無責任な無所属の者
「まさに異常です、各地で一斉に同じことが起きるとは、前代未聞! これはきっと、誰かが糸を引いているに違いありません!」
熱弁をふるっているのは、以前は王妃派だったが、セミーリャ様が毒で倒れた直後、王派に鞍替えた男だ。
まったく、派閥など下らない。セミーリャ様は亡くなったのに、いつまで引きずっているのか。
今の王と王妃の仲は悪くない。しかもあのコルデ様では、仮に王妃派が出来ても、所属するのは、成り上がりの貴族ばかりになるだろう。金はあるが、歴史はない者たち。さらに、国外に太いパイプがある者は少ない。数こそ多いが、脅威にはならないだろう。
私のようにどこの派閥に属さない者にとって、派閥など面倒でしかない。その時の情勢を考え、波に乗りかえればいい。あっちこっちと意見を変え一貫していないが、これが楽なのだ。
そういえば最近、妙にセミーリャ派の者たちは、商売が軌道に乗っている気がする。特に国外との取引が盛んで、羨ましい話だ。きっと派閥内で、商売人の紹介をし合っているのだろう。こういう時、無所属は辛い。だが諸々の面倒を考えると、現状が一番だ。
「各地と言うが、発生したのは、黒い噂のある領ばかりだな」
「ああ」
隣の席に座る、同じ無所属の男が話しかけてきたので頷く。
「お前の所はどうだ? よく領民の訴えを聞くだけで、実際それで動くことは少ないだろう? その内、納税を拒否されないように気をつけろよ」
「そんなへま、犯さないさ。それに領民なんて、ただ同意してやっていれば、勝手にこっちを良い人間だと思ってくれる、ちょろい奴らばかりだからな」
「そうか? 侮りすぎず、気をつけろよ」
領民の訴えなんて、親身に聞いている体を装えば良いものばかり。さすがに天災による被害など、国が本腰を入れるよう命じるような、のっぴきならぬ事情が絡めば、そんなことは言っていられないが。大半は聞き流して支障のない内容ばかりだ。
「納税するには金を得るため、働く必要がある。働くには食と睡眠が大事だと言い張り、牢は彼らに占拠され、正常に機能しておりません。警備兵、徴収班等の指示にも従いません。陛下、いかがいたしましょう」
「………………」
陛下は沈黙を貫く。良い考えが浮かばないのだろう。皆、辛抱して待っていると、痺れを切らしたのかパニエ様が発言する。
「対応策はさておき、現在、国庫は困苦の状態。このまま税を徴収できなければ、いずれ経済は破綻するでしょう」
「ですから、その対策を決めてほしいと!」
「儲かっている奴らに、さらに課税を!」
パニエ様の発言により、思い思い叫ぶ人たち。
意見があって通したいのなら、最初から言えばいいのに。なんで王へ進言しないかね。
儲かっている奴に追加課税するのは、内心賛成だ。セミーリャ派は、痛手を受けることになるだろう。この流れが出来たら、それに乗ろう。反対意見が多ければ、反対に回るしかないが……。
そんなことを考えていると、パニエ様が片手を掲げ、場を静まらせる。
「現在、国庫がこのようになった原因。また、今後どれだけ逼迫するか、皆様、想像も容易でしょう」
セシア様も片手を上げ、言葉を引き継ぐ。
「リュイゼの地を通ることは叶わず、南方との交易に支障が出ています。ラコーレ国以外にも、我が国と距離を置く国も続出しております。これらの国々に対し、どのように挽回するか、早急に対策を考えなくてはなりません」
多くの人の視線が、王と王妃に向けられる。
コルデ様はセミーリャ様と違い、会議で発言をすることはない。誰のせいで国が窮地に追いつめられているのか、自覚はあるのだろうか。俯いてばかりで、なにを考えているのか、さっぱり分からない。
「では、離れに住む子たちへ毒を。さすれば、多少は余裕が出るかと」
「ならん!」
王派の発言を、王が大声で退ける。
「陛下の言う通りだ。本気で言っているのか? 今や我が国の継承権については、国外に知れ渡っている。そんな中、彼らを葬ってみろ。我が国は邪魔だと思えば簡単に人を殺める、野蛮人だと知らしめるようなもの。そんな国と、誰が交流を深めたいと思う。より首を絞める結果になるぞ」
王に賛同したのは、セミーリャ様の兄、マノス侯爵だ。数年前、亡くなった父親から爵位を継いだが、妹とよく似ている。顔だけではなく、性格も。思えばこの兄妹の父親もそうだった。二人とも父親に似たのだろう。
それにしても王派は、ただの成金が多く困ったものだ。商売と政治は違う。その商売も、近頃は苦境に立たされている者が多いと聞く。なんでも、顧客が離れたとか……。
セミーリャ様が亡くなり、王派が勢いを増すと思ったが、立場が逆転しているように見える。これは予想外だった。あの時は王派の流れに乗ったが、失敗したかもしれない。
だが私はいつだって、そうやってきた。今さらどちらの意見に乗ろうが、それで不快になる者はいない。
「問題の起きている地へ、軍を派遣させるのはどうでしょうか。さすがに屈強な軍人相手では、平民なんて大人しくなるでしょう」
名案だと王派が言うが、またマノス侯爵に否定される。
「軍の派遣は厳しい。ラコーレ国との関係が近隣諸国に知れ渡っている今、リュイゼ国以外の国が、それ幸いと、攻めてくる可能性がある。我が国が攻められれば、友好国であるラコーレ国が兵力を貸してくれるはずだったが……。今はそんな義理を立ててくれないだろう。大切な兵力をそんなことに使うより、国を防衛すべきだ」
「マノスの言う通りだ! 軍は国を守り、戦争だけは避けねばならん! この問題は近隣諸国に知られる前に、どうにか解決させなくてはならん!」
怖がっているように顔色を悪くさせ、王も叫ぶ。
確かに国が敗ければ、現王家は排除される。つまり王は、死ぬことを恐れているのか。
敗戦となれば私も権力を奪われる可能性がある。この生活を手放すのは避けたい。ここは、この二人に同意するか。
そんなことを考えていると、セシア様が言う。
「そうですね、私も同感です。それではラコーレ国と戦争回避するためにも、どのように対応するか、こちらも可及的すみやかに、対策をお考え下さい」
「分かっておるっ」
……先日、王とセシア様でラコーレと会合があったが、どうやら失敗したようだな。詳細は分からないが、困ったものだ。
結局誰かがなにかを言えば、誰かが反論するのでなにも決まらないまま、閉会となる。
「国庫に影響することくらい、分かり切っていた話なのに。今になって問題視するとは、笑えるよな」
帰り道、隣の席に座る無所属仲間に言う。
「だったらあの時、そう発言すれば良かったじゃないか」
「馬鹿を言うな。そんなことをして、目立ってみろ。派閥に入れと誘われるし、案に対して打開策を出せとか言われるし、ろくな目にならないに決まっている。それよりお前、最近セミーリャ派に負けず、景気が良いらしいじゃないか。なにか秘訣があるなら、教えてくれよ」
「たまたまだな。ほら、うちの領は隣国に近いだろう? 国内で商売をするより、あちらで売った方が儲かると思ったら、それが当たっただけさ。それよりお前、いつも会議の後は、そうやって文句ばかり言うな。自ら世界を変えようと思わないのか?」
「思わないね。世界を変えるなんて面倒だし、今が最善で楽じゃないか」
「そうか」
このやり取りは私にとって、日常茶飯事。だから思いもしなかった。
この会話で私が領主として、道徳的に生きることができるか、見極められていたことを。
領民を守ることをせず、導くこともせず、ただ目立たず、自分にとって楽な道ばかり選ぶ男。
そんな本質が暴かれ、やがて地位を失うことになるとは。この時の私は考えもしていなかった。




