第36話:断崖の神速戦、そして無限の青空
「うるさい、うるさい、うるさいッ! お前だって、僕の力を利用したいだけなんだろッ!!」
シオンが絶叫し、引き絞られた【嵐の疾風弓】から、眩い光を放つ三本の矢が同時に放たれた。
その矢は空中でそれぞれ巨大な竜巻へと変貌し、意思を持つ蛇のように軌道を変化させながら、左右、あるいは頭上からの三次元的な同時奇襲となって俺へと襲いかかる。
「シリウス様ッ!!」
フェリスが悲鳴を上げる。
「状況把握。──なるほど、ただ真っ直ぐ飛んでくるだけの玩具じゃねぇな。だが、遅いわ」
俺は一歩、大地を踏みしめた。
アリエスからライブラまでの六つの星痕のバフが重ね掛け(スタック)された俺の身体能力は、文字通り次元が違う。
ドゴォォォォォンッ!!!
俺がその場で軽く跳躍しただけで、足元の断崖が衝撃波で陥没。
まず頭上から迫る第一の竜巻に対し、俺は空中で体躯を反転させながら、極限まで練り上げられた右足の蹴りを一閃。空気を爆裂させるほどの風圧だけで、大気ごと竜巻を真っ二つに叩き割る。
「なっ……空中であの速度の方向転換……っ!?」
驚愕するシオンの視界から、俺の姿が完全に消えた。神速の移動──『縮地』。
「残りの二本も、把握済みだ」
直後、左右から挟み込むように迫っていた残りの竜巻のド真ん中、その『魔力の結節点』へ、俺は音速を超えた両拳を同時に突き出した。
バキィィィィィンッ!!!!
まるで強固なガラス細工を叩き割ったかのような硬質な破壊音が響き、残る二つの暴風が木端微塵に霧散する。
「化け物……っ! 僕の全力の嵐を、ただの体術だけで全部……っ! だったら、これならどうだッ!!」
シオンは新緑の髪を激しく逆立て、疾風弓の弦をさらに限界を超えて引き絞る。彼の呪われた魔力が暴走し、周囲の風刃がさらに鋭さを増して俺の魔力障壁をガリガリと削りにかかる。
放たれようとしているのは、断崖ごとすべてを消し去るほどの、超高密度に圧縮された一撃。
(状況把握。……フン、意地っ張りなじゃじゃ馬だ。だが、お前が本当に求めてるのは、世界を拒絶する嵐じゃなくて、行きたい場所へ自由に飛べる『翼』なんじゃないのか?)
「お前のその嵐、俺が全部買い取ってやる」
シオンが引き絞った光の矢を放つ、まさにその刹那。
俺は風刃の嵐を紙一重のステップですべて回避しながら、正面から一瞬で間合いを詰めた。
放たれる寸前の矢の根元を、俺は左手でガシィィィッ! と直接掴んで強引に軌道を天へと逸らし、そのまま空いた右手で、暴走する呪いの魔力でガタガタと震えているシオンの身体を、その胸へと力強く抱き止めた。
ドガァァァァァンッ!!!!
天へと逸らされた光の矢が遥か上空の雷雲を貫き、大爆発を起こして雲を吹き飛ばす。
「あ……が、温かい……。僕を縛る鎖(呪い)が、溶けていく……っ」
その瞬間──。
シオンの胸元から、果てしない大空を想起させる、どこまでも鮮やかな**【新緑】**の光が爆発的に溢れ出した。
【──第七星痕・射手座が覚醒。個体名:シオンに神格能力『神弓の絶対貫通』を授与。同時に、主への基礎身体能力バフがさらに上乗せ(スタック)されます──】
脳内に響き渡る七度目の厳かな声。
ドクンッ……!!!
体内の魔力がさらに爆発的な熱量を帯び、俺の身体から放たれる神気が、断崖に吹き荒れていた狂風を一瞬にして完全に静まり返らせた。
サクラピンク, ゴールド, ヴァイオレット, プラチナシルバー, 深紅, 黄金──そして新たに、俺の前髪の内側に**【新緑の光のメッシュ】**が、七色目の輝きとして鮮烈に灯った。
「あはは……すごい。僕、もう何にも縛られてない……。こんなに身体が軽いのは初めてだ……っ」
シオンは光り輝く『射手座の星痕』を胸に宿し、深い安心感から大の字になってその場に寝転がった。暴走していた嵐は完全に消え去り、そこには突き抜けるような美しい青空が広がっていた。
「状況把握。──よくその自由を護り通したな、シオン。これからは俺の『身内』として、好きなだけ空を駆けろ」
俺は七色に増え、ますます極彩色の輝きを増したインナーカラーを指先で弄りながら、不敵に口元を歪めた。
「シリウス様! 凄い身のこなしでした……! 嵐がすっかり止んで、綺麗な青空になりましたね!」
フェリスがサクラピンクの髪を揺らして駆け寄ってくる。その後ろからは、ゴルド、サシャ、レン, カイン、レオンがそれぞれ頼もしい足取りで歩いてきた。
「ガハハ! これで7人目か! 今の立ち回り、実に見事でしたぞ、魔王様!」
「新緑の髪のじゃじゃ馬さん、これからよろしくね」
七つの星痕をスタックし、もはや神の領域へと足を踏み入れつつある黒髪の追放皇子。
極彩色の魔王軍の進撃は、帝国の、そして世界の度肝を抜くために、さらなる嵐を巻き起こしていく。




