新たな問題
「セシア、なぜ私に断りもなく謝罪した」
「明らかに非は、我が国にありますので」
しれっ、と答えられる。こやつのこういう態度が、好かない。
「それより、あの三人に、ラコーレ国で非礼を働かないよう、発たせる前に言い聞かせなかったのですか?」
コルデたちを避難させたことについてセシアと話すのは、これが初めてだ。
あの頃はこんなことになるとは思わず、また、当然のことだから言っていなかった。そう、言う必要もない心構え。それを口にしたくなく、濁すように答える。
「……二人が私の子と伏せるよう、言った」
「陛下、二人のなにを見ておられたのです。それまでも城内外で暴れ、苦情の嵐だったではありませんか。ラコーレ国でも同じ振舞いをすると、少しも考えられなかったのですか?」
「………………」
返せる言葉がなかった。
黙っていると、わざとらしくため息を吐かれる。
「……私意な人」
「なにか言ったか?」
「いえ、なんでもありません、ただの独り言です。それより陛下、お分かりになられていると思いますが、現王妃は外交など、駆け引きには向いておられません。政務はこれまで通り、パニエ様と私で分担ということでよろしいですか?」
「問題はない」
そう答えれば、じっと見つめられる。
「なんだ?」
「現王妃とご結婚を決められ、どうするおつもりでしたか? 問題なく、コルデ様が政務を執り行われると思われていたのですか? 最初からパニエ様と私に、仕事だけ押しつけるつもりでしたか? それとも側妃は不要と、また法を改正し追い出す予定でしたか?」
「それは……」
ある程度コルデに任せられるようになったら、二人を追い出そうと決めていた。だがそのような能力は、コルデにはないと今なら言える。今はあの女が提案した、側妃の永久制に助けられている。セシアとパニエに逃げられては、他国の高貴な、特に女性との縁が切れてしまう。それだけは避けなくてはならない。
「陛下、楽観主義もほどほどになさいませ。なぜラコーレ国があの場に王子を出してきたのか、お分かりになりませんか? 陛下の態度を見極めるためです。それなのに、あのように年下だからと、馬鹿にした態度を取るとは……。ラコーレ国に対し、詫びる気持ちがないと言っているようなものでしたよ」
セシアの言葉が痛く刺さる。だから小言は嫌いだ。
◇◇◇◇◇
「問題は山積みです。手始めに、城に給仕している者を減らすか、給金を減らし……。食事も質素にしましょう。しばらく服の新調も控えなければ。あと、城内にある物で売れないか、一覧表を作り調べ……」
城に帰れば帰ったらで、パニエが言う。
「待て、なぜそうなる」
「現在、王位継承権を持つ陛下の子が何人いると思われるのです。御子につける護衛、衣食住、教育。それらの費用は、いくらお金があっても足りません。そうですね。今度から肌を重ねるのは、コルデ様のみにして下さいませ。これ以上御子が増えては、国が本当に傾きます」
あの女に勝ったと、自賛していたのに……。なぜこうも、小言が続く。
あの女にも子を何人作るつもりなのかと、責められたことがある。勝手に産まれた子に興味はなく、人数を気にしていなかった。そしてただピカロを玉座へと。その思いだけで、法を改正した。子どもについてはオルグ、側妃たちの子、そしてピカロとリダの七人しか頭になかった。
しかし、そうだ。あの時、『陛下の子、全員に』と宣言された。そういえば、離れで暮らしているという子らは、何人いるのだろう。
「その様子では、人数を把握していらっしゃらないようですね。セミーリャ様は、陛下と肌を重ねた女性は、最後の晩から半年以上監視を続け、間違いなく陛下の子と確認をされた上で、城に引き取っておりました。その人数は……」
「なに?」
想像以上だった。会議でも何人いると思っているのかと言われたが、具体的な数字を出されなかったので、片手で足りるものとばかり……。両手以上? そんなこと、誰も言わなかったではないか。
確かにあの女から、女の名前を出され、その者が私の子を出産したと報告されていた。だが、一々その人数を数えていなかった。
そんなに人数がいては、金がいくらあっても足らない。仕方ない、こうなれば何人か秘密裡に殺処分を……。
そんな考えは、パニエに見透かされていた。
「陛下、馬鹿なお考えはお止め下さい。今、陛下の御子の身になにかあれば、どうなるか、よくよくお考え下さい。セミーリャ様の毒殺という噂、我が国が財政難という噂。そんな中で御子の身になにかあれば、誰もが思うでしょう。故意に殺められたのだと」
「うぐ……っ」
これ以上、我が国に悪評がたつことを避けなくてはならないと、分かっている。つまり、離れで生活している子ども達を今、事故や病気で亡くしたとしても、勝手な噂が走る。だから護衛が必要なのか。
現状、人数を減らすことができないとは。法を改正した時は単純に、邪魔になったら暗殺すれば良いと考えていたのに、まさか自分に追いつめられるとは……!
全員の王位継承権を剥奪させるには、相応の理由が必要。だが一斉に剥奪させることは難しく、理由がない。ずっと離れに閉じこめさせていただけに、顔。いや、存在すら国民に知られていない者たちを、どうやって……。
そんな奴らから継承権を剥奪しては、ピカロとリダについて言及してくる者が現れるだろう。二人の継承権も剥奪されるかもしれない。
そもそも今まで、誰も人数を教えてくれなかったのが悪い。だが、あの女が毒で倒れた時点で、勝ちは決まったのに、むきになったのは、私自身。どこで道を誤った?
「……それで? その子らは、どのような人物だ」
なにか欠点はないかと期待をこめ、尋ねる。
「少なくとも、他人様の家や大事な式典で暴れることはない人物として、成長されております。それに比べ……」
そう言うとパニエは、鍵の束を取り出してきた。
「陛下が注意しても聞き入れませんでしたので、各政務室を管理する全員で決めました。政務室は、常に鍵をかけるようにと」
「なぜだ?」
「ピカロ様とリダ様は、以前となんら変わっておりません。陛下に注意されても反省せず、暴れ回っております。陛下でさえ二人を止められない以上、この手段しかありませんでした。鍵をかけていれば、あの二人が勝手に入って来て、暴れることはありませんから。でも、陛下の政務室では暴れない。本当、質の悪い子どもたちです」
そういえばと、思い当たる。各所から二人を注意するように言われていたが、実際、二人が私の前で暴れたのは……。あの時が最悪だったが、それ以外は微笑ましく見守れる範囲で……。
「まさか……? そんな……」
場所を計算して暴れているのだとすれば、パニエの言う通り、質が悪い。
「修繕費を捻出させるより、鍵をかけ追い払うことの方が、よほど楽です。良いですか、陛下。もう国庫は逼迫し、国宝級の品を壊されても修繕する余裕はありません。もちろんそんなことは、ご存知ですよね? そして、なぜこのような状況になったのかということも」
言い捨てられ一人になると、音をたて椅子に座る。額に当てる手は、震えが止まらない。
『今以上に経費がかさむでしょう』
『線引きは、誰が?』
あの女の声が聞こえてくる。
本当に私は勝ったのか? 真に国を考えていたのは、誰だ?
そうだ、また税金を上げれば……。またその考えが浮かぶ中、扉がノックされる。
「失礼いたします、陛下」
「なんだ」
入ってきた側近の顔色は、悪かった。
「各地で税を納められない者が続出し、牢に入りきらず、混乱が起きているという内容の報告が一斉に届いております。異常な量です。しかもほぼ同時に、同じことが各地で起きるとは、とても信じられません。罪人をどうするべきか、ご指示をお願いいたします」
ずるり。
椅子に座ったまま、背を滑らせる。
なぜだ、なぜまた新たな問題が発生する。一体なにが起きている? 私の知らない所で、なにが起きている?
これでは税金を上げられないではないか。上げたとしても、現状、払えない者が多いというのに……。上げても徴収できなければ、意味がない。
どう回避する? この局面、どう挽回すればいいのだ。
本来なら、その話は王妃とするべきだろう。だがコルデに、そのような知恵や構えはない。側妃たちに頼るか? いや、それは癪に障る。
自分でなんとかしなければ。私は国王、そう、国王なのだから。きっとなんとかなる。いや、なんとかしてみせる。そうだ、ここを乗り越えれば、側妃の権力を下げらせることもできる。そうすればセシアとパニエから、小言もなくなるだろう。
乗り切ろう、この場を私一人で乗り切ってみせる。




