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【連載版】ドアマット王女は静かに扉を……吹っ飛ばした! 新・旧作併せて11万PV 突破  作者: 猫が寝転んだ
第二章 明日のことを考えられるようになりました。

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第十八話 解決の目処

たくさんの小説の中から選んでいただきありがとうございます。

毎週日曜日12時10分の更新予定です。

誤字報告いつもありがとうございます。

 食事を終えた後、先日の襲撃事件について話し始めたエドワードは、ユリアナとクラリッサに向かって話を続けていた。


「捕らえた者たちへの尋問で、いくつか分かったことがある」


「何か手掛かりが出てきたのですか?」


「ああ」


 エドワードは頷いた。


「捕らえられた者たちから、黒幕について直接的な情報は得られなかった。

 だが、依頼人と直接接触した者から、一つだけ証言が得られていた」


「それは何なのでしょう?」


「黒覆面に黒いマント姿で、どこの誰かは分からなかったそうだ。

 ただ、すれ違いざまに強い薬品臭がしたらしい」


 ユリアナは静かにエドワードを見る。


「……それは、医薬品の関係者だということですか?」


 エドワードは頷き、言葉を重ねた。


「その上、捕らえた者たちの話によれば、依頼人は今回の襲撃を行うにあたって、君についてだけでなく、エレノア殿下についてもある程度の情報を持っていたらしい」


「エレノア殿下のことを?」


「そうだ」


 エドワードは一度言葉を切った。


「そこで、依頼人が宮殿の医療関係者、あるいは医療関係者から情報を得られる立場にある人間ではないかと考えた」


「……宮殿医、でしょうか?」


 ユリアナが尋ねる。


「ああ。まずそこを疑った」


 エドワードはそう答えた。


「君が第十三王女として認められた後、王宮で健康診断を受けただろう?」


「はい」


「あの時に君を診察した宮殿医と、その助手がいる」


 ユリアナは頷いた。


 正式に王女として扱われるようになった際、健康状態を確認するために宮殿医の診察を受けているからだ。


「それから、エレノア殿下のことまで含めて考えると、筆頭宮殿医も候補に入る」


「筆頭宮殿医……」


「アルベルト・フォン・ヴァルデン殿だ」


 エドワードが名前を挙げる。


  クラリッサが口を開く。


「その人たちが、今回の襲撃に関わっていると考えたのですか?」


「まだ、そこまでは言えなかった」


 エドワードは首を横に振った。


「医療関係者だからといって、すぐに犯人と決めつけるわけにはいかない。ほかにも情報を得る方法はあるからな」


「では、どうしたのですか?」


「監視をつけた」


 ユリアナが目を瞬く。


「候補になった者たちに不審な動きがないか、しばらく調査部や守備隊の隠密部隊が張り付いて調べていた」


「それで、何か分かったのですね」


「ああ」


 エドワードの表情が少しだけ険しくなる。


「一人を除いて、特に怪しい動きはなかった」


「その一人とは……」


「筆頭宮殿医の助手だ」


 エドワードはそこで一度、言葉を切った。



 ◇



 ――時は少し遡る。


 王宮の一角。


 筆頭宮殿医の助手である男は、エレノア王女付きの侍女たちに何度か話を聞いていた。


 最初に尋ねたのは、エレノアが倒れた当日のことだった。


「殿下がお倒れになった日のことについて、少し確認したいのですが」


「宮廷晩餐会の日のことですか?」


「はい。今後の診療に必要な情報です」


 医療関係者からそう言われれば、侍女たちも特に疑問には思わない。


 助手は、エレノアが倒れた時の様子や、その日の食事、体調の変化、倒れた後のことなどを尋ねた。


 ところが、質問はそれだけでは終わらなかった。


「ライゼン家へお訪ねになった日のことも、少し教えていただけますか?」


「ライゼン家へ?」


「はい」


「その日は……」


 侍女が記憶を辿る。


「殿下は、公式行事の後、ユリアナ様とお会いになるためライゼン家に立ち寄られました」


「その時、ユリアナ様とお会いになった時のことはご存知ですか?」


「私どもでは分かりかねます。

 応接室で歓談された際に同席されたのは、ライゼン夫妻と、それから……」


 侍女は少し考えた。


「筆頭侍女のマギー様だけです」


「マギー殿だけですか?」


「はい」


 助手は、それ以上は尋ねなかった。


 だが、その後、マギーのもとへも足を運んだ。


 マギーは執務の手を止め、目の前に立つ男を見る。


「私に何か?」


「少し、エレノア殿下のことで確認したいことがございます」


「殿下のことで?」


「はい。以前、殿下が体調を崩された日の夜についてです」


 マギーは相手の顔を見た。


 筆頭宮殿医の助手であることは知っている。


 王女の健康状態について確認したいのであれば、少々時間は経っているが、不自然な話ではない。


「何をお聞きになりたいのでしょう?」


「殿下がお倒れになった夜、何か普段とは違うことをされていなかったか、教えていただきたいのです」


 マギーは少し考えた。


 この件については、すでに一度、ユリアナ本人に確認している。


 だが、人払いした上で自分たちだけに話していただいたことを、許可なく第三者に話すことなどできはしない。


 その時のことを思い出し、マギーは答えた。


「以前、殿下に許可をいただいて、当日の夜に何か変わったことをしていないかと、ユリアナ殿下にお尋ねしました」


「はい」


「ユリアナ殿下のお答えでは、姿勢保持による気道確保以外、これといって何かしたわけではないとのことでした」


「姿勢保持による気道確保、ですか」


「ええ」


 助手はその言葉を繰り返した。


 しかし、それ以上は踏み込んでこない。


「分かりました。ありがとうございます」


「いえ」


 マギーは男が立ち去るのを見送った。


 少し変わった質問ではあった。


 けれど、エレノアが体調を崩したものの、通常より早く回復したのは事実であり、宮殿医がその時の状況を詳しく調べること自体は不思議ではない。


 それに、相手は筆頭宮殿医の助手だ。


 マギーは、医師として必要な情報を集めているのだろうと考え、それ以上気に留めることはなかった。



 ◇



 それから、先日の襲撃事件が起こった。


 襲撃者たちへの尋問が進む中で、依頼人についていくつかの情報が浮かび上がった。


 直接、黒幕につながるような証言はなかった。

 だが、その中に一つ、捜査側の目を引く証言があった。


 依頼人と接触した者によれば、黒覆面に黒いマントという姿で、どこの誰かは分からなかったものの、すれ違った際に強い薬品臭がしたという。


 さらに、依頼人はユリアナだけでなく、エレノアについてもある程度の情報を持っていることを匂わせていたらしい。


 その一連の出来事を結びつけ、二人の間に何かあったのではないかと考えることのできる人物は、限られている。


 そこで捜査側は、医療関係者が襲撃の依頼人である可能性を考えた。


 そして、過去の記録を調べる中で、襲撃前にエレノアの周囲を調べていた筆頭宮殿医の助手の存在が確認された。


 エレノアが倒れた夜。

 そして、ライゼン家を訪れた日。


 助手がその二つについて聞き込みをしていたことも確認された。


 偶然とも考えられる。


 だが、襲撃事件の直前にそこまで調べていた人物を、そのまま見過ごすわけにはいかなかった。


 助手は監視対象となった。



 ◇



 調査部と守備隊の隠密部隊が、それぞれ密かにその動きを追い始める。


 しばらくの間、助手に目立った動きはなかった。

 宮殿内での仕事も、それまでと変わらない。


 しかし、監視が続けられていたある日。


 助手が王宮の外で、裏稼業に関わる者と接触しようとしていることが分かった。


 監視していた者たちは、距離を保ったまま後を追う。

 助手は周囲を警戒しながら、相手と何事か話していた。


 その場では会話のすべてを聞き取ることはできなかった。

 だが、エレノア殿下の侍女の名前や、『嵌める』『消す』などという言葉は聞き取れた。


 どうやら助手は、マギーたちを王宮から追いやるか、場合によっては口封じまで考えているらしい。


 そこまで分かれば、見過ごすことはできない。


 監視していた者たちが動いた。


「そこまでだ」


 声をかけられ、助手が振り返る。


 振り返った先には、王宮の兵士たちが立っていた。


「……私に何か?」


「話を聞かせてもらう。大人しくしてもらおう」


 助手は周囲を見回した。


 逃げ道はすでに塞がれている。


 やがて観念したように息を吐き、抵抗することなく兵士たちに身を預けた。


 そして、助手と話をしていた裏稼業の二人も、その場で兵士たちに取り押さえられた。


 三人はそのまま王宮へ連行され、取り調べを受けることになった。

 


 ◇



 さらに、襲撃を実行した者たちについても話した。


「襲撃を依頼したのは、私です」


「誰から指示を受けた?」


「……筆頭宮殿医様です」


 その名前が出た瞬間、取り調べをしていた兵士の手が止まった。


「筆頭宮殿医が?」


「はい」


 助手は頷いた。


「私は、その指示を受けて動きました」


 助手によれば、襲撃の前に裏社会の組織へ接触し、そこで二人の男に依頼を持ちかけたという。


 その二人こそ、襲撃の現場から逃げた者たちだった。


 捜査側が行方を追っていた二人と、助手が依頼した相手が同一人物だと分かり、これまでに集められていた情報が一つにつながった。


 襲撃の目的についても、助手は知っている限りを話した。


 その結果、捜査側は事件の全体像を一気に掴むことになった。


 あまりにも簡単だった。


 捜査に関わった者たちは、揃って首を捻った。


「……何なんだ、これは」


 ようやく手掛かりを掴んだと思えば、そこから先は拍子抜けするほど素直に繋がっていく。


 証拠を消すために動いた黒幕を追った先で、宮殿医の助手の不審な動きが見つかった。そして、その助手が自分から依頼先と指示を出した人物を明かした。


 襲撃のために集められた者たちも、すでに拘束されている。


 ここまで揃えば、逃げ道はほとんど残っていなかった。


 兵士たちは、かえって警戒した。


 これほど簡単に事が進むのなら、どこかに見落としがあるのではないか。


 そう疑いたくなるほどだった。


 だが、何度調べ直しても、証言と証拠は一致していた。


 やがて、その報告は監査部と守備隊の双方から、エドワードのもとに届けられた。



 ◇



「筆頭宮殿医の助手だ」


 そう続けたエドワードを、クラリッサは黙って見つめた。ユリアナも、次の言葉を待った。


「調査を進めるうちに判明したのは、助手が襲撃前に、エレノア殿下が倒れた夜とライゼン家を訪れた日のことを調べていたことだった」


 エドワードは二人と視線を交わしながら、話を続ける。


「襲撃後の捜査で依頼人と医療関係者を結びつけて考えた時、その行動が気になった」


「他の方々にはそのような行動はなかったのですね」


 ユリアナの問いに、エドワードは頷いた。


「ああ。そこで助手の監視を続けていたところ、王宮の外で裏稼業の者と接触していることが分かった」


「……その方たちは、捕まったのですか?」


「助手と一緒にいた裏稼業の二人も、すでに拘束されている」


「助手が何の指示もなく独断で動くことは、考えにくいことですね」


 ユリアナがそう言うと、エドワードは淡々と答えた。


「三人を取り調べたところ、助手が襲撃への関与を認めた。

 さらに、自分は筆頭宮殿医から指示を受けて動いていたと話している」


「筆頭宮殿医から……」


 クラリッサが呟く。


「筆頭宮殿医殿には、任意で事情を聞くことが決まったよ」


「そうですか……」


 ユリアナは小さく息を吐いた。


 長く続いていた襲撃事件の調査が、ようやく一つの答えへ辿り着こうとしていた。

お読みいただきありがとうございました。

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