第37話:不羈の風、要塞に吹く
射手座のシオン(新緑)を仲間に加え、西の断崖の狂風を文字通り霧散させた俺たちは、再び大森林の『豊穣の泉の要塞』へと帰還していた。
「状況把握。──シオン、体調はどうだ。呪いの残滓は残ってねぇか?」
「あはは、全然平気だよ、シリウス! ほら、こんなに身体が軽いんだ!」
要塞の中央広場で、シオンは新緑の髪を軽快に弾ませながら、文字通り風のようにその辺を跳び回ってみせた。背負った【嵐の疾風弓】も、今は暴走することなく、彼の自由な意志に従って穏やかな微風をまとっている。
「ふん、ちょこまかと落ち着きのない奴だな。僕のハサミでその生意気な羽をむしり取ってやろうか?」
カインが深紅の髪を揺らし、大鋏の刃をギチギチと鳴らして不敵に笑う。
「やってみる? 君のその重そうなハサミじゃ、僕のスピードには一生追いつけないと思うけどね!」
シオンはあっかんべーと舌を出し、一瞬でゴルドの巨体の後ろへと回り込んだ。
「ガハハ! 新入りもなかなかに肝が据わっておるわ! よいぞ、これだけ素早ければ我が防衛陣地の伝令役としても完璧だ!」
ゴルドが豪快に笑い、その横でレオンが黄金のマリーゴールドの髪をなびかせながら、「状況分析。身内同士の無益な衝突は、要塞の規律に悖る。二人ともそこまでにせよ」と、厳格なオッズアイを光らせて場を宥めた。
「ふふ、本当に賑やかねぇ。私の毒を仕込んだ矢でも持たせたら、面白い猟犬になりそうだわ」
サシャが紫色の髪を弄りながら、妖艶な笑みを浮かべながらシオンを見つめる。
「僕の幻術とシオンの矢を組み合わせたら、敵はどこから攻撃されてるか分からなくて発狂しちゃうかもね」
レンもオッズアイの目を細め、クスクスと楽しそうに微笑んだ。
仲間たちの賑やかな声を聞きながら、俺はものぐさそうに前髪を掻き上げた。
黒髪の内側で爆発的な神気を放ちながら蠢く、七色のインナーカラー──サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅、黄金、そして新緑。
アリエスからサジタリウスまで、七つの星痕のバフがスタックされた今の俺の領域は、ただ息をするだけで周囲の因果律さえも書き換えかねない、絶対的な神域へと到達しつつあった。
「シリウス様、冷たい果実水を持ってきました! シオンくんも、いっぱい飲んでね!」
フェリスがサクラピンクの髪を揺らし、笑顔でトレイを運んでくる。
「ありがとな, フェリス。……さて、状況把握だわ」
俺が果実水を受け取ろうとした、その刹那。
ドクンッ……!!!
胸の奥に刻まれた星痕のレーダーが、これまでの誰よりも『冷酷で、静寂に満ちた波動』を感知し、氷を突き立てられたかのように鋭く脈打った。
今度の気配は、大森林の遥か『北』──。
万年雪が全てを覆い尽くし、生きるもの全ての体温を奪い去る、絶対零度の『凍土・極寒地帯』。
魂のレーダーを通じて脳内に流れ込んできたのは、圧倒的な「忍耐」と、凍てつく孤独。
どれだけ世界に裏切られ、冷遇されようとも、ただ己の内に秘めた熱い誓いだけを凍らせて守り続ける、哀しくも強固な『志』。
イメージの奥に浮かび上がるのは──すべてを厳格に削り出す、氷の『山羊の角』。
(──**『山羊座』**。今度は、とびきり冷めてて、凍てついた奴が待ってそうだな)
「シリウス様……? お顔が少し強張っていますが……」
フェリスが心配そうに覗き込んでくる。
「いや、なんでもない。状況把握──。じゃじゃ馬の歓迎会が終わったら、次は北の凍土へ遠征だ。俺たちのところに引きずり込むべき『8人目の身内』を、その凍りついた心ごと、俺の熱で溶かして迎えに行ってやる」
俺は不敵に口元を歪め、七色の光を放つ前髪を指先で弄った。
無能と追放された黒髪の皇子が率いる極彩色の魔王軍。その進撃の足音は、世界の果てである凍土をも揺るがすために、北へと向かって響き始める。




