表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/41

火事の後日

 なんということだ。

 せっかくディロが領主代行から退き、これからは奴が得ていた横領金を、満額自分のものにできると喜んでいたのに。まさか別荘の一つが、燃えるとは……。


「全焼?」


 新聞屋から届いた手紙を読み、叫ぶ。


「くそ、貧乏人どもが! 消火もまともにできないのか! 税金を上げてやろうか!」


 送られてきたばかりの手紙を、怒りのまま破いて床に捨て、踏みつける。


 だが言うだけで、実際に税金を上げることはできない。なぜなら領の一部で、税金を払えない者が増えている。今の税金さえ払えない貧乏人相手に税金を上げては、ますます払えないと牢に送られる人間が増えてしまう。それは避けなくてはならない。

 今では多くの牢が、まともに機能していない。

 満杯の牢に、別の罪を犯した者が連れて来られても収容できないので、注意をして放している状態だという報告が届いたばかり。今回だけだと念押しはしているそうだが、それがなんだという。そもそも注意されて反省する奴が、罪を犯すか? 私の領がこれ以上、治安悪化しては堪らない。


 領も問題だが、我が家の事業も上手くいかない。取引先が手を引いたり、品が売れなかったり……。金に困り始めている所に、別荘が全焼だと?


「どんどん貯蓄が減る……」


 テーブルに両肘をつけ、頭を抱える。

 あの別荘には値打ち品が多くあった。それを売れば、相当の金になったのに。いや、まて。宝石なら残っているかもしれない。火事により琥珀など溶けた石もあるだろうが、無事である石もあるのではないか?

 すぐに焼け跡に向かい、掘って探させたが、なにも見つからなかった。


 そんな馬鹿な! 一つ二つではない! それなりに大きい宝石もあった! それが一つも見つからないなんて、あり得るのか?

 別荘を管理していた一家を呼び出し、睨みながら問う。


「お前たち、全て焼けて消えると思うか? なに一つ金目の物が見つからないのは、明らかに妙だ。誰かが盗んだとしか思えない。盗人(ぬすっと)に心当たりはないか?」

「……ございません」

「煙がひどく……。慌てて近くの村へ、消火の手伝いを頼みに向かい……」


 家族は縮こまり、言い訳のように小さな声でなにか言っている。とりあえず自分たちは盗んでいない、そこだけは聞き取れた。


「実は、もう一つ手紙が届いている。差出人の名はなかったが……。お前たち家族は普段、管理人としての業務を怠っていたそうだな。庭は雑草だらけ、噴水の水はどろどろ。しかも、この私、秘蔵の酒にまで手を出していたとか。各自火がついた時、どこにいた」


 管理人として仕事を怠っていたことを認め、その時間は昼寝をしていたり、酒を飲んでいたりしていたと答えてきた。近くを通った村人が、別荘の裏手から煙が出ていることに気がつき、飛びこんできたので逃げ出したと話す。

 本当に人の別荘を、我が物顔で使用していたのか!

 逆上して怒鳴りそうになるが、心のどこかが警報を鳴らす。その警報は、冷静になれと伝えてくる。


 ……なんだろう、この嫌な感覚は。税金のこと、商売のこと、別荘の火事。ゆっくりじわりと、追いつめられているような……。

 冷や汗を流しながら、胸の辺りを握りしめる。


 そうだ。この辺りに住む奴らは、ディロの祖父が識字率を減らした。読み書きできる者は、ディロの味方とも言える奴らばかり。そいつらは皆、ディロから報酬を受け取り、美味しい思いをしている。この管理人一家も、読み書きができる者たち。それなのに、仲もの誰かが裏切り、この管理人を告げ口するのは妙ではないか?


 怪訝(けげん)なことに、感情的になることを避ける。ひとまず管理人一家には後日処分を下すと言い伝え、帰した。


「旦那様、お手紙でございます」


 だが、また差出人不明の手紙が届いた。その封筒に書かれた文字は、見覚えがある。管理人一家の所業について書かれていたものと同じ。今度はなにが書かれている?

 開封すると、火事に乗じて宝石を盗んだ者がいると書かれていた。その犯人の名前も。しかも、ディロから密命を受け、宝石を奪った可能性もあると。


「調べる必要があるな……」


 今度は破らず、手で握り潰す。

 あの男……。自分の娘が王妃になったから、私を領主の座から降ろし、自分が領主になろうとしているのか? それらも含め、徹底的に調べなくてはならない。




 家宅捜査の結果、その男の家から大金と宝石が見つかった。もちろん宝石は、別荘にあった物だ。


「吐け」


 ムチを振るう。


「で、ですから……。それらは、デッセ様が、送ってこられて……」


 だが男は金と宝石は、私から受け取ったと言う。使者と名乗った者から、直接受け取ったと。もちろん私はそんなことを行っていないし、こいつに金や宝石を渡す理由がない。


「言え、ディロから頼まれたのではないか?」

「ち、違います……っ」


 私からの手紙を受け取ったと言うが、その手紙は読んだ後、燃やして処分するようにと指示されていたので、それに従ったと言う。つまり男の話に、なんの証拠もない。

 こんな馬鹿な話、誰が信じるという。手紙とやらが残っていても、私と筆跡は違っていただろう。脇が甘い男だ。ただ字が読み書きできるだけで、貧乏人の愚者が! 私が騙されると思うな!


「そ、それに……。火事があった日は……。怪我人を連れ、別荘から離れ、村で逃げた鶏を、捕まえるのを、手伝い……」


 この宝石については、管理人一家が火事のあった日、別荘にあったことを証言している。時計の針の先端に使われており、少し変わったカットがされているし、時間を確認するため時計は見るので、無くなっていたら分かると言う。

 ならば、消火の最中に何者かが盗んだのだろう。男が言った怪我人と老婆を呼ぶ。男はこう言っているが、事実かと二人に問う。


「へえ、確かに鶏は飼っております。毎朝卵を朝食で使いましてね。もちろん領主様の火事があった日も覚えておりますとも。あんなこと、めったにありませんから。生憎(あいにく)と私は足と腰が悪く、消火に貢献できないと判断し、村に残っておりました。申し訳ありません」

「余計な話はいい、さっさと質問に答えろ。お前はあの日鶏を逃がし、この男に捕まえるよう、手伝いを頼んだのか?」

「いいえ、頼んでおりません」


 男は嘘だ、このもうろく(ばばあ)、と叫ぶ。なんと下品な男だ。ますます疑わしい。


「私は、足を挫いたことは確かです。でも肩を貸してくれたのは、別の人です」


 そう言って女は別の男を指し、その男も間違いないと頷く。また男は嘘だ、友人なのに助けてくれないのかと叫ぶが、決まったな。


「お願いします、よく調べて下さい。きっと目撃者がいます。おい、お前ら、なんのつもりだ! 嘘を言いやがって! ふざけるな! 一緒に暮らして来た仲間じゃないか! 友人だろ? 助けてくれよ!」


 火事のあった日だからこそ、よく覚えていると村人たちは言う。だが男の話に、誰も味方をすることはなかった。


「この男を盗人として捕らえろ。背後に黒幕がいないか調べるため、連行する」

「お待ち下さい! 我が家はこれまで、どれだけこの地に貢献してきたか……。おい、お前ら、なんなんだよ! どうして嘘を……! 仲間じゃないか! 助けてくれ!」


 縄で縛られながら、見苦しく男は(わめ)く。


「火事のどさくさに紛れ、領主様の家から盗みを働くとは、とんでもない野郎だ!」

「盗むため、お前が火事を起こしたんじゃないのか?」


 一人が石を投げれば、集まった人々が続々と落ちていた石を拾い、男に向かって投げる。


「ここから出て行け! 裏切り者!」

「二度と村に帰って来るな!」


 他にも余罪があるように皆は叫び、石を投げる。どうやらこの男は、嫌われ者だったらしい。

 罪人を連れ、異様な雰囲気の村を発つ。


 ガラガラ、ガラガラ。馬車の車輪が道の上で移動しながら周り、小石を弾く。馬の蹄の音も聞こえる。だから今も石を持った村人の声が、私に届くことはなかった。


「……まずは一人」

「ディロの仲間は、許せねえ」


 ディロと繋がっていない者たちが、徒党を組んでいたと知らなかった。それを指揮している人物が、何者かということも。

 馬車に揺られる私は、一つ問題が片付いたと浮かれ、真の黒幕に気がついていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリ ーズ1作目、2作目は以下、リンク貼ります。

1作目
別れと旅立ち

2作目
敗北の王妃の願い
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ