第55話:見えない包囲網と、魔王軍の迎撃
帝国の隠密魔導部隊『黒の牙』による包囲網は、音もなく要塞都市の周囲に張り巡らされていた。
彼らが仕掛けたのは、触れた者の肉体と空間を同時に爆砕する不可視の『歪曲結界』。打って出れば罠に掛かり、留まれば経済的に孤立する──帝国が仕掛けた、冷酷な二者択一だ。
「……フン、引きこもって俺たちを干上がらせるつもりか。舐められたものだな」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄りながら、不敵に口元を歪めた。
「我が主、敵の結界の配置図です。網の目のように都市を囲んでいますが、アクア殿の計算通り、魔力の供給源となっている楔が数箇所に点在しています」
黄金の髪のレオンが、オッズアイの瞳を鋭く光らせて報告する。
「その楔ってやつを、ボクの嵐で全部へし折ってあげればいいんだよね? あはは、腕が鳴るよ!」
シオンが新緑の髪を跳ね上げ、疾風弓に鋭い魔力を番える。
「いや、焦るな。敵は私たちが楔を狙うことすら織り込み済みだ。楔に近づいた瞬間、周囲の空間ごと反転して爆発する二重の数式が組まれている。……だが、私の知恵を上乗せ(スタック)すれば、その起爆のタイムラグを完全に看破できる」
アクアが清流の髪を揺らし、冷徹に眼鏡を押し上げた。
夜陰に乗じて、俺たちは同時に出撃した。
アクアの指示したルートを正確に通り、カインとアルゴが最前線へと突入する。
「空間ごと爆破するだと? 笑わせるな。俺の大鋏の前に、切れない空間など存在せんわ!」
カインが深紅の刃を閃かせ、罠の起動式が発動する前に、空間の因果ごとチョキンと切り裂いた。
「そこへ、私の『氷結の絶対時間』を重ねる。……概念ごと、永久に眠れ」
アルゴが深藍の髪をなびかせ、凍てつく冷気を大地に奔らせる。
カインが切り裂き、アクアが看破した罠の残滓が、分子レベルで完全に凍りつき、起動すらできずに粉々に砕け散っていった。
「な、何だと……!? 我が部隊が誇る絶対の歪曲結界が、これほど容易く無効化されるなど……!」
潜伏していた帝国の魔導兵たちが、暗闇の中で驚愕の声を上げる。
「フッ、手品は種が割れればただの児戯だな」
俺は九色の前髪をかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
罠を無力化され、完全に狼狽する帝国の精鋭たち。新しく仲間を増やす必要など、最初からどこにもない。今ここにいる最強のメンバーたちの進化と絆の熱量が、帝国のあらゆる悪意を正面から蹂躙していく。




