第26話:帝国驚愕、そして反撃の狼煙
カイン(蟹座)を仲間に加え、帝国の先遣隊五百を文字通り一瞬で壊滅させた俺たちは、再び豊穣の泉の要塞へと帰還していた。
カインの傷はサシャの調整した解毒薬とフェリスの看病によってすっかり癒え、今や彼は深紅の髪を揺らしながら、要塞の強固な石壁の上で不器用そうに佇んでいる。
「状況把握。──体の調子はもういいみたいだな、カイン」
「……シリウス。別に、お前に感謝なんてしてないからな。僕はただ、僕の居場所を奪った帝国に一太刀報いるまで、死ぬわけにいかないだけだ」
大鋏を背負い直しながら、ツンと視線を逸らすカイン。だが、その胸元で怪しく明滅する『蟹座の星痕』は、俺への絶対的な忠誠と信頼を隠しきれていなかった。
「いいぜ。素直じゃないのは嫌いじゃないわ。──それより、ゴルド、例の『おもちゃ』の準備はできたか?」
俺が声をかけると、内郭の作業場からゴルドがニヤリと岩石のような顔を歪めて現れた。
「ガハハ! 魔王様、いつでもいけますぞ! 我が『神域の建築術』と、レンの幻術、そしてサシャの毒を組み合わせた、帝国への最高の『嫌がらせ』の仕掛けがな!」
俺の黒髪の内側では、サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、そして深紅の五色のインナーカラーが、眩いばかりの極彩色の輝きを放っている。
五つの星痕のバフがスタックされた今の俺の頭脳と力は、ただの防衛に留まるつもりは毛頭なかった。
「よし、状況把握。──それじゃあ、森を焼き払おうとした傲慢な帝国の大物どもに、極彩色の『ざまぁ』を届けてやるとするか」
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その頃、大森林の国境沿いに位置する帝国の前線本陣では、異様な緊張感が張り詰めていた。
「報告します! 先遣隊五百、消息を絶ちました! 国境付近の森林地帯に、突如として『視界ゼロの巨大な紫の霧』と、『近づく者を狂わせる鏡の壁』が出現! 偵察部隊がことごとく発狂、あるいは生還していません!」
「何だと……!? 先遣隊五百が、ただの亜人の集まりごときに全滅させられたというのか!?」
本陣の幕舎で、第三烈火騎士団の将軍が机を激しく叩きつけた。
「それだけではありません! その霧の奥から、巨大な光の文字で、我が国に向けてこのようなメッセージが浮かび上がっていると……!」
「文字だと? 何と書いてある!」
斥候の兵士は、恐怖にガタガタと唇を震わせながら、その内容を口にした。
『状況把握。これ以上この森を荒らすなら、次はそっちの帝都を一瞬で要塞に変えてやる。 ──極彩色の魔王・シリウス』
「な、無能の第一皇子シリウスだと……!? 馬鹿な、魔法も使えぬあの出来損ないが、大森林の化け物どもを従えているというのかッ!?」
将軍の絶叫が幕舎に響き渡る。
かつて国を追放した『黒髪の無能』が、今や帝国の喉元に刃を突きつける絶対的な『魔王』として君臨している──その冷酷な現実を、帝国はまだ、何も理解していなかった。




