第54話:夕暮れの祝宴と、不穏なる影の胎動
深海軍勢の襲撃を完全に退け、豊穣の要塞都市にはいつもの穏やかな夕暮れが訪れていた。
フェリスが浄化した聖水は、アルゴが新しく整備した魔導水路を通じて、街の畑へと均等に注ぎ込まれている。
「状況把握。──これで農業区画の生産効率はさらに倍になるな。アクア、お前の言った通りのリサイクルだ」
俺は九色のインナーカラーを指先で弄り、不敵な笑みを浮かべながら、夕日に染まる要塞都市の全景を見渡した。
「計算通りさ、我が主。敵の襲撃という負のエネルギーすらも、フェリスの聖なる魔力で変換すれば、これ以上ない最高純度の資源へとスタックできる」
清流の髪を揺らすアクアが、木札の図面をめくりながら満足げに眼鏡を押し上げる。
「状況分析。──確かに、アクア殿の計算とフェリス殿の大防御が組み合わさった現在の防衛・内政インフラは、帝国の首都すらも凌駕しています。ですが、私たちはさらに先へ進まねばなりません」
黄金の髪のレオンが、オッズアイの瞳を引き締め、真剣な面持ちで俺を見つめた。
仲間が増え、それぞれの役割が極限まで噛み合い始めた今だからこそ、既存メンバー全体の底上げと、さらなる進化が必要不可欠なのだ。
「そんなに難しい顔をしてたら、せっかくのご飯が冷めちゃいますよ!」
広場の中心から、サクラピンクの髪をポニーテールに結んだフェリスが、大きなトレイを抱えて元気よく声を上げた。
今日のメニューは、先の戦いでフェリスが閃いた、食べた者の限界魔力量を一時的に突破させる特製の『深海ハーブと完熟トマトの冷製パスタ』だ。
「ガハハ! 待ってました! フェリスの飯を食うと、体中の闘気が勝手に湧き上がってきやがる!」
ゴルドが豪快に皿を引っ掴み、シオンやカイン、サシャたち既存の身内も、美味そうに料理を口へと運び始める。
「……美味いな。どれほど過酷な戦いであっても、この味があれば私たちは常に万全の状態で戦える」
アルゴが深藍の髪を揺らし、静かに微笑む。
「──フッ、最高の兵站だな」
俺はパスタを口に運び、フェリスに向かってニヤリと笑ってみせた。
フェリスはサクラピンクの瞳を輝かせ、「えへへ、みんなの力になれて嬉しいです!」と、本当に幸せそうに胸を張る。
既存の身内たちの絆は、これ以上ないほど強固に結ばれ、要塞都市の文明精度は日々高まり続けている。
だが──世界は、このイレギュラーな魔王軍の台頭を、これ以上黙って見てはいなかった。
その夜。
俺たちが祝宴を楽しんでいたその裏で、かつて俺を追放した『帝国』の最深部──闇の会議室にて、数多の不穏なる影が動き出そうとしていた。
「報告。元皇子シリウス……奴の勢力は、すでに大砂海の知略すらもスタックし、一国に匹敵する軍事要塞を築き上げています」
「……不愉快なイレギュラーだ。これ以上の増長は、世界のルールを揺るがしかねん。奴らの『絆』ごと、根底から叩き潰す絶対の罠を用意しろ」
冷酷な声が響き、帝国の精鋭たちが、次なる過酷な刺客として動き出す。




