第51話:清流の設計図と、大海原からのプレリュード
大砂海での激闘を終え、俺たちは再び【極彩色の魔導要塞都市】へと帰還した。
アクアが仲間に加わったことで、都市の発展スピードはさらに異次元の領域へと突入している。
「状況把握。──なるほど、お前の頭脳が入るだけで、街の効率が段違いに跳ね上がるな」
俺は九色に増えたインナーカラーを指先で弄りながら、新しく完成した都市の防衛シミュレーションの魔導投影を見つめた。
「当然さ、我が主。レオンの規律ある設計は素晴らしいが、少々堅実すぎる。私の『知恵の水瓶』の計算を組み込めば、万年氷晶の城壁の魔力伝導率をさらに300%スタックできる。無駄なリソースは一切存在しない」
清流の髪をなびかせたアクアが、不敵な笑みを浮かべながら空間に数式を走らせる。
「状況分析。──確かに、アクア殿の知略による最適化は認めざるを得ません。悔しいですが、私の帳簿管理よりも数手先を行っていますね」
黄金の髪のレオンが、オッズアイの瞳を細めながらも、新たなライバルの出現にどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
都市のインフラが神の領域へと近づく中、広場からは何とも言えない香ばしい、幸せな匂いが漂ってくる。
「みんな、遠征お疲れ様でした! 今日はアクアさんの歓迎会も兼ねて、特製の『お祝い大鍋グラタン』を作りましたよ!」
サクラピンクの髪を軽快に揺らし、エプロン姿のフェリスが大きな木べらを手に満面の笑みで呼びかける。
前回の戦いで『乙女座』の聖女として覚醒したフェリスだが、街に戻れば相変わらずみんなの胃袋を支える最高の料理人だ。彼女の料理には、今や食べた者の基礎魔力を永続的に底上げする神聖な加護すら宿っている。
「……美味い。フェリス、お前の料理は私の計算式を超える唯一のイレギュラーだ。この美味さは数値化できないな」
アクアがスプーンを口に運び、驚嘆の面持ちで眼鏡を押し上げる。
「ガハハ! だろ? フェリスの飯を食うために俺たちは戦ってんだよ!」
ゴルドが豪快に笑い、カインやシオン、アルゴたち既存の身内も、フェリスの料理を囲んで大いに盛り上がる。
ただの荒れ地だったこの場所が、今や世界で最も強固で、最も温かい【極彩色の理想郷】へと耕されていた。
しかし、至福の宴の最中──。
ザザァァァァァァァン……ッ!!!
乾いた砂漠の国であったはずのこの地に、突如として、あり得ないはずの「潮騒の音」が響き渡った。
「状況把握。──おいおい、今度は大気中の水分量が急激に跳ね上がってやがるぞ」
俺は不敵に口元を歪め、立ち上がった。
俺の胸の奥にある星痕レーダーは鳴っていない。だが、遥か南の【果てなき大海原】の方向から、世界を丸ごと飲み込もうとするような、あまりにも巨大で不穏な『海神の胎動』が押し寄せてくるのを、進化した都市の魔導センサーが捉えていた。
「報告! 沿岸部の幻影より緊急伝令!」
レンがオッズアイの目を鋭く光らせ、緊迫した声を響かせる。
「南の海より、伝説の海獣──**【深海王】**の眷属軍勢が、この要塞が放つ膨大な魔力を感知して一斉に北上を開始! その数、数万!!」
大砂海の魔獣を退けたばかりの俺たちに、今度は深海からの圧倒的な物量が牙を剥く。
だが、九人の至高の身内を従えた俺の心に、微塵の揺らぎもなかった。
「ふっ……状況把握。砂の次は水攻めか。上等だ。新入りの知恵と、進化した要塞都市の力……あの海の雑魚どもにたっぷりと味あわせてやる」
俺は九色の前髪を力強くかき上げ、最高にクールな笑みを浮かべた。
極彩色の魔王軍。その真の蹂躙と防衛戦が、今度は青き激流を舞台に幕を開ける。




