第91話:崩壊する天秤と、絶望のオーバーフロー
「ハハハ! 愚かなイレギュラーどもめ! 我ら七柱の絶対ルールが合一せし終焉の対流の前に、貴様らの不条理な絆ごと、存在確率の根底から消滅するがいい!」
天空の混沌の巨影から、七つの神威が混ざり合った不気味な複合音声が響き渡る。
それと同時に、射手座の『絶対必中』と、双魚座の『因果逆流』が同時に発動──なんと、こちらが攻撃を仕掛けようとしたその「意図」そのものをトリガーにして、あらかじめ100%命中する漆黒の光線が、俺たちの足元から直接噴き上がってきた。
「なっ……!? 攻撃する前に、もう『当たった結果』がスタックされてる……!? ぐあああっ!」
シオンが新緑の髪を激しく乱し、疾風弓を構える前にその衝撃で吹き飛ばされる。
「シオンちゃん! ……くっ、私の聖なる魔力が、発動する速度を逆算されて、展開する前に切り裂かれていく……っ!?」
フェリスがサクラピンクの髪をきしませ、限界突破の癒やしを試みるが、傷が開く速度の方が圧倒的に早い。レオンの黄金闘気も、アルゴの氷結も、敵の『因果逆流』によって、出そうとした瞬間に自分自身へとダメージがスタックしていく。
「主……! 敵の数式は完璧だ。こちらが『何かをしようとする因果』そのものをエネルギーに変換して自滅させてくる。私の知恵でも、この対流を止める逆算コードが見つからない……ッ!」
アクアが清流の髪の眼鏡を焦燥で歪ませ、手元の木札が次々と過負荷で爆発していく。既存の最強メンバーが、指一本動かせないまま、かつてない絶望の檻に閉じ込められていた。
「──みんな、下がってください」
その絶望の対流の最中、前に出たのはルナだった。
白銀の髪を激しく血に染めながらも、エメラルドグリーンの瞳に宿る光だけは、絶対に消えていなかった。
「ルナ!? 無茶すんな、お前の天秤じゃその質量の因果は──」
「いいえ、シリウス様。私の【天秤座】は、ただの比率の調整器じゃありません。……本当の能力は、『世界のシステムが定めた全てのルールの重さを、ゼロにする』こと!!」
ルナが右手の甲の星痕を、己の命のバイタルごと燃やし尽くすかのように、目も眩むような白銀の神光で爆発させた。
──**【天秤座・終焉調停】**。
「がはっ……あ、あああああッ!!」
ルナの口から鮮血が飛び散る。だが、彼女が己の存在確率を削って展開した巨大な光の天秤は、天空の七柱の巨影、精度100%の必中、そして俺たちの足元に渦巻く自滅のルールを、強制的に「ただの無価値な質量」へと書き換えていく。
必中も、逆流も、不壊も──ルナの命を懸けた調停の前では、全てがただの「ただの魔力の塊」へと格下げされたのだ。
「ば、バカな……!? 我らの絶対ルールが……世界のシステムが保証した神聖なる因果が、なぜただの『ただの魔力の塊』に成り下がっているのだ……っ!?」
混沌の巨影が、初めて本物の恐怖にその声を震わせた。
「ルナ……! よくやった。お前が命を懸けて作ってくれたこの一瞬、1ナノ秒の無駄もなくスタックしてやる」
俺は九色のインナーカラーを乱暴にかき上げ、不敵な笑みを浮かべた。
倒れ込むルナの身体を左腕でしっかりと抱きとめ、その右手の星痕から溢れる最後の白銀の光を、俺の右拳へと直接スタックさせる。
フェリス、シオン、アクア、そして既存の全ての身内たちの「絶対に負けない」という祈りの熱量が、ルナの作った無重力の空間で一本の巨大な、極彩色の神光へと収束していく。
「お前らの神サマ気取りのルールは、今、うちのルナがただのスクラップに格下げしてくれたんだわ。状況把握──あとは俺が、正面から木っ端微塵にするだけだ」
俺は九色の前髪を力強く跳ね上げ、最高にクールな笑みを浮かべながら、極彩色の神光を宿した右拳を真っ直ぐに引き絞った。




