第93話:神域への階段と、不屈の極彩色
世界のシステムが稼働を停止し、すべてをリセットしようとする「初期化の光」が、灰色の粉雪のように音もなく降り注いでいる。
崩壊していく要塞都市の空に開いた漆黒の裂け目──高次元観測領域『ゼニス』。そこから放たれる圧倒的なシステム圧が、俺たちの肉体を1ナノ秒ごとにデータレベルで削り取ろうとしていた。
「ハァ……ハァ……ッ。主、観測領域から直接流れ込んでくるこの初期化対流は、次元の厚みが違いすぎるよ……! 私の脳内数式ですら、領域に近づくだけで論理展開が100%凍結しかけているね」
アクアが清流の髪を乱し、血の混じった汗を拭いながら叫ぶ。彼の持つ魔導木札は、高熱のデータ負荷に耐えかねてパキパキと崩壊を始めていた。
「あはは……。体が、すごく重いよ……。でも、ここでボクの風を止めたら、シリウスが上に行けないじゃん……!」
シオンが青ざめた顔で新緑の髪を震わせ、自らの命を削って極限の暴風対流を編み上げる。その風は、俺たちに降りかかる初期化の光を、辛うじて外側へと弾き飛ばしていた。
「シリウス様……っ。絶対に、ルナちゃんを……私たちの明日を、奪わせないでください……!」
フェリスがサクラピンクの髪を激しく揺らし、自らの命の残量を無視して、これまでにない純度のプロテクト障壁を俺の全身にスタックし続ける。彼女の指先から流れる魔力は、もはや彼女自身の存在確率そのものを削り出しているかのようだった。
俺の背後では、レオンが黄金の闘気を自らを焼き尽くすほどに燃え上がらせて足場を固定し、アルゴが冷気対流で領域への道を絶対凍結させて階段を築き、ゴルドがその金剛力で迫り来る虚無のシステム障壁を文字通り両腕で食い止めていた。
「フッ、状況把握。……お前たちの命を賭した『スタック』、確かに全部ここに受け取った」
俺は、意識を失いかけているルナを背中にしっかりと固定し、九色の前髪の隙間から、濁った虚無の裂け目を見据えた。
俺の胸の星痕は、もうただの魔力では拍動していない。
アクアの知恵、シオンの嵐、フェリスの祈り──そしてルナがくれた白銀の調停の残り火。既存のすべての身内の魂が、極彩色を超えた「混沌の二極光」となって、俺の右拳へと融合同調されていた。
「これ以上、俺たちの身内に指一本触れさせねぇ。神サマの作ったシステムごと、今度こそ正面から粉砕してやる」
俺は不敵な笑みすらも消し去り、冷徹極まる、だが胸の奥に狂おしいほどの熱量を秘めた目で、天空の裂け目へと向かって大地を蹴り上げた。
重力すらも初期化された無色の空間を、極彩色の光が、彗星のごとく一直線に突き抜けていく。
世界のシステム心臓部──マザー・システム『ゼニス』。
神の作った理との、真の最終決戦の幕が切って落とされた。




