第41話:反撃の兆しと、冷徹な追撃
「状況把握──。まともに動けねぇなら、力任せにこの空間ごとブチ破るだけだわ」
俺は凍りついた左肩の血を指先で拭い、不敵に口元を歪めた。
冷気で魔力循環がガタガタだろうが、俺の辞書に「撤退」の二文字はない。極寒の冷気が魔力経路をガリガリと侵食してくるが、胸の奥の星痕が放つ熱量までは凍らせちゃいねぇ。
俺が膝を深く曲げて地を蹴ろうとした、まさにその時──。
「シリウス様、ここは私たちに任せて、一時後退を……っ!」
フェリスがサクラピンクの髪を振り乱し、必死の形相で前に出ようとする。
「状況分析。──フェリスの言う通りです、我が主。敵の結界の出力は未だ上昇中。完全に魔力を封じられる前に一旦間合いを外し、仕切り直すべきです!」
レオンが黄金の髪を激しく揺らし、凍りつきかけた天秤盾で必死に俺を庇いながら叫んだ。
規律を重んじ、常に勝率の高い戦術を選ぶレオンにとって、この極限状態での正面突破は無謀以外の何物でもないはずだ。だが、俺の眼は死んでねぇ。
「いや、下がる必要はねぇ。状況把握──。お前たちの力を、俺の体にスタックさせろ」
「なっ……我が主、今ここで全員のバフを重ね掛けする(スタック)と!? しかし、それではあなたの肉体が冷気との拒絶反応で……っ!」
レオンのオッズアイの瞳が驚愕に染まる。
だが、俺たちの会話を遮るように、アルゴの冷徹な声が周囲の空間を震わせた。
「無駄な会話だ。貴様たちの『撤退の意志』すら、ここでは凍結する。──【断頭氷刃】」
アルゴが深藍の髪を激しく逆立て、氷の剣を天へと掲げた。
刹那、俺たちを取り囲む吹雪の粒子が一瞬で静止し、それぞれが鋭利に尖った数千、数万の「氷の刃」へと姿を変える。全方位、死角なし。文字通り、生きとし生けるものを千切りにせんと迫る絶対零度の雨。
「チッ、だるいわ……。おいアルゴ、世界を拒絶するお前の『忍耐』が勝つか、仲間を巻き込んで進む俺の『傲慢』が勝つか──」
俺は体内の七つの星痕を再び明滅させ、次なる一撃のためのエネルギーを極限まで練り始めた。
周囲の大気がキチキチと音を立てて凍りつき、俺の足元から太ももにかけて白い霜が這い上がってくる。
「まとめて状況把握してやる。……おいお前ら、合図と共に全力を寄越せ!!」
ピンチの後にこそ、最高の蹂躙が待っている。俺は不敵に笑い、七色の前髪の奥で、暴れ狂う魔力の核をぎりぎりと抑え込んだ。




