第65話:帝国の次なる一手と、冷徹なる刺客
ルナの歓迎宴から数日。要塞都市が新たな活気に満ち溢れる一方、帝国の中枢では、極彩色の魔王軍に対する激しい焦燥と怒りが渦巻いていた。
「……まさか、本隊の呪界結界までもが破られ、実験体が奪われるとはな。無魔力の落ちこぼれ皇子シリウス……奴の背後にいる身内どもの戦力、もはや無視できぬレベルに達している」
帝国の冷暗な謁見の間。漆黒の玉座に座る高官の前に、一人の男が音もなく跪いていた。
男の全身からは、これまでの暗殺兵とは一線を画す、空間そのものを腐食させるような禍々しい黒いオーラが立ち上っている。
「閣下、あの『異能改変の少女』は、我が帝国の至高の兵器プランの核。それを掠め取った不届き者どもは、私がこの手で一人残らずバラバラにして差し上げましょう」
男が顔を上げると、その瞳は不気味に赤く濁っていた。
彼の名はキール。帝国の影の最高戦力であり、触れた者の五感を永久に遮断し、精神ごと崩壊させる絶対絶命の固有異能『常闇の牢獄』を操る一級特務刺客だった。
「うむ。シリウスの星痕によるエネルギー変換がどれほど規格外であろうとも、五感を奪われ、発動の起点そのものを失えばただの肉塊にすぎん。既存のメンバーごと、要塞都市を絶望の闇に突き落としてこい」
「御意に──」
キールの姿が、陽炎のように黒い霧となって掻き消える。
その頃、要塞都市の訓練場では、ルナが既存のメンバーたちに見守られながら、自身の能力の調整を行っていた。
「すごいよルナ! キミが横にいてくれるだけで、ボクの風の矢の軌道が、アクアの計算通りにピタッと一発で固定されるんだ!」
シオンが新緑の髪を弾ませ、疾風弓を構えながら目を輝かせる。
「フフ、私の計算に狂いはないが、ルナの【天秤座】の調停が加わることで、数式の展開速度が従来の300%にまでスタックされているね。これは実に素晴らしい効率だ」
アクアが清流の髪の眼鏡を押し上げ、嬉しそうに木札の数値を書き換える。
「あ、あの……! 私の力が、みなさんの役に立っているなら、本当に嬉しいです……!」
ルナが白銀の髪を揺らし、エメラルドグリーンの瞳を潤ませながら、ぎゅっと胸元で手を握りしめた。
「フッ、当然だ。お前が志を共にしてくれたからこそ、俺たちの絆はさらに完全無欠の『最強』へと進化したんだ」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵に口元を歪めた。
だがその瞬間、俺の胸の星痕レーダーが、かつてない禍々しい「死の波動」を検知して激しく脈打った。訓練場の青空が、まるで墨を流したかのように、急速にドス黒い闇へと侵食され始める。
「……チッ。どうやら、手ぬるいスクラップの次は、本格的な『悪意の塊』が直々にやってきたようだな」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべながら、迫り来る圧倒的な闇の気配を正面から睨み据えた。




