第72話:要塞都市の最奥と、狂気の遺産
黒鉄の城門を粉砕し、俺たちは一歩一歩、確実に都市の最奥へと進撃していた。
すでに大勢は決している。逃げ惑う帝国兵たちを、レオンの金剛闘気とアルゴの氷結が文字通り一切の容赦なく蹂躙し、残るは中央にそびえ立つ総督府のみとなっていた。
「フッ、ここまで来ればチェックメイトだな。おいスクラップども、大人しく道をあけろよ」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
「シリウス様、総督府の内部から、かなり歪んだ魔力の対流を感じます。……これは、通常の魔導兵器の出力ではありませんね。私の計算によると、都市の全エネルギーを一つの起点にスタックさせているようです」
アクアが清流の髪の眼鏡を美しく押し上げ、手元の図面を睨み据えながら冷静に警告する。
「あはは! どんなにエネルギーを集めたって、ルナちゃんの天秤で比率を書き換えちゃえば関係ないよね!」
シオンが新緑の髪を弾ませ、ルナの肩をポンと叩く。
「はい! 私の【天秤座】があれば、どれほど巨大な力であっても──」
ルナが白銀の髪を揺らし、エメラルドグリーンの瞳に自信を宿して微笑んだ、その刹那だった。
ズウゥゥゥゥゥン……ッ!!!
総督府の屋根を突き破り、天を突くほどの巨大な漆黒の魔導砲が姿を現した。都市全体の光を吸い込むかのようにドス黒く輝くその砲身からは、空間そのものを自壊させるほどの破壊エネルギーが、バチバチと音を立てて溢れ出している。
「ハハハ……! 愚かな反逆者どもめ! 門を破ったからとて調子に乗るな!」
総督府のバルコニーに現れたのは、先ほどから逃げ回っていたあの帝国将軍だった。その目は完全に血走り、狂気に満ちている。
「この『黒鉄の崩界砲』は、都市の全住民の生命力と引き換えに、対象の【概念そのものを消滅させる】帝国の禁忌遺産! いかにあらゆる因果を捻じ曲げる天秤の異能とて、存在そのものを消し去るこの一撃を調停することはできまいッ! 街ごとチリになれぇぇぇ!!」
将軍が発射レバーを狂ったように引き絞る。
砲口に集束していくのは、ルナの天秤の調停ルールすらも上書きして消滅させかねない、文字通り絶対絶命の破壊の渦だった。
「……概念の消滅、か。フッ、相変わらず面白いおもちゃを持ち出してくるじゃねぇか」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
ルナの天秤が通用しないほどの圧倒的な消滅エネルギー。だが、そんな絶望的なルール、俺たちの前ではただの引き立て役にすぎない。
「ルナ、お前の天秤はそのまま既存のメンバーたちの魔力をスタックすることだけに集中しろ。……そのチャチな大砲の相手は、この俺が直接してやる」
極彩色の神光が、俺の胸の星痕からかつてない密度で溢れ出す。帝国の狂気の遺産を正面から踏み潰す、真の蹂躙劇が始まろうとしていた。




