第76話:混沌の海からの使者と、異界のルール
俺の胸の星痕が捉えた異次元の波動――それは瞬く間に要塞都市の上空へと到達し、宴で賑わっていた広場を一瞬にして静まり返らせた。
静寂に包まれた空間の裂け目から現れたのは、これまでの帝国のスクラップどもとは明らかに一線を画す、圧倒的な神威をまとった一人の男だった。
「ふむ、これほどの魔力対流を遮断し、独自の絶対ルールをスタックしている都市があるとはな。……お前が、因果を歪める無魔力の皇子、シリウスか」
男の背後には、天を衝くような巨大な蠍の残像が揺らめいている。その全身から放たれる赤黒いオーラは、空間の法則そのものをじわじわと書き換えていくほどの絶対的な質量を持っていた。
「私の計算によると、彼の存在確率は現世の数式には当てはまらない。……主、あの男がまとっているのは、世界を創生せし十二の星のルールの一つだね」
アクアが清流の髪の眼鏡を焦燥に震わせ、すぐさま防御対流の数式を展開する。
「フッ、状況把握。他人の庭に挨拶もなしに踏み込んできて、随分と偉そうな口を叩くじゃねぇか」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
「私の名はガルシア。世界の理を調停する黄道十二星座が一つ――**【蠍座】**の守護者。シリウスよ、お前たちが集める絆のスタックは、すでに世界の許容量を超えている。これ以上のイレギュラーは、私がその毒針を以て、存在の根底から消滅させねばならん」
ガルシアが冷酷にそう言い放った瞬間、ルナが白銀の髪を激しくなびかせ、エメラルドグリーンの瞳を見開いて叫んだ。
「蠍座……!? ダメです、シリウス様! あの人の力は、触れたものの因果の繋がりを永久に『切断』する、絶対の毒針! 私の天秤の調停すらも、繋ぐべき糸ごと切り裂かれてしまいます……っ!」
「あはは! 繋ぐ糸が切られるなら、ボクの風で新しい道を無限にスタックし続けるだけだよ!」
シオンが新緑の髪を弾ませ、疾風弓を限界まで引き絞る。黄金のレオンもオッズアイの瞳を獰猛に光らせ、ゴルドと共に金剛闘気を爆発させた。
「フッ、絆を切り裂くだぁ? 面白いルールだな。だが、あいにく俺たち既存の身内の絆は、そんなチャチな虫の針一本で切れるほどヤワじゃねぇんだわ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
ルナの天秤を介し、既存メンバーの全エネルギーが、俺の胸の星の器へと濁流のようにスタックされていく。世界の理を司るスコーピウスの守護者に対し、極彩色の魔王軍による新たなる神話の蹂躙劇が幕を開けようとしていた。




