第40話:砕け散る絶対優位
「フン……すべてを凍らせる概念の領域か。面白い」
俺は凍りついた右足を強引に引き剥がし、不敵に笑ってみせた。だが、内心の焦りは隠せない。体内の魔力循環が冷気で阻害され、いつもの爆発的なスピードが出せないのだ。アリエスからライブラまで、スタックしてきた6つのバフが、この男の『忍耐』の前には目詰まりを起こしている。
「状況分析。──我が主、敵の結界は私たちの『前進する意志』そのものを凍結させています! 闇雲な突撃は危険です!」
レオンが黄金の髪を振り乱し、天秤盾を掲げて俺の前に滑り込んできた。
ギィィィィィンッ!!!
アルゴが放った氷の風刃が天秤盾に激突し、凄まじい火花を散らす。概念をも裁くはずのレオンの絶対防御の盾が、寒さでミシミシと悲鳴を上げ、表面に白い霜が張り付いていく。
「くっ……防戦一方では、いずれ盾ごと凍りつく……っ!」
「あはは! だったら僕の風で、その冷気を吹き飛ばしてあげるよ!」
シオンが新緑の髪をなびかせ、凍りつく指先で無理やり【嵐の疾風弓】を引き絞った。放たれたのは、超高密度の竜巻の矢。だが──。
パキィィィンッ……!
「嘘でしょ……!? 矢が、届く前に凍って落ちた……っ!?」
シオンの放った絶大なる一撃は、アルゴの周囲数メートルに展開された絶対零度の壁に触れた瞬間、ただの氷細工となって地面に虚しく砕け散った。
「無駄だと言ったはずだ。この領域に踏み込む者は、熱も、風も、時間すらも凍結する」
アルゴは冷徹な深藍の瞳を光らせ、氷の剣を静かに振り下ろした。
刹那、俺たちの頭上に具現化していた巨大な氷の断頭台が、凄まじい質量と速度で一斉に落下してくる。
「チッ、総員、状況把握──全力で回避しろわ!」
俺はフェリスの腰を抱き寄せ、魔力を爆発させて真横へと跳んだ。
ドガァァァァァンッ!!! と背後で激しい地響きが鳴り響き、俺たちがさっきまでいた地面が深々と抉られ、巨大な氷柱が突き刺さる。
避けた──そう思った瞬間、俺の左肩に鋭い激痛が走った。
避けたはずの氷の破片が、俺の魔力障壁を紙のように切り裂き、肌をかすめていたのだ。傷口から流れる血が、一瞬で凍りついて赤黒い結晶となる。
「俺が……攻撃を避けきれなかった……?」
これまですべての戦いで無敗、圧倒的な絶対優位を誇っていた俺の身体に、初めて刻まれた明確な「敗北の兆し」。
「主が……傷ついた……!?」
カインが深紅の髪を逆立てて驚愕し、サシャも紫色の髪の下で妖艶な笑みを完全に消し去っていた。
「状況把握。──なるほどな。世界に裏切られ続けたお前の絶望、想像以上だわ」
俺は凍りついた左肩を押さえ、ニヤリと口元を歪めた。
冷気に侵食され、ガタガタと震える身体。かつてない絶対の危機。だが、俺の胸の奥にある星痕のレーダーは、この絶望的な凍土の底で、未だに激しく燃え盛るアルゴの『誇りの残り火』をハッキリと捉えていた。
簡単にはいかない。だからこそ、この男の氷をブチ砕いて仲間に引き入れた時、俺たちは本当の『最強』になれる。




