第56話:闇に潜む牙と、十の絆
「隊長! 結界の維持、不可能です! 奴ら、罠の配置を最初から知っていたかのように――」
「黙れ! 慌てるな、次陣を投入しろ!」
暗闇の森の中、帝国の隠密魔導部隊『黒の牙』の指揮官が、焦燥を隠しきれずに怒号を飛ばす。結界を破られた彼らは、すでに潜伏を諦め、数千の魔導暗殺兵を実体化させて要塞都市の面々へと襲いかかってきた。
「あはは! 姿を現したなら、もうボクの独壇場だよ!」
シオンが新緑の髪を弾ませ、疾風弓を引き絞る。
放たれた矢はアクアの数式によって最適化された軌道を描き、風の刃となって闇に隠れる暗殺兵たちを次々と一網打尽にしていった。
「フン、小細工ばかりの薄汚いネズミどもが。我が主の御前だぞ、弁えろ」
レオンが黄金の髪をなびかせ、オッズアイの瞳で戦況を冷徹に統率する。ゴルドの金剛闘気が前線を完璧に押し返し、サシャの毒熱が敵の退路をジワジワと焼き尽くしていく。
今ここにいる身内たちの能力が、お互いの弱点を補い合い、長所を何倍にもスタックさせている。これこそが、俺たちの積み上げてきた真の強さだ。
だが、帝国の『黒の牙』もただの雑魚ではない。
追い詰められた指揮官が、自らの命を犠牲にする禁忌の魔導書を掲げた。
「おのれ極彩色の魔王軍……! 呪われし我が命を糧に、全てを腐食させる『冥府の泥流』よ、奴らを飲み込めッ!!」
ドバァァァァァァッ!!!
大地から噴き出したのは、触れたもの全ての生命力と魔力を瞬時に腐らせる不浄の黒い泥。それは猛烈な勢いで、俺たちの足元へと迫る。アルゴの氷結概念すらも、その呪いの前にはじわじわと侵食され始めていた。
「――そんな汚い泥、シリウス様たちには一滴も触れさせませんっ!」
その刹那、戦場の空気を一変させる、圧倒的に優美で神聖なサクラピンクの光が夜空を満たした。
エプロン姿のフェリスが、サクラピンクの髪を激しくなびかせながら最前線へと飛び出していた。彼女の両手から放たれたのは、絶対聖域**【乙女の処女宮】**。
ドガァァァァァァンッ!!!!
押し寄せた黒い泥流が、サクラピンクの結界に激突した瞬間、ジジジと激しい音を立てて純白の湯気へと変わっていく。フェリスの神聖な魔力は、冥府の呪いすらも瞬時に浄化し、ただの「ただの綺麗な聖水」へと変えて大地を潤した。
「な、何という規格外の聖女だ……! 呪いの概念そのものを、一瞬で反転させただと……!?」
絶望に目を見開く帝国の指揮官。
「フッ、最高のタイミングだ、フェリス。お前が護ってくれたこの一瞬、無駄にはしねぇわ」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
無魔力のこの身に、フェリスが浄化し注ぎ込んでくれた膨大な聖なるエネルギー。それを胸の星痕へと一気にスタックし、純度100%の『星の概念』へと変換する。
過負荷でバチバチと空間をきしませる極彩色の神光を右拳に宿し、俺は指揮官の胸元へと真っ直ぐに突き刺した。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!
人間の魔力を遥かに超越した星のエネルギーが炸裂し、帝国の悪意は跡形もなく吹き飛んだ。
静寂が戻った森の中、俺は九色のインナーカラーを弄りながら、駆け寄ってくる身内たちを誇らしげに見つめた。新たなる覚醒を遂げた既存メンバーの絆は、もう誰にも引き裂けない。




