第66話:常闇の牢獄と、狂気の刺客
「フハハハハ……! 随分と歓迎されているようだなぁ、極彩色の魔王軍諸君!」
墨を流したように真っ黒に染まった空から、不気味な笑い声と共に一人の男が舞い降りた。帝国の影の最高戦力、一級特務刺客のキール。その全身から放たれるドス黒いオーラが、訓練場の美しい芝生を一瞬で腐食させ、灰へと変えていく。
「何だ、この禍々しい気配は……!? 触れただけで魔力の対流が狂わされる!」
アクアが清流の髪の眼鏡を焦燥に震わせ、即座に防御数式を展開しようとする。だが、キールは冷酷にその赤い単眼を光らせた。
「無駄だ。我が固有異能――**【常闇の牢獄】**のルールの中では、あらゆる光も、音も、魔力の起点さえも永久に遮断される! 貴様たちの自慢の連携とやら、闇の中でバラバラに崩壊するがいいッ!」
ドバァァァァァァッ!!!
キールの両手から放たれた絶対絶命の闇が、津波となって俺たち全員を飲み込んだ。
視界は完全なゼロになり、耳鳴りさえも聞こえない無音の空間。それどころか、皮膚の感覚や魔力を感知する五感そのものが、急速に削り取られていく。
(……チッ、視覚も聴覚も完全に潰されたか。発動の起点が見えなきゃ、どんな魔法も闘気もスタックできねぇってわけだな)
闇の中で、俺は己の五感が消失していくのを冷徹に感じ取っていた。
だが、このキールという刺客は、一つだけ致命的な計算違いをしていた。
俺たち極彩色の魔王軍を繋いでいるのは、目に見える記号や、耳に聞こえる言葉、そんなチャチな五感のルールではない。
(みんな、聞こえるか? いや、聞こえなくていい。……お前らの『意志』を、俺の星痕に預けろ!)
俺は九色のインナーカラーを闇の中で弄るように指先を動かし、胸の星痕を限界まで共鳴させた。
五感を失った暗闇の中でも、俺の胸にある星の器だけは、極彩色のラインで身内たちとダイレクトに繋がっている。
『――シリウス様……っ! 私の天秤で、この理不尽な闇の比率を書き換えます!』
真っ先に響いたのは、新しく志を共にしたルナの強い意志だった。彼女の【天秤座】の調停能力が、俺たちの五感を奪う『常闇の牢獄』の絶対ルールに干渉し、そのパワーバランスを強制的に五分五分へと引き戻していく。
『あはは! 視界がゼロでも、ルナちゃんが調停してくれたライン(風の道)なら、ボクの矢は絶対に外さないよ!』
シオンの嵐の意志がスタックされる。
『フフ、最高の数式だ。五感を遮断する闇のエネルギーの対流……ルナの調停と我が主の星痕があれば、逆算してその発生源を一撃で消滅させる計算が成り立つね』
アクアの知恵が重なる。
フェリスの聖なる魔力、レオンの闘気、アルゴの氷結概念――全ての身内たちの最強の力が、五感を越えた絆によって俺の胸へと限界突破でスタックされていく。
「な、何だと……!? 五感を完全に失っているはずのお前たちが、なぜ互いの位置を正確に把握し、エネルギーを一点に集中できているんだ……っ!?」
闇の向こうで、キールの驚愕と恐怖の悲鳴が微かに響いた。
「だから言っただろ。お前らのチャチな異能が縛れるのは、人間の五感までだ」
俺は闇の中で九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
ルナの天秤によって調停され、既存メンバーの全エネルギーを星の概念へと完全変換した俺の右拳が、常闇の牢獄を内側から粉砕せんと極彩色の神光を放つ。
「俺たちの絆を、闇なんかで遮断できると思うなよ」
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!




