第59話:迷いの森の追跡劇と、可憐なる逃亡者
「アクア、座標のズレはないな」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべながら『迷いの森』の鬱蒼とした木々を見据えた。
シオンの風の加護を受け、俺たちはかつてない神速で少女の波動が放たれている境界線へと突き進んでいた。
「当然さ、我が主。彼女の持つ特異な魔力対流──その座標は私の『知恵の水瓶』が100%の精度でロックしている。ただ、彼女の後方から、帝国製と思われる無人魔導兵器の集団が急速に接近しているよ」
清流の髪を揺らすアクアが、並走しながら眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「フン、帝国のスクラップどもが。俺の新しい身内に手を出す前に、まとめて塵にしてやる。……おい、見えたぞ!」
開けた平原の境界に飛び出したその瞬間、俺の視界に一人の少女の姿が飛び込んできた。
ボロボロに破れた純白のドレスを翻し、息を切らせて必死に走る、透き通るような白銀の髪を持った可憐な少女。その背後からは、赤い単眼を発光させた数十体の鋼鉄の魔導兵器が、無慈悲なガトリング砲の銃口を向けて迫っていた。
「ターゲット確認。排除を開始する──」
機械的な音声とともに、一斉に放たれる無数の魔導弾。
「──させないよっ! ボクの嵐で、そんなおもちゃ全部吹き飛んじゃえ!」
シオンが新緑の髪を激しくなびかせ、疾風弓を限界まで引き絞って放った。超広範囲に炸裂した真空の嵐が、放たれた魔導弾をすべて空中で叩き落とし、前方数体の兵器をまとめて圧壊させる。
「キサマらは……何者だ……!?」
生き残った兵器が銃口をこちらへ向け直すが、すでに遅い。
「私の『氷結の絶対時間』の前に、駆動概念ごと凍りつけ」
アルゴが深藍の髪をなびかせ、地面に剣を突き立てる。絶対零度の冷気が大地を奔り、すべての魔導兵器の足元から一瞬で分子レベルまで凍結させ、その動きを完全にロックした。
「ひっ、あ、あなたたちは……?」
背後に迫っていた脅威が一瞬で無力化され、白銀の髪の少女が、驚きと恐怖の入り混じったエメラルドグリーンの瞳を見開いてその場にへたり込む。
「──フッ、もう安心だ。俺たちの前で、帝国のルールなんてものは通用しねぇよ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべながら、怯える少女の前へと歩み寄り、優しく手を差し伸べた。
無魔力のこの身に、背後の仲間たちから注がれる温かい魔力──それを星痕の器でスタックし、極彩色の優しい光に変えて少女を包み込む。
「もう大丈夫ですよ! すぐに温かいご飯を準備しますからね!」
後ろから駆けつけてきたフェリスが、サクラピンクの髪を揺らしながら、安心させるように極上の聖女の笑顔を向けた。
少女は俺の九色の光と、差し出された手を見つめ、張り詰めていた糸が切れたようにポロポロと涙をこぼした。
極彩色の魔王軍に加わる、新たなる星の少女。彼女が秘める驚異の能力と、その正体が今、明かされようとしていた。




