第32話:断罪の槍と、揺るがぬ天秤
「フン、往期生際の悪い奴め! 囲んで一斉に突き殺せッ!」
荒野の衛兵たちの容赦のない槍の雨が、レオン目がけて一斉に繰り出される。
四方八方からの死角なき同時突き。しかし、レオンは漆黒の長髪を風に揺らしながら、その身の丈ほどもある【正義の天秤盾】を一切の迷いなく地面へと叩きつけた。
ギィィィィィンッ!!!
凄まじい火花とともに、放たれた全ての槍が天秤盾の強固な装甲に弾き返される。
レオンは一切の感情を排した冷徹なオッズアイを光らせ、大盾の裏側から卫兵たちを静かに見据えた。
「状況分析。貴様たちの攻撃は、法に拠る正当性を欠いている。故に、我が盾を破ることは適わない」
「黙れ! 数の暴力の前に、いつまでその大言壮語が持つか試してやるわ!」
激昂した衛兵たちが、今度は第二波、第三波と波状攻撃を仕掛けようと距離を詰める。
傷口から血を流しながらも、一歩も引かずに法を体現しようとするその姿は、痛々しいほどに孤高だった。
(状況把握。──フン、言葉が通じない組織に正論をぶつけてもだるいだけなのに、本当にクソ真面目な天秤だわ)
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げ、砂埃が舞う岩舞台へとゆっくりと姿を現した。
黒髪の内側で激しく主張するサクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅の五色のインナーカラー。スタックされた五つの星痕のバフから放たれる圧倒的な『覇気』が、荒野の熱風さえも一瞬で冷え伏せさせる。
「な、何だ貴様は!? 部外者は引っ込んでいろ!」
一人の衛兵が俺に気づき、槍の切っ先を向けてくる。
「部外者、ね。状況把握──五人がかりで一人のボロボロをなぶり殺しにしようとする法が、どこの世界にあるんだよ」
俺が一歩を踏み出した瞬間、音速を超えた風圧だけで、俺の前に立ち塞がろうとした衛兵が三人まとめて空中へと吹き飛んだ。
「なっ……速──!?」
レオンのオッズアイが、驚愕に大きく見開かれる。
「ゴルド、サシャ。周囲の有象無象の片付けを頼む。法だの何だのと騒がしい連中を、少し静かにさせてやれ」
「ガハハ! お任せを、我が主! 荒野の法ごと、我が大槌で叩き潰してやりましょう!」
「ウフフ、私の毒で、彼らの歪んだ正義をドロドロに溶かしてあげるわ」
ゴルドの大槌が大地を割り、サシャの紫毒が残りの衛兵たちを次々と無力化していく。ものの数十秒で、ライブラを追い詰めていた衛兵たちは一人残らず這いつくばることとなった。
「……貴様、何者だ。なぜ指名手配犯である私を助けた」
レオンが警戒を緩めず、天秤盾を俺へと向け直す。その瞳の奥には、裏切りによって傷つきながらも、決して折れない重厚な『志』が宿っていた。
「状況把握。──お前が信じてるその『法』ってやつ、ずいぶんとしんどそうだな、レオン」
俺は五色の極彩色の髪を指先で弄りながら、不敵に口元を歪めた。
「だったら、お前のその天秤、俺のところで使ってみないか? 世界の歪んだルールを、お前の法で丸ごと裁き直させてやるよ」
俺の言葉に、レオンの持つ天秤盾が、これまでにないほど激しく共鳴するように震え始めた。




