第38話:凍てつく意志と、北の断頭台
射手座のシオン(新緑)を仲間に加えた俺たちは、要塞での短い休息を終え、次なる星痕の波動を追って遥か北──年中吹雪が吹き荒れる【凍土・極寒地帯】へと足を進めていた。
大森林の瑞々しい境界線を越えた瞬間から、世界は白一色の銀世界へと変貌する。吐き出す息は一瞬で白く凍りつき、鋭い氷の礫が容赦なく顔を打ちつけてきた。
「さ、寒いです……シリウス様……っ。防寒の結界を張っていますが、体の芯から凍りつきそうで……っ」
フェリスがサクラピンクの髪をフードに押し込み、俺の背中に身を寄せながら歯をガチガチと鳴らす。
「状況把握。──ただの寒波じゃねぇな。大気そのものが『拒絶』の魔力で凍てついてるわ」
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げた。
黒髪の内側で激しく蠢く七色のインナーカラー──サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅、黄金、新緑。七つの星痕のバフが重ね掛け(スタック)された俺の肉体は、周囲の絶対零度を無効化し、むしろ周囲の雪を熱量で蒸発させるほどの領域に達していた。
「冷たい風だねぇ。だけど、私の『神罰の紫毒』なら、この吹雪の結晶さえも腐らせて落せるわよ?」
サシャが紫色の髪をなびかせ、妖艶な笑みを浮かべながら周囲の氷壁を指先でなぞる。
「状況分析。周囲の氷の硬度は、通常の鉄鋼を凌駕している。この地に潜む者──相当な防衛の意思を感じるな」
レオンが黄金のマリーゴールドの髪を吹雪に晒しながら、巨大な天秤盾を雪に突き立てて冷静に言った。
「フン、どれだけ硬い氷の壁だろうと、僕のハサミの絶対破壊の前には、ただの薄氷と変わらないさ」
カインが深紅の髪を跳ね上げ、背負った大鋏の柄をキチリと握り直す。
「あはは! 寒さに負けて足が鈍ったら、僕が後ろから突風で背中を押してあげるよ!」
シオンが新緑の髪を揺らし、疾風弓を軽く鳴らして笑った。
俺たちがさらに雪原の奥、氷 of 牙のように聳え立つ氷山の中央へと進むと、突然、前方の視界が赤黒い血の海に染まっているのが目に入った。
「が、はっ……化け物め……っ! 帝国に刃向かう罪人が、雪山の奥で大人しく野垂れ死んでいればいいものを……っ!」
「──私の眠りを妨げたのは、貴様たちだ。帝国(お前たち)の身勝手な法など、この永久凍土の底には届かない」
そこには、数十人の帝国の精鋭討伐隊を一人で血の海へと沈め、氷の剣を静かに引き抜く一人の**【深藍】**の髪を持つ青年が佇んでいた。
彼の名は『アルゴ』。
山羊座の星痕を宿す、圧倒的な『忍耐』の戦士。かつては帝国の高潔な騎士だったが、腐敗した上層部の身代わりとしてすべての罪を擦り付けられ、この北の最果てへと追放された。どれだけ世界に裏切られ、すべてを奪われようとも、己の内に秘めた『誇りと誓い』だけを凍らせて守り続けてきた、哀しくも強固な志の持ち主。
アルゴが冷徹な視線をこちらに向けると、彼の持つ氷の剣から、周囲の空間そのものを凍結させるほどの絶対零度の波動が放たれた。
(──お、今度の奴はこれまでの連中とは一味違いそうだな。この肌を刺すプレッシャー、ただ事じゃねぇわ)
俺は七色の光を放つ前髪を指先で弄りながら、不敵に口元を歪め、凍てつく戦場へと一歩を踏み出した。




