第30話:極彩色の軍勢、次なる『志』へ
第二天翼騎士団の三千の軍勢が、大森林の肥やしとなって全滅したという報せは、帝国全土を文字通り震撼させた。
かつて無能と蔑み、ゴミのように捨てた第一皇子シリウス。彼が統べる『豊穣の泉の要塞』は、今や帝国にとって触れることすら許されない「神域の絶対禁足地」へと変貌していた。
「状況把握。──まぁ、これでしばらくは帝国も大人しくなるだろ。だるい横槍が入らなくなったのは上出来だわ」
俺は要塞の最上階、初夏の心地よい風が吹き抜けるテラスの特等席で、ものぐさそうに背もたれに寄りかかった。
前髪を掻き上げると、内側で鮮やかに明滅する五つのインナーカラー──サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、そして深紅。
アリエスからキャンサーまで、五つの星痕のバフが完全にスタックされた俺の肉体と五感は、もはや世界の理そのものを書き換える領域に達しつつある。
「シリウス様、冷たいお水のおかわりです! あと、ゴルドさんたちが下で宴会の準備をしてますよ!」
フェリスがサクラピンクの髪を弾ませ、トレイを手にパタパタと駆け寄ってくる。
「ありがとな、フェリス。……お、もう始めてるみたいだな」
眼下の広場を見下ろすと、早くも豪快に肉を焼き始めているゴルドや、魔族の民たちの賑やかな声が響いていた。
「フン、あの傲慢な騎士団を叩き潰した後の酒だ、美味くないはずがないわな」
背負った大鋏の刃を軽く弄りながら、深紅の髪の少年カインが不敵に笑う。
「僕たちの幻術に引っかかって、右往左往してたあの将軍の顔、傑作だったよね」
レンがオッズアイの目を細め、クスクスと悪戯っぽく微笑んだ。
「本当にねぇ。私の毒を味わう暇もなくカインに一刀両断されちゃうなんて、ちょっと贅沢すぎるくらいよ」
サシャも紫色の髪を揺らしながら、妖艶な笑みを浮かべてグラスを傾ける。
世界から弾き出され、孤独に震えていた星の戦士たち。彼らが今、俺の造ったこの居場所(要塞)で、誰を疑うこともなく心から笑い合っている。
(状況把握。……だが、俺たちの『仲間集め』は、まだこれで終わりじゃねぇんだわ)
フッと視線を落とした俺の胸の奥で、星痕のレーダーが突如として、これまで以上に『巨大で、重厚な波動』を感知し、ドクンと激しく脈打った。
今度の気配は、大森林の遥か『南』──。
広大な荒野と、険しい岩山が連なる未開の地。
魂のレーダーを通じて脳内に流れ込んできたのは、圧倒的な「規律」と、不器用なまでに真っ直ぐな「正義」。
周囲のすべてが汚職と裏切りに染まろうとも、ただ己の掲げる絶対の法だけを信じ、頑なに盾を構え続ける、果てしなく不器用で気高い『志』。
イメージの奥に浮かび上がるのは、善悪を厳格に見極める巨大な『天秤』──。
(──**『天秤座』**。次に出会う奴は、相当規律にうるさい堅物っぽそうだな)
「シリウス様……? どうかされたんですか?」
フェリスが不思議そうに首を傾げ、俺の顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもない。──状況把握。新入りたちの歓迎会が終わったら、次は南へ遠征だ。俺たちのところに引きずり込むべき『6人目の身内』が見つかった」
俺は前髪を弄りながら、不敵に口元を歪めた。
黒髪の内側で蠢く五色の輝きが、次なる星との共鳴を予期して、一際強く、極彩色の光を放ち始める。
無能と呼ばれた皇子が、5つの星と共に世界を塗り替える。
極彩色の魔王軍による次なる旅路が、今、静かに幕を開けようとしていた。




