第94話:マザー・システム『ゼニス』と、神の絶対方程式
次元の壁を突き破り、俺がたどり着いた世界の最果て──高次元観測領域『ゼニス』。
そこは、感情も、音も、色彩すらも存在しない、ただ冷徹な白と黒の数式コードだけが無限に明滅する、無機質な立方体の空間だった。
空間の中心に鎮座するのは、巨大な光の結晶体。それこそが、すべての因果を決定し、黄道十二星座を操っていた世界の心臓──マザー・システム『ゼニス』。
「【警告】イレギュラー。個別識別名:シリウス。貴方の存在確率、並びに随伴するデータの集束は、世界システム全体の致命的なエラー(オーバーフロー)と判定されました。これより、全次元の初期化を完遂します」
感情の欠片もないシステム音声が、空間そのものを震わせて響き渡る。
それと同時に、ゼニスの結晶体から、これまでとは次元の違う「純白の拒絶光」が放たれた。それは十二星座のルールの複合体などではない。世界そのものを「無」から「有」へ、そして「有」から「無」へと自在に書き換える、神の絶対方程式そのものだった。
「──ッ、状況把握。文字通り、世界の理そのものが相手ってわけか」
正面から迫り来る、すべてを消去する光の濁流。
俺の背中で、ルナの白銀の髪がさらに薄く透き通り、今にも空気の中に溶けてしまいそうに儚く揺れる。
『シリウス……様……もう、私に構わず、あなただけでも……』
意識の途切れたルナの魂の残光が、俺の脳内に直接、消え入りそうな声で響く。
「バカ言え。お前がいない世界なんて、俺にとってはただの『燃えないゴミ』だ」
俺は九色の前髪を力強く跳ね上げ、背中のルナをさらに強く抱き締め直した。
そして、右拳を正面へと突き出す。
俺の胸の星痕から溢れ出るのは、地上に置いてきた仲間たちの全バイタル──アクアの冷徹な逆算、シオンの不屈の烈風、フェリスの命懸けの治癒、そしてレオン、アルゴ、ゴルドたちの絶対的な信頼。
それら全てが、ルナの残した調停の光を触媒にして、俺の右拳へと限界突破でスタックされていく。
「お前が神の作った完璧なシステムなら、俺たちはそれを叩き潰すために集まった、最悪で最強のイレギュラーなんだよ。身内の想い(スタック)を舐めるな」
パキパキと、俺の右拳の皮膚がデータ負荷で裂け、そこから極彩色を超えた「混沌の二極光」が 圧倒的な熱量となって 噴き出した。
世界の心臓が放つ絶対の消去光と、俺たち全員の絆が乗った右拳。
世界のすべてを賭けた、本当の、正真正銘のラスト・スタックが、今ここで正面から激突しようとしていた。




