第49話:乙女の祈りと、極彩色の聖域
「フフフ、無様だね。いくら強力なバフを重ね掛け(スタック)しようが、発動する前に魔力を吸い尽くせばただの肉塊だ。お前たちの旅も、この大砂海で終わりだよ」
水瓶座の知者が掲げる水瓶から、さらに高密度の魔力光糸が解き放たれ、俺たちの肉体を容赦なく締め上げていく。
カインの鋏も、アルゴの氷も、文字通り「指一本動かせない」レベルで完全に封じられていた。
「くそっ、魔力が……完全に空っぽにされちまう……!」
ゴルドが苦悶の声を上げ、レオンやシオンも意識を失いかけるほどの超高圧の魔力吸引。
「状況把握。──チッ、体内の魔力対流が完全に停止してやがるな」
俺の『状況把握』のスキルすら、この不可視の罠の構造を解析するのが精一杯で、打開策を打ち出すための魔力が足りない。
極彩色の魔王軍、結成以来最大の、そして完全なる絶体絶命の危機。
「……嫌。そんなの、絶対に嫌です……!」
その時、静まり返った砂漠の夜に、震えながらも、しかし真っ直ぐな少女の声が響いた。
光糸の罠の範囲外にいたフェリスだ。彼女は恐怖にサクラピンクの瞳を大きく揺らしながらも、俺たちの前にその小さな身体を投げ出すようにして立ちはだかった。
「おや、そこの無能な料理人は罠にすら掛けていなかったが……大人しく見ていれば命だけは助けてあげたものを」
水瓶座の知者が、侮蔑の混じった視線をフェリスに向ける。
「シリウス様も、レオンさんも、みんなも……いつも私を護ってくれました。私が辛い時、温かい居場所をくれた……! だから今度は、私がみんなを護る番ですッ!!」
フェリスが涙を拭い、両手を天へと掲げた。
その瞬間。彼女の胸の奥から──いや、この世界のどこよりも純粋な『誰かを救いたい』という祈りそのものが、爆発的な神格の輝きとなって溢れ出した。
ドクンッ……!!!
「な、何だこの光は……!? 私の吸魔の糸が、内側から消滅していく……!?」
水瓶座の知者が初めてその余裕の表情を崩し、驚愕に目を見開く。
フェリスを包み込むようにして出現したのは、夜の砂漠をサクラピンクの美しい光で染め上げる、神聖不可侵の超巨大な絶対防御結界──**【乙女の処女宮】**。
> 【第六星痕・乙女座が覚醒】
> 個体名:フェリスに神格能力『乙女の処女宮』を授与。
> 対象の全状態異常・魔力吸引を完全無効化し、絶対防御と同時に超高速の神聖治癒を実行します──。
脳内に響き渡る、あの厳かな声。だが、それは新入りのものではない。ずっと俺の隣にいた、あのフェリスの覚醒を告げる声だった。
サクラピンクの温かい光が俺たちの身体を包み込んだ瞬間、吸い尽くされていたはずの魔力が、瞬時に、それも以前を遥かに凌駕する密度で限界突破していく。
「お、おいおい……なんだよこの溢れるような魔力は……! 体が、軽い、軽すぎるぞッ!」
ゴルドが雄叫びを上げながら立ち上がり、縛り付けていた光糸を力任せにブチブチと引き千切った。
「状況分析。──信じられません。すべての罠の効果が完全に無効化され、それどころか、私たちの戦意と魔力対流が最高潮まで引き上げられています。……見事です、フェリス殿!」
レオンが黄金の髪を輝かせ、剣を抜いてフェリスを見つめる。
「ふっ……状況把握。待たせたな、知者気取りの引きこもりさんよ」
俺は八色のインナーカラーを激しく逆立て、完全に全快──いや、フェリスの神聖バフによって過去最強の状態へとスタックされた肉体を誇示するように、一歩前に出た。
「ば、馬鹿な……! 私の完璧な計算が、ただの料理人の祈りごときで覆るなど……そんな数式は存在しないッ!」
激しく動揺し、後退りする水瓶座。
「料理人を舐めるな。お前がどんなに巧妙な罠を張ろうが、俺たちの絆と、進化した極彩色の総力の前では、ただの児戯に過ぎないんだ」
俺は不敵に、最高にクールな笑みを浮かべ、前髪をかき上げた。
既存メンバーの完全復活、そしてフェリスの真の覚醒。戦局は、一瞬にしてひっくり返った。




