になる。なにしろその文面は、ベニックス国の未来がかかっているのだから。
「今日の青年だが……。野次は飛ばせても、いざ人前に出て、なにか意見することの難しさを知ったようだな」
「無理のないことでしょう。突然あのような目にあえば、臆することです。しかし、少しばかり彼に期待はしていました。なにしろ四人とも、まともに話そうとしなかったので、風向きを変えたかったので」
運ばれてきた酒に二人とも口をつける。
こういう場面で、セフォン殿は一切の躊躇を見せたことがない。毒が混入されているのか、気にならないのだろうか。それほど信頼してくれているのか、毒に耐性があるのか……。掴めない所がある御方だ。
酒といっても、あまり高い酒ではない。父が集めていた高級な酒で、未開封の品はすでに売り飛ばした。何本か急な国賓のために残してはいるが、今の我々には不要である。
セフォン殿も国賓のため、ふさわしい酒をと思ったが、すでに一度断られている。自分に対して振る舞うより、別の機会に生かせと。
「それにしても、あのお前の妹。メッセといったか。我が言うのもおかしな話だが、なかなかに勝ち気な娘だな。セミーリャにどこか似ている。育ての親の影響は大きい、といった所か。それに比べロガンは、時々妙に察しは良いのに、残念な男だ」
「黙っていればどうにかなると思ったのでしょう。話が進まなければ、処刑される日が伸びると、浅知恵が働いたのかもしれません」
「結局は追い出され、意味はなかったな」
その時の様子を思い出したのか、ふっと笑みを漏らされる。
「さて、日を追うごとに罪深い者が登場していたが、最初の頃の者たちはどうなる?」
「今日の告げた判決と、あまり変わりはありません。財産や身分の没収ですね。品々は海外で売り、それで得た金を民のために使いたいのですが……」
まだ酒の残ったグラスを、テーブルに置く。
「未来を幾つ描いても、実現できる保証がありません」
「しかしお前の描いた未来が良いものであれば、誰かがそれを引き継ぐはずだ」
「………………」
それには答えず、膝の上で手を組むと、それをじっと見つめる。
そんな私をセフォン殿は見据え、尋ねてきた。
「死ぬのが怖いか」
「………………はい」
長い沈黙の後、両目を閉じ、認めた。
民から死を望まれても仕方がない身である。頭では分かっていても、父を殺そうとしていても、いざ自分が死ぬと考えたら恐ろしい。セシア様たちのように、その場面に立ち向かえるだろうか。自信がない。
見苦しく生にしがみつこうとする自分を想像すると、そんな醜態をさらすことも恐ろしい。
生きることになっても、死ぬことになっても、どのような未来でも恐ろしい。
「結局私も、あの男の息子なのです」
両目を開けて顔を上げ、自虐的に笑うが、セフォン殿は笑わない。それどころか……。
「死を恐れるのは、人間の本能という教えが我々リュイゼにはある。我の父も、一族の者たちも、もちろん我も恐れている。侵入者を排除する者たちなど、特にそうだ。反撃され、命を落とすことがある。自分自身だけではない。自分の大切な存在が死ぬことを恐れている者も、多い。それが普通だ」
「貴女も死を恐れているとは、意外でした」
皮肉でもなく、本心の言葉だった。いつも堂々とされ、何事が起きても動じない。そんな女性だと思っていたから。このように言葉にされ、やっと生き方や姿勢が異なるだけで、同じ人間なのだと改めて思う。
「だから死なないよう、力を身につける。生きることに必死なのは、誰も同じだ」
そう言うとセフォン殿は、グラスに残っていた酒を一気に飲み干した。
「オルグ、お前が生きることになっても終わらない。多くの者が許したとしても、必ず許さない者もいるからだ。だが忘れるな、屈するな。お前は一人ではない。仲間がいるではないか」
彼女なりに私を励まそうとしてくれているのだろう。
そうだ、死ぬ時は家族が一緒か。そして向こうでは、先に逝った者たちが待ってくれている。
母は、再会した時、なんと声をかけてくれるのだろうか。恥ずかしくならないよう、胸を張って会えるよう、負けていられない。どのような道だろうと、立ち向かい受け入れる。それが私の役割であり、立場なのだ。
私も残った酒を、一気に飲み干した。




