王都、追放
王に呼ばれ、なぜ式に招待していなかったリュイゼの者を通したと、詰問される。
正直に、通行証を持っていたからと答えれば、お気に召さなかったらしい。
すぐさま、牢に入れろと王が叫ぶが、それに待ったをかけたのがパニエ様だった。
「それでは今後、側妃の名で発行した通行証は、使用できないということですか?」
「そうだ」
迷いなく即答する王に動じることなく、パニエ様は答える。
「承知しました。それではセシア様と私の名で発行した通行証は使用できなくなったと、各国要人の皆さまに、後ほど書面でお伝えいたします」
「なにを言っている、リュイゼだけだ!」
やれやれ。そんな声無き声が、パニエ様から聞こえてきた気がする。
「陛下、先に無礼を働いたのは我が国です。謝罪もせず通行証も使えなくしては、完全にリュイゼ国と我が国の関係は切れてしまいます。それにこのまま関係を切れば、各国から、どのように見られるでしょう」
リュイゼに非はない。それなのに一方的に縁を切れば、各国からの我が国の評判はさらに下がるだろう。
「だから使者を送っているだろう。だが、それを拒んでいるのはリュイゼだ。話し合いに応じようとしない奴らこそ、無礼であり非がある。これだから蛮人は嫌なのだ」
「陛下、それです。そういう相手に対し、馬鹿にしたり見下したりといった態度を改めない限り、使者が受け入れられることはないでしょう」
パニエ様に同意と、何人か頷いている者がいる。
当たり前だ。関係修復を望んでいると言いながら、横柄な態度で来られて、歓迎する訳がない。王は身分が高いから逆に、こんな当然のことが分からないのだろうな。
呼び出した俺を無視して、場外乱闘は続く。
「リュイゼ国だけではありません。ラコーレ国との問題も、解決しなければなりません」
会議に欠席している王妃、コルデのせいで、ラコーレとの関係にも亀裂が入った。
まったく、ディロ一家のせいで散々だ。子ども達が壊した物の修繕代、迷惑をかけた者への慰謝料。王妃となったコルデにこれまで贈られた、高価な品々。どれだけ金を使われたか。
金だけではない。ディロ等、金で爵位を買った者たちは、ろくに政治を知らないので、国内は混乱している。
おかげで城に勤務するという、名誉ある職に就けても、給料は減る一方。真面目に働いているのが、馬鹿みたいだ。
だから命令されていなくても、通行証を持っていなくても、俺はあの時、リュイゼの姫を通しただろう。
それにしても一人であの場をかき回すとは、恐ろしい姫さんだ。
あの姫さんに負けたコルデは、今も部屋で泣いているらしい。だから会議を欠席しているが、欠席理由も情けない。
「ラコーレとは近々、席が設けられる」
おいおい、王様よ、正気か?
確かに席が設けられるだけ、ラコーレとは進展しているように見える。だけど一番の問題は、そこでどんな内容を語り、どんな詫びを入れるかだろ? ラコーレ王子、一番の側近を怒らせたんだろ? 席が設けられても、一日で解決できる問題じゃないだろう。
「そうですね、その対応も決めなくてはなりませんね。まず、サート様の家への賠償金。あれだけの品数に、あの損傷。かなりの額となるでしょう。値段交渉はできるでしょうが、全く払わないということにはなりません。またラコーレ国王には協力を乞い、顔をつぶしたのです。これには相応の請求をされるでしょう」
「関税か」
へえ、この王にもそういう知恵はあったのか。パニエ様の発言に腕を組み、渋面となる。
「そうです。我が国からラコーレ国への輸出の際、税が上がるか商品の仕入れ値が下がるでしょう。輸入の場合は、その逆です」
「こうなってしまった以上、王妃様が直接謝罪されてはいかがでしょうか」
セシア様の父まで発言する。彼は外交関係を任されることが多く、セシア様はそんな父親の影響があってか、主に対面等の仕事を任されている。
「王妃が謝罪⁉」
「それでは足下を見られるではないか!」
王派だった者たち。それも爵位の低い者たちが、叫ぶように反対の声をあげる。
「ディロ男爵の件で、セシア様は行われました。ディロ男爵以外にも、覚えがある方はいらっしゃるのでは?」
まるで挑発するようなパニエ様の物言いに、ディロの顔が赤くなる。
素直な男だ。これまでよく、その悪知恵が上手くいっていたものだ。運が良かっただけなのか? だが幸運は、いつまでも続くものではない。
「そうだな。貴族の一員でありながら、よくも他国の姫に対し、あり得ないことをしてくれた。これまで陛下の結婚式を控えていたので、この話題を取り上げなかったが……。ディロ男爵、この落とし前、どうつけるつもりだ」
先代王妃の実家である侯爵家代表が、ディロを睨みながら言う。
「陛下が以前言われた通り、若者は矯正できるかもしれない。だが、大人はどうであろうな」
「侯爵に同意。リュイゼ国との現状は、ディロ男爵が後押しして作ったようなもの。それで、こういうのはどうでしょう。彼をリュイゼ国に送り、謝罪させるのです」
先代王妃派が同意を示した上、提案する。その内容に、まるで会場に波が広がったように、皆の態度に動きがあった。そして派閥に関係なく、『同意』という声があがり始める。
罪を押しつけられているような状況に、ディロの顔から赤味が消えた。
「そうだな。ではディロよ、リュイゼからの許しを得るまで、王都への立ち入りを禁ずる」
「へ、陛下、お待ちを……っ。私は代理とはいえ、領を管理しておりますっ。コルダも今は不安定で、親として……っ」
「領の心配は必要ありません。ディロ男爵、貴方は自身が言われた通り、領主代理なのです。その立場を返上し、他の者を新しく代理にすれば良いのです。また王妃は立場を理解された上で、陛下とご結婚されたはず。きっと今を乗り越えて下さるでしょう」
冷静に、それでいて鋭く素早くパニエ様は返す。
それにしても場の雰囲気もあったとはいえ、こうも王が思い通りに動くとは。王も内心ではディロを不快に思い、遠ざける理由を探していたのかもしれない。
「ではディロよ、早速行くが良い」
「ではリュイゼ国については、まずディロ男爵自身が許しを得る。その後、席を設けるということで皆様、よろしいでしょうか」
「異議なし!」
口笛を吹きたくなるほど、あっさり決まった。そんな中でディロだけが青ざめ、俯いている。
「そして陛下、この者はどういたしましょう」
王にとって俺は、とうに忘れていた存在だったのだろう。俺を見るが、黙りこむ。
「それでは陛下、この者は城での任を解き、ディロ男爵と行動を共にさせてはどうでしょうか」
パニエ様の父親であり、俺の上司である公爵が提案する。それを聞いて理解した。俺の次の任務は、ディロの見張りだと。
「そうだな、そうしよう」
王は大仰に頷く。
そして俺はディロと一緒に、会議場から出される。まだ中では会議が続いており、ラコーレの対応については、話し合いが行われている。
幸い俺は独身で身軽。だからディロの見張り役にふさわしいと、選ばれたのだろう。計算して動くことが苦手な俺からすると、一体どこまで殿下の思い通りに事が進んでいるのか、分からない。
だがあのやり取りを見た限り、円滑であるのだろう。
オルグ殿下の計画は順調に進んでおり、先ほどのパニエ様たちの発言も、俺がディロと一緒にリュイゼへ向かうのも、計算の内に違いない。




