第61話:張り巡らされる罠と、孤高の少女
ルナが『迷いの森』の奥へと去ってから、数日が経過していた。
俺たちは彼女の警戒心を刺激しないよう、一定の距離を保ちながら、アルゴの氷結隠蔽やシオンの風の探知を使って、影からそっとその様子を見守っていた。
「……フン、頑固なやつだな。だが、少しはまともな食事を取れているのか?」
俺は城壁の上で九色のインナーカラーを指先で弄りながら、森の方向を睨み据えた。
「我が主、彼女は森の果実などを口にして、なんとか生き延びているようです。ですが……帝国の動きが不穏です。先日の偵察部隊の全滅を受け、今度は『黒の牙』の本隊が、彼女を確実に仕留めるための大規模な包囲作戦を開始しました」
黄金の髪を揺らしたレオンが、オッズアイの瞳に険しい光を宿して報告する。
「私の計算によると、敵は彼女の持つ『因果を歪める特異能力』を無効化するため、周囲の法則を強制固定する『絶対因果の呪界結界』を持ち出しているよ。あの結界に閉じ込められれば、彼女の抵抗は一切不可能になる」
アクアが清流の髪の眼鏡を押し上げ、冷徹に図面を指し示した。能力を封じられたルナが捕まれば、今度こそ実験体として使い潰されるか、その場で処分される。絶体絶命のピンチは、もう目と鼻の先まで迫っていた。
「シリウス様、早く助けに行ましょう……! あんなに傷ついている子が、また苦しい目に遭うなんて絶対に嫌です!」
フェリスがサクラピンクの髪を握りしめ、今にも飛び出していきそうな強い瞳で俺を見つめた。
「あぁ、分かっている。他人の力をアテにする必要はねぇが、助けを求めている身内を放置するほど、俺の器は狭くねぇわ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
その頃、森의 最深部──。
ルナは、完全に退路を断たれていた。周囲を囲むのは、帝国の本隊が展開した禍々しい紫色の結界。右手の甲に宿る未知の紋章は、結界の力でドス黒く染まり、ピきピきと悲鳴を上げて完全に沈黙している。
「くっ……力が、出ない……っ」
「フハハ! 逃げ惑うネズミめ、ようやく追い詰めたぞ! その忌々しい因果改変の異能、我が帝国の為に今度こそ骨の髄まで捧げてもらおう!」
冷酷な笑みを浮かべた帝国の本隊指揮官が、一斉に魔導重兵器の銃口をルナへと向けさせる。
頼れる力もなく、逃げる気力も尽き、ルナは絶望にエメラルドグリーンの瞳を閉じた。
「……やっぱり、私には、誰も……っ」
引き金が引かれ、無数の破壊光線が彼女を消滅させんと放たれた──その刹那。
ドガァァァァァァンッ!!!!
ルナの目の前で、空間ごと爆発を掻き消すほどの極彩色の神光が炸裂した。
「──誰が、俺の目の前でその子に手を出すって?」
爆煙の中から現れたのは、九色の前髪をかき上げ、圧倒的な威圧感を放ちながら不敵に笑う俺の姿だった。




