第35話:西の狂風と、嵐の中の絶叫
天秤座のレオンを迎え、六つの星の輝きを手にした俺たちは、息つく間もなく大森林の遥か『西』──絶え間なく雷雲が渦巻く【嵐の断崖地帯】へと足を踏み入れていた。
近づくにつれて風は狂暴さを増し、鋭い風刃となって俺たちの肌を打ちつける。
「きゃああっ……! シリウス様、風が、風が強すぎて前に進めません……っ!」
フェリスがサクラピンクの髪を激しく乱しながら、俺の背中に必死にしがみついた。
「状況把握。──なるほど、ただの自然現象じゃねぇな。意思を持った魔力の暴風だわ」
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げ、六色のインナーカラーを激しく明滅させた。
サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅、黄金。六つの星痕のバフがスタックされた俺の肉体にとって、この程度の嵐はそよ風にも満たない。だが、俺の魂のレーダーが捉えているのは、この嵐の中心で、自らの暴走する力に呑まれかけている『射手座』の悲鳴だった。
「チッ、鬱陶しい風だね。僕のハサミでこの風ごと切り裂いてやろうか?」
カインが深紅の髪を揺らし、大鋏を構える。
「いや、無駄なエネルギーの消費は避けるべきだ。状況分析──この暴風の結界は、中心にいる者が意図的に展開している。力任せに破れば、相手の命に関わるぞ」
**【黄金】**の髪をなびかせ、同じ色の天秤盾を前面に押し立てて風をいなすレオン。流石は規律の男、冷静な分析だ。
「ふふ、じゃあ私の出番はなさそうね。あの嵐のド真ん中にいるじゃじゃ馬さん、一体どんな顔をしているかしら?」
サシャが紫色の髪を抑えながら妖艶に微笑む。
断崖の最上階、暴風の目が渦巻く切り立った崖の先──。
そこに、一人の**【新緑】**の髪を持つ少年が、光り輝く【嵐の疾風弓】を限界まで引き絞ったまま、虚空に向かって絶叫していた。
「来るな……! 僕に近づくなッ! 誰も彼も、僕を道具として縛り付けようとするなァァッ!!」
彼の名は『シオン』。
類稀なる射手の才能を持ちながらも、その圧倒的な力故に、かつて所属していた傭兵団から恐れられ、裏切られ、最後には強力な魔導の呪いで力を暴走させられた。何者にも縛られたくないという純粋な『自由への志』が、呪いによって周囲を拒絶する狂暴な嵐へと変質してしまっているのだ。
シオンが放った一本の光の矢が、大気を引き裂きながら、俺たちの足元へと着弾し爆発する。
ドドォォォォォンッ!!!
「状況把握。──誰にも縛られたくない、か。いい志だ。けどな、シオン。お前が本当に求めてるのは、世界を拒絶する嵐じゃなくて、行きたい場所へ自由に飛べる『翼』なんじゃないのか?」
俺は六色の極彩色の髪を弄りながら、不敵に口元を歪め、暴風の渦巻く断崖へと一歩を踏み出した。
縛り付けようとする世界のルールを全て置き去りにする、神速の蹂躙が再び幕を開ける。




