第21話:魔王の凱旋と、次なる星の予兆
迷いの霧の谷を攻略し、4人目の星の戦士であるレン(双子座)を仲間に加えた俺たちは、豊穣の泉の要塞へと帰還した。
「シリウス様、お帰りなさいませ……っ!」
要塞の重厚な石門が開くと同時に、ゴブリンやリザードマン、そして魔族の兵士たちといった数百の民が、地鳴りのような大歓声で俺たちを迎えてくれた。
「──みんな、ただいま。留守中、異変はなかったか?」
俺はものぐさそうに右手を挙げ、民たちに声をかけた。
俺の前髪の内側では、サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、そしてレンとの共鳴で灯ったプラチナシルバーの四色のインナーカラーが、夕暮れ時の要塞を美しく照らしている。
「はっ! シリウス様! 留守中はサシャ様の『魔毒の城壁』のおかげで、野生の魔物一匹近づきませんでした!」
見張り台から駆け下りてきたゴブリンの戦士が、誇らしげに胸を張る。
「ふふ、役に立ったみたいで良かったわ」
サシャが紫色の髪をなびかせ、満足げに微笑んだ。
「さぁさぁ! 新入りも増えたことですし、約束通り大歓迎会の始まりですよーっ!」
フェリスがサクラピンクの髪を弾ませ、要塞の中央広場へと皆を誘導する。
ゴルドがその巨躯を揺らし、即座に大槌を地面へと振り下ろした。
『神域の建築術』によって、広場には一瞬にして巨大な木製の宴会机と、数え切れないほどの椅子が組み上がっていく。その光景を初めて目の当たりにしたレンは、オッズアイの目を丸くして驚いていた。
「へえ……これがゴルドの力なんだ。僕たちの幻術とは違って、本当に『本物』を作り出しちゃうんだね。面白いや」
レンは少年のような、あるいは少女のような不思議な声を響かせ、俺の隣の席にちょこんと腰掛けた。
宴が始まれば、そこはもう種族の垣根を越えた混沌とした狂騒の場だった。
ミノタウロス族が豪快に肉を焼き、ゴブリンたちが給仕を仕切り、かつては侵略者だった魔族の兵士たちがリザードマンと笑顔で酒を酌み交わしている。
世界から『欠落』として弾き出された者たちが、俺の造ったこの要塞(居場所)の中で、ただの「仲間」として笑い合っている。
「良い国になったわね、魔王様」
サシャが果実酒のグラスを傾けながら、妖艶な視線を俺に向けてくる。
「国、ね。俺はただ、ものぐさに静かに暮らしたいだけなんだけどな」
俺は串焼きの肉を頬張りながら、苦笑交じりに応えた。
だが、そんな穏やかな喧騒の最中──。
俺の胸の奥にある星痕のレーダーが、突如として別の『強い波長』を感知し、ドクンと激しく脈打った。
(状況把握。……今度の気配は、大森林の『東』……人間の帝国との国境付近か?)
その波長は、これまでの星の戦士たちのものとは明らかに異なっていた。
深く張り詰めた、まるですべてを切り裂く刃のような、圧倒的な『闘気』と『殺意』。
これまでの仲間たちは、孤独や理不尽な環境から「救いを求める志」を持っていた。だが、東から感じるこの気配の主は、絶望の最中にありながらも、決して折れることなく、ただ一人で世界の理不尽を呪い、戦い続けようとする苛烈な『志』を放っていた。
イメージの奥に浮かび上がってくるのは──天をも貫く巨大な『鋏』。
あるいは、一度掴んだ獲物を決して逃さない、冷徹な一撃。
(──**『蟹座』**。今度は、かなり骨のある奴が待ってそうだな)
俺は飲み干したグラスを机に置き、不敵に口元を歪めた。
髪の内側で蠢く四色の光が、さらにその色を増そうと激しく明滅を繰り返している。
極彩色の魔王軍、大森林統一に向けた次なる進撃の足音が、静かに響き始めていた。




