第88話:蹂躙の残光と、静まり返る星図
双子と蟹の守護者が放っていた歪な魔力対流は完全に霧散し、要塞都市の空には、勝利の余韻を彩るような穏やかな風が吹き抜けていた。
世界のシステムが差し向けた刺客をまたしても正面から粉砕した俺たちは、もはや世界の理そのものを上書きしつつあった。
「フッ、状況把握。無限に増えるハサミとやらも、俺たち既存の身内の絆を前にしちゃ、ただの錆びた安物の文房具だったな」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
「主、今回も実に見事な蹂躙効率だね。私の計算によると、黄道十二星座のうち、すでに五柱の絶対ルールを逆算・消滅させたことになるよ。世界の防衛対流は、現在進行形で致命的なエラーコードをスタックし続けているね」
アクアが清流の髪の眼鏡を美しくキラーンと光らせ、手元のホログラム星図の明滅を確認する。先ほどまで不気味に輝いていた十二の座標のうち、五つが完全に黒く沈黙していた。
「あはは! 五人全滅! 世界の神様たちも、今頃ボクたちの最強の熱量にビビって部屋の隅で震えてるんじゃない?」
シオンが新緑の髪を軽快に弾ませ、疾風弓を肩に担いでルナに笑いかける。
「……本当に、信じられません。世界のシステムがデザインした完璧なペアすら、シリウス様の右拳は一瞬でスクラップにしてしまうなんて。私の【天秤座】も、この極彩色の光の中なら、どこまでも高く跳べそうな気がします」
ルナは白銀の髪をそよ風になびかせ、エメラルドグリーンの瞳をきらめかせて微笑んだ。その絆の強度は、もはやかつての帝国の追手にお怯えていた頃の彼女とは完全に一線を画している。
「シリウス様ぁーっ! 激戦の連続で消費したみなさんのバイタルを、特製の栄養対流スープで一気にスタックしちゃいますからね!」
フェリスがサクラピンクの髪を激しく揺らしながら、すでに次の宴の準備へと動き出す。レオンとアルゴも、無言ながらもその瞳に圧倒的な信頼の灯火を宿して俺の背中を見つめていた。
だが、その心地よい静寂を切り裂くように──アクアの魔導ホログラムが、突如として激しいエラー音を鳴らし始めた。
ピピッ、ピピピピピピピ……ッ!!!
「──チッ、状況把握。どうやら世界のシステムってやつは、残りのスクラップを小出しにする余裕すらなくなってきたらしいな」
俺が九色の前髪をかき上げ、冷徹な視線を星図へと向けると、そこには残された七つの星の座標が、まるで一つの巨大な命のように融合同調し、かつてない漆黒の波動を放ちながら膨れ上がっていた。
世界の理を司る黄道十二星座──その残された全ての神威が、極彩色の魔王軍を根底から消滅させるべく、最後の絶対包囲陣形をスタックし始めようとしていた。




