第39話:絶対零度の拒絶と、初めての『壁』
「状況把握。──アルゴ、お前がどれだけ頑固な氷に閉じこもってようが、俺たちの前では無意味だわ。大人しく俺の『身内』になれ」
俺は七色の光を放つ前髪を指先で弄りながら、不敵に笑って一歩を踏み出した。
これまでの仲間たちと同じように、圧倒的な神速とバフのスタックで一瞬にして懐に潜り込み、その孤独を砕いてやる──そう確信していた。
だが、次の瞬間。
ザシュゥゥゥゥッ!!!!
「──ッ!? なんだ、この冷気は……っ!?」
俺の視界が、突如として上下反転した。
神速の『縮地』を発動したはずの俺の身体が、アルゴの遥か手前、ほんの数歩進んだだけの空間で完全に『停止』させられていた。いや、停止したのではない。俺の踏み出した右足の膝から下が、大気ごと一瞬で凍りつき、地面に完全固定されていたのだ。
「遅いな。我が領域──【氷結の絶対時間】の中では、光の速度すらも凍りついて鈍鈍になる」
アルゴは深藍の髪を吹雪に揺らし、感情の一切を排した瞳で俺を見据えた。
彼が氷の剣を軽く一振りしただけで、空間そのものがキチキチと音を立てて凍結し、鋭利な氷の刃となって俺の胸元へと殺到する。
「シリウス様ッ!!」
「我が主ッ!!」
フェリスとレオンが同時に叫ぶ。
レオンが即座に黄金の天秤盾を構えて前に出ようとするが、アルゴの放つ絶対零度の波動は、レオンが盾を動かすよりも早く、その足元を凍らせて動きを封じた。
「くっ……! 状況分析……! この寒気、ただの魔力ではない……! 概念そのものを凍結させている……っ!」
あの堅物のレオンが、見たこともない焦りの表情を浮かべて歯噛みする。
「ハハッ、じゃあ僕の風で──」
シオンが新緑の髪を揺らし、疾風弓を引き絞ろうとするが、その指先は引いた弦ごとパキパキと白く凍りつき、まともに矢を放つことすら許されない。
「チッ、だるいな……っ!」
俺は体内の七つの星痕の魔力を一気に爆裂させ、無理やり右足の氷を粉砕してバックステップを踏んだ。
だが、スタックされたバフによる圧倒的な熱量をもってしても、体の芯まで染み渡るような冷気が、俺の魔力循環をガタガタと狂わせていく。体の動きが、これまでの戦いとは比べ物にならないほどに重い。
「フン、世界に裏切られ、すべてを奪われた私の『忍耐』を、その程度の生ぬるい力で溶かせると思うな」
アルゴが静かに剣を上段に構える。
その周囲に、空間を埋め尽くすほどの巨大な氷の断頭台が次々と具現化していった。
これまで、どんな敵も、どんな呪いも、圧倒的な力で簡単にねじ伏せ、仲間に引き込んできた俺たち。
だが、北の最果てに眠る山羊座の『器』──その絶望と忍耐の深さは、俺たちが初めて直面する、文字通りの『巨大な壁』となって立ち塞がっていた。




