第31話:荒野への進路と、堅物の天秤
大森林に束の間の平穏をもたらした俺たちは、次なる星の戦士──『天秤座』の器が放つ重厚な波動を追い、遥か南へと進路を取っていた。
大森林の瑞々しい緑が次第に途切れ、目の前に広がり始めたのは、乾燥した赤茶けた大地と、牙のように鋭く聳え立つ岩山が連なる広大な荒野だった。
「うぅ……シリウス様、ここ、風が強くて砂埃がすごいです……っ」
フェリスがサクラピンクの髪を片手で押さえながら、ゴーグル越しに周囲を見回す。
「状況把握。──大森林とは環境がガラリと変わったな。水場も少なそうだわ」
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げ、五色のインナーカラーを揺らした。
アリエスからキャンサーまで、五つの星痕のバフがスタックされた俺の肉体は、この程度の酷暑や乾燥など微塵も苦にはならない。脳内のレーダーは、この荒野のさらに奥、険しい岩山の峡谷から放たれる『歪んだ規律の気配』をハッキリと捉えていた。
「ねぇ、シリウス。さっきから感じるこの気配……なんだか、すごく息苦しいくらいに生真面目というか、ガチガチに固まった『志』が伝わってくるんだけど」
レンがオッズアイの目を細め、つまらなそうに唇を尖らせる。
「フン、規律だの正義だの、そんなものは力なき者が縋るただの幻想さ。帝国が掲げていた『法』が、どれほど汚れていたか、僕は身をもって知っているからね」
カインが深紅の髪を逆立て、背負った大鋏の柄をキチリと鳴らした。
「まぁまぁ、二人とも。その頑固な『法』が、これから我が主の前にどうやってひざまずくのか、見ものじゃないか」
ゴルドがハハハと豪快に笑い、ササャも紫色の髪をなびかせながら、「ふふ、どんな堅物かしらね」と妖艶に微笑む。
俺たちがさらに岩山の奥へと足を進めると、突如として、前方の開けた岩舞台のような場所から、激しい金属音と怒号が響いてきた。
「諦めろ、大罪人ライブラ! お前がどれだけ『法の番人』を気取ろうとも、上層部がお前を『反逆者』と定めたのだ! 大人しく首を差し出せ!」
十数人の完全武装した荒野の衛兵たちが、一人の『漆黒の長髪』を持つ大盾の戦士を包囲していた。
その中心に立つ戦士──ライブラの器である『レオン』は、全身に無数の刃傷を負いながらも、その身の丈ほどもある【正義の天秤盾】を微動だにせず構え、冷徹なまでの声音で言い放った。
「断る。私は上層部の私欲ではなく、ただ『絶対の法』に従うのみ。罪なき開拓民を虐殺せよという命は、法に悖る。……故に、私を罪人とした貴様たちの命令こそが、真の違法である」
「黙れ! 屁理屈を! 一斉に突き崩せ!」
衛兵たちの容赦のない槍の雨が、レオンへと降り注ぐ。
レオンは己の正義を貫いたがために、信じていた組織から裏切られ、大罪人の汚名を着せられて孤立無援の戦いを強いられていた。他者の感情に流されず、ただ『法』という絶対のルールだけを信じて盾を構え続ける、頑なで不器用な『志』。
(状況把握。……本当に、どいつもこいつも頑固で、不器用な奴ばかりだわ)
俺は不敵に口元を歪めると、五色の輝きを放つ髪を弄りながら、一歩前へと踏み出した。




