第89話:最終同盟の胎動と、終わりの始まり
双子と蟹の守護者を正面から粉砕し、要塞都市を覆っていた異界の神威は完全に消滅したはずだった。再び訪れた澄み切った青空。だが、その心地よい静寂を切り裂くように──アクアの魔導ホログラムが、突如として耳を劈くようなエラー音を鳴らし始めた。
ピピッ、ピピピピピピピ……ッ!!!
「──主! データの逆算が追いつかない! これは……残された全ての星の座標が、一斉にこちらの存在確率を抹消すべく、異常な対流を始めているよ!」
アクアが清流の髪の眼鏡を激しくきしませ、冷汗を流しながらホログラムの数式を操作する。青白く輝いていた立体星図は、見る間に真っ赤な警告色へと染まり、残された七つの座標──【金牛座】、【双魚座】、【射手座】、【山羊座】、【水瓶座】、そしてまだ見ぬ未知の守護者たちの光が、まるで一つの巨大な命のように融合同調し、ドロドロとした漆黒の波動を放ちながら膨れ上がっていた。
それは、世界のシステムそのものが「これ以上の個別撃破は不可能」と判断し、残存する全リソースを限界突破でスタックさせた、文字通り最後の審判だった。単一の刺客ではなく、世界の理そのものが一つにまとまり、極彩色の魔王軍を根底から消滅させるべく、最後の絶対包囲陣形を形成しつつあるのだ。
「フッ、状況把握。世界のシステムってやつも、ようやく小出しのスクラップを並べる無駄に気づいたようだな。まとめてかかってくるなら好都合だ。片付ける手間が省けて、最高の蹂躙効率じゃねぇか」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。目の前でどれほど禍々しい闇の渦が巻こうと、俺の胸の星痕は一歩も退くことなく、むしろかつてないほどの高揚感でドクドクと脈打っていた。
「笑い事ではないよ、我が主。私の計算によると、残る七柱の絶対ルールが完全に融合同調して単一の対流となった場合、その神威質量は最初に蹂躙したガルシアの約700倍に達するね。彼らがお互いのルールをスタックし合い、一切の隙を排した複合結界を展開すれば、こちらの魔力対流は届く前に100%相殺される。……物理的にも、概念的にも、完全に『終焉』を示す数式だ」
アクアはそう言いながらも、その手元は諦めてなどいなかった。脳内の完璧な知恵をフル回転させ、敵の複合神威を解体するための逆算コードを、超高速で手元の木札に刻み込んでいく。
「あはは! 700倍の質量? だったら、ボクたちの風の道を7000倍にスタックして、そのチャチな世界のシステムごと引っくり返しちゃうだけだよ! シリウスが前を向いてる限り、ボクの嵐が止まるわけないじゃん!」
シオンが新緑の髪を軽快に弾ませ、疾風弓の弦を限界まで引き絞る。彼女の周囲には、すでに要塞都市の全大気を巻き込むほどの極大の烈風対流が渦巻いており、敵のプレッシャーを強引に押し返していた。
「シリウス様、どれほど深い夜の闇が降ってこようと、私たちがスタックしてきた聖なる絆のラインは1ナノ秒だって揺らぎません! みなさんのバイタルも、魂の熱量も、私の魔力で100%プロテクトし続けます! ルナちゃん、最後の調停、ボクたちと一緒に一気に決めちゃおう!」
フェリスがサクラピンクの髪を激しくなびかせ、両手から限界突破の癒やしの神光を放射する。その光は、既存の最強メンバー──黄金闘気を立ち昇らせるレオン、絶対氷結のオーラをまとうアルゴ、金剛力を宿すゴルド──の全魔力を一本の極彩色の対流へと結びつけていった。
「はい、フェリスさん! みなさんの眩しい光が、私の天秤をどこまでも強くしてくれます。【天秤座】──開門! 世界の理が作った最後のルール、すべてを我が天秤の元に調停し、シリウス様の右拳の熱量へと変換します!」
ルナが白銀の髪を激しく乱し、エメラルドグリーンの瞳に宿る確固たる覚悟と共に、右手の甲の星痕を美しく輝かせた。彼女の天秤が発動した瞬間、上空から降り注ぐ漆黒のプレッシャーが、俺たちの絆の対流によって強制的に中和され、書き換えの比率を割り出され始める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
地鳴りのような轟音と共に、天空が完全にパキパキと割れ、七つの神威が混ざり合った混沌の巨影が、要塞都市を丸ごと呑み込もうと降臨してくる。世界のシステムが放つ、最大にして最後の拒絶。
「他人の作ったお仕着せのルールで、俺たちの進む道を塞げると思うなよ。お前らが世界の理だって言うなら、俺たちはその理の上から、土足で正面から蹂躙してやるわ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべて一歩を踏み出した。
ルナの天秤、そして既存メンバーの無限のスタック。世界のシステムを司る全ての神々を相手に、こちらから仕掛ける絶対的反撃の神話が、いよいよ真の最終決戦へと突入する。




