第34話:天秤の帰還と、新たなる『風』
レオン(天秤座)を仲間に加えた俺たちは、荒野の激しい砂埃を後にし、再び大森林の『豊穣の泉の要塞』へと帰還した。
「状況把握。──レオン、傷の具合はどうだ?」
「問題ない、シリウス様。フェリス殿の治癒魔導と、ゴルド殿が用意してくれた宿舎の環境は完璧だ。……我が身に刻まれた『天秤座の星痕』も、驚くほど安定している」
要塞の中央広場で、レオンは漆黒の長髪を端正に整え、身の丈ほどもある【正義の天秤盾】を傍らに置いて静かに一礼した。そのオッズアイの瞳には、かつて荒野で孤立無援だった頃の悲壮感はなく、俺という『絶対法』を得たことによる確固たる平穏が宿っていた。
「ガハハ! 気に入ってくれたなら何よりだ、レオン! お前のような頑強な盾の戦士がいれば、我が要塞の防衛陣形はさらに強固なものとなる!」
ゴルドが太い腕を組み、満足げに胸を張る。
「フン、堅物が一人増えたくらいで調子に乗るなよ。僕のハサミの絶対破壊があれば、どんな敵の盾だってパリンと一撃だけどね」
カインが深紅の髪を弄りながら、不敵に笑って大鋏を肩に担ぎ直した。
「まぁまぁ、カイン。レオンの盾は味方を守るためのものなんだから、喧嘩を売るんじゃないの。ねぇ、シリウス?」
レンがオッズアイの目を細め、俺の腕にしがみつきながらクスクスと微笑む。
「状況把握。──身内同士で争うのはだるいからな。仲良くやれ」
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げた。
黒髪の内側で妖艶に、そして力強く蠢く六色のインナーカラー──サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅、そして黄金。
六つの星痕のバフが重ね掛け(スタック)された俺の魔力は、ただそこに佇んでいるだけで、大森林の空間そのものを歪めて固定化するほどの圧倒的な神域を形成していた。
「それにしても、これで6人目……ちょうど半分ね。私たちの『極彩色の魔王軍』も、ずいぶんと賑やかになってきたじゃない?」
サシャが紫色の髪をなびかせ、妖艶な視線を俺に投げかける。
「ああ。だけどな、状況把握──。世界は俺たちがこうしてのんびり宴会をするのを、どうやら許してくれないみたいだ」
俺がそう呟いた瞬間。
胸の奥に刻まれた星痕のレーダーが、これまでの誰よりも激しく、まるで暴風雨のように荒々しい『波長』を感知し、ドクンと大きく跳ね上がった。
今度の気配は、大森林の遥か『西』──。
絶え間なく雷雲が渦巻き、吹き荒れる嵐がすべてを拒絶する、天空に最も近い『嵐の断崖地帯』。
魂のレーダーを通じて脳内に流れ込んできたのは、圧倒的な「自由」と、何者にも縛られない「疾風の志」。
だがその奥には、あまりの強大さ故に誰からも理解されず、孤独の中で暴走し、自らの嵐に溺れかけている、哀れな『悲鳴』が混ざり合っていた。
イメージの奥に浮かび上がってくるのは──すべてを射貫き、大気を切り裂く『一本の矢』。
(──**『射手座』**。今度は、かなりすばしっこくて、じゃじゃ馬な奴が待ってそうだな)
「シリウス様? また、新しいお仲間の予兆ですか……っ?」
フェリスがサクラピンクの髪を揺らし、期待に満ちた目で俺を見上げる。
「ああ。状況把握──。堅物の歓迎会が済んだら、次は西の嵐の中に突っ込むぞ。俺たちのところに引きずり込むべき『7人目の身内』を、その暴風ごと俺の腕で掴み取ってやるわ」
俺は不敵に口元を歪め、六色の光を放つ前髪を弄った。
無能と追放された黒髪の皇子が率いる極彩色の魔王軍。その進撃の嵐は、世界そのものを巻き込むために、さらにその速度を増していく。




