第60話:白銀の少女と、閉ざされた天秤
「あ、ありがとう……ございます……っ」
白銀の髪の少女は、俺の手を握りしめながらも、そのエメラルドグリーンの瞳には強い警戒と怯えの色を隠しきれずにいた。
「フッ、もう安心しろ。お前を追ってきたスクラップどもは、綺麗さっぱり片付けたからな」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべながらそっと手を離した。
「さあ、まずはこれを飲んで落ち着いてください! 特製のあったかハーブスープです!」
フェリスがサクラピンクの髪を揺らしながら、湯気の立つカップを少女に差し出す。しかし、少女はそのカップを見つめたまま、受け取ろうとはしなかった。
「……どうして、私を助けたの? あなたたちも、私の『力』が目当てなんでしょう……?」
少女の右手の甲には、怪しく、しかし美しく輝く──**【天秤座】**の星痕が刻まれていた。
周囲のあらゆる因果やエネルギーの比率を強制的に書き換える、絶対調停の能力。彼女はその力を帝国に目をつけられ、秘密研究所で利用されるだけ利用され、傷ついてきたのだ。
「私の知恵……いや、私の計算を口にするまでもないな。彼女の瞳を見れば、これまでにどれほどの悪意に晒されてきたかは明白だ」
清流の髪の眼鏡を押し上げ、アクアが静かに図面を閉じた。
「力を利用する、か。フン、あいにく俺たちはこれ以上仲間を増やす必要がないくらい、今いる身内だけで最強なんだ。お前の天秤なんてハナからアテにしてねぇよ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。ただ純粋に、傷ついた少女を目の前で放っておけなかっただけだ。
だが、ルナの凍りついた心は、その言葉すらも「嘘だ」と拒絶してしまう。
「信じない……! 人間なんて、みんな私を利用する悪魔だわ……っ!」
ルナは叫ぶと、フェリスのカップをすり抜け、まだふらつく足取りのまま、再び『迷いの森』の奥深くへと走り去ってしまった。
「あ、待って……!」
フェリスが悲しそうに手を伸ばすが、俺はそれを軽く手で制した。
「追わなくていい、フェリス。あれだけ手酷く裏切られて生きてきたんだ、すぐに俺たちを信じろって方が無理な話だ。……しばらくは無理に連れ戻さず、影から様子を見守ろう」
俺の言葉に、レオンやアルゴたち既存の身内も「それが賢明ですね」と静かに頷く。
ルナの閉ざされた心が、俺たちの真実の絆に触れるのはまだ先の話。だが、彼女が再び絶体絶命の窮地に陥るその時は、すぐ側まで迫っていた──。




