第77話:絶対の毒針と、揺るぎなき絆
「フッ、私の【蠍座】の力を前にしてもなお、その傲慢な態度を崩さぬか。ならば、その愚かな『絆』とやらがどれほど脆いものか、身を以て知るがいい」
ガルシアが冷酷に告げると同時に、その背後に浮かぶ巨大な蠍の尾が、目にも留まらぬ速度で静かに突き出された。
──**【絶因の毒針】**。
それは物理的な攻撃ではない。ルナの言う通り、俺たちを繋ぐ極彩色のエネルギー対流、その因果の「糸」そのものを狙い、永久に切断せんと迫る概念の毒針だった。
「主! 毒針の軌道、現世の数式では捉えきれない! 因果の切断確率……100%!」
アクアが清流の髪の眼鏡を激しくきしませ、数式の展開速度を限界までスタックさせるが、迫る毒針はあらゆる数式をすり抜けていく。
「シリウス様……っ! 私の天秤で防ぎます! 【天秤座】、最大調停──ッ!」
ルナが白銀の髪を振り乱し、エメラルドグリーンの瞳から涙をにじませながら右手の星痕を輝かせた。だが、ガルシアの毒針はその調停の光の糸をも、ハサミで切り裂くように容易く無効化していく。
「あはは! 届かないなら、ボクの嵐で空間ごと吹き飛ばしちゃうもんね!」
シオンが新緑の髪を弾ませ、激昂の嵐を放つ。レオンの黄金闘気、アルゴの氷結概念が同時にガルシアへ殺到した。
しかし、ガルシアは眉一つ動かさない。
「無駄だ。私へのあらゆる干渉の因果は、すでに切断されている」
すべての攻撃が、ガルシアの体を幻影のようにすり抜けて霧散していった。そして、絶対の毒針の先端が、ついに俺の胸の星痕へと突き立てられる──!
パキィィィィィィィィィィンッ!!!
戦場に、冷徹な硝子が割れるような音が響き渡った。
「ハハハ! 終わったな、シリウス。これで貴様と身内どもの因果は完全に切断された。エネルギーのスタックも、無魔力のお前を支える絆も、すべてはただの幻へ──」
ガルシアが勝利を確信し、冷酷に口元を歪めた、その刹那。
「……おい。何がおわったって? 状況把握、少々お前の脳みそのキャパシティが足りてないようだな」
「な、何だと……っ!?」
ガルシアが驚愕に目を見開く。
毒針が突き刺さった俺の胸からは、切断されるどころか、かつてないほど濃密で眩い極彩色の神光が、ドクドクと溢れ出ていたのだ。俺の後ろに立つ既存の身内たちとのラインは、一本たりとも切れてなどいなかった。
「ば、バカな……! 私の蠍座の毒針は、世界のシステムが認めた絶対の『切断ルール』だぞ!? なぜ、繋がったままでいられる……!?」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
「だから言っただろ。お前らのチャチな虫の針が切れるのは、世界が用意した程度の因果までだ。あいにく、俺とこいつらの絆はな……」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みをガルシアに突き付けた。
「切られるたびに、その何百倍もの速度で『スタック』し直されてんだよ。お前の切断速度、俺たちの絆の対流速度に、全然追いついてねぇんだ」
ルナの天秤が、切断のルールを瞬時にエネルギーの再結合へと調停し、既存メンバーの全魔力が、今まさに俺の右拳へと限界突破で集束していく。世界の理すらも正面から蹂躙する、極彩色の反撃が始まろうとしていた。




