静かな動き
「やっとあの楽観主義の父上も異常を分かり、焦り始めたか。だが遅い」
父上に関する報告書を読み終わり、そう言う。
ディロがリュイゼ国へ行かされたことで、一部計画は狂ったが、支障はない。元々ディロは王都に閉じこめるかして、領地へ行かせないようにする手筈だった。王都から離れ、領地からも離れてくれれば、問題はない。
監視役からの報告によると、リュイゼ国でも国境沿いの町でも散々な目に合っているらしい。だが本人になにかあったのか、権力をちらつかせることはないようだ。それも今更だが。
「デッセ伯爵の動きは?」
「ディロがいなくなっても、変わりはありません。横領を続けています」
この横領は、領主であるデッセ伯爵の家が話を持ちかけたのか、それともディロの家から持ちかけたのかは分からない。だが現在、ディロへ流れていた金は全額、デッセ伯爵へ流れるようになっている。
それを知れば民は、横領を続けるデッセ伯爵への怒りを、王家にも向けられるだろう。なにを放置している、早く裁けと。そう、憎しみが私にも向けられることは、百も承知。その上、民から私が王になることを認められなければ……。
私は新たな国を創る、礎の一つとなることも覚悟している。
「デッセ伯爵を早く捕らえたいが、他の連中も一斉に捕らえたい。まずは不当に奪った物を、返却させよう」
デッセ伯爵は領内に、幾つか別荘を持っている。各別荘を管理している人数も把握している。そして別荘の一つが、ディロが領主代行を務めている地にあることも。
「別荘に火を放つ日は……」
指示を出しながら、なんと悲しい計画だと、自虐的に笑いそうになる。これからやるのは、ただの火事場泥棒なのだから。
だが不当に奪われた金で買った品々が、あの別荘に多くある。それを売って換金し、民へ戻すのが一番だろう。
現在、国内で売却しても奪われた金には達しない。しかし国外へ運ぶ手間賃などを考えると、国内での売買が、一番利益が出る。
情けない。こんな卑怯な手段しか選べないとは。ほとほと嫌になる。
「次、影の動きは?」
「変化なしです」
「そうか、まだ私が気になっているのか」
影の長は、私の生死を気にして人を送ってくる。味方からその情報を得ると、その時だけ、私はベッドに横たわり、布団にしがみついて時に泣いている。このような形ではあるが、素直に母の死に泣けることは、己の立場を考えると幸運かもしれない。通常であれば、王子が人前で泣くなど許されない。
「仕方ありません。殿下の生死は、この国の未来を左右するものですから。今殿下が亡くなれば疑われ、将来的に良くないと、影の長は分かっているのでしょう」
「母上が毒を盛られ亡くなった話、今では国内外に有名だからな」
同時に、その犯人はディロという話も広まっている。
己の娘を王妃の座へ就かせるため、王妃を排した、悪人だとも。
悪人の娘であるコルデたちを豪遊させるために金を使い、結果として税を上げ、権力者たちだけ人生を謳歌する。
生活に困った民からは、王家への不満が高まっている所に、王妃の毒殺。これにより王家への信頼、忠誠が吹き飛んだ民は多いだろう。父上を玉座から落としても、許してもらえる自信はない。
それでも、それが民の選んだ道なら受け入れる。そう決めた。
私がいなくなっても、セシア様、パニエ様の実家など、まだ国を引っ張れる力を持つ家が残っている。その家を中心に、国は生まれ変わる。それを母上も望んだ。今動かなければ、この国の民は笑顔を忘れてしまう。それだけはなんとしても、避けなくてはならない。
民の笑顔を取り戻す。
それが母上の願いでもあり、私の目指すものだから。
「良いか、このまま王を玉座から落とす。それまでは王位継承権を持つ者は、誰も殺されないように気をつけろ。離れで暮らしていた弟妹たちも含めてだ。パニエ様により彼らの危機は脱したかもしれないが、父上のこと。またいつ、意見を翻すのか分からないからな。特に今は強い恐怖に襲われ、冷静ではない。皆も気をつけるよう、伝えろ」
「はい!」
敬礼し、部下たちは出て行く。
まだ早い。まだ父上に直接向かうには、早い。
敵は父上だけではない。腐った奴らは、まだ何人もいる。そいつらもまとめて、全員から権力を取り上げなければならい。




